俺と友人とこの世界と

第61話 子供のような友人を見て自惚れきった思いを抱く

魔王との闘いから一週間が経とうとしていた。


俺達は王都の騎士団から逃れるため第5区近くの森に身を潜めて体制を整えていた。


チルハの錬成した迷彩柄の大きなテントを拠点として、魔獣を殺して食べたり、ウーサーに頼んで第5区から食べ物を買ってきてもらうなどして生活をしている。


俺はそこから少し離れた場所に現れた魔獣を倒し、今日の夕飯にでもするかと担いできたところだった。


「うわぁ!!ゴースケそれ夕飯のおかず!?大漁だな~!!」


居住地につくと天音がひな鳥のように俺の周りを駆け回った。


「何にしよっかな~♪からあげ?ステーキ?迷うな~♪」


この通り、天音はすっかり回復し、傷だらけだった顔も身体も元の健康的なものに戻っている。回復魔法の少女は思った以上に優秀だった。王都の騎士団に狙われる理由もわかる。

俺達は助けてもらったお礼に、再び王都の騎士団に攫われないように、透明になれるアランがその少女の護衛をしたりもしている。


「あ、ゴースケ上から小さい魔獣が攻撃してくる」


俺は地面に今日の食材を置くと、地面に突き刺さりそうな勢いでこちらに襲ってくる小さな魔獣を殴って倒した。


この通り、以前に増して魔獣は増えている。俺達は確かに魔王を戦闘不能にまで追い込んだものの、あの不死身の魔王は再び復活しているのだろう。


「あの時王都の騎士団の洗脳は解けてたし、そういうわけでもないと思うよ」


また心を読んでいたのか。ということは俺達と魔王どちらの味方でもないということか?


「うん。多分。アイツら俺達と魔王どっちも捕獲するつもりだったっぽいしね」


あの日、最後に見た魔王の姿は、『いかないで』と吐息だけで口にする、風邪をひいた子供が一人になりたくないと弱弱しい駄々をこねるような姿だった。


もしかして、あの時、魔王は俺達に助けを求めていたのだろうか。命乞いをしていたのだろうか。あれほど強い魔王が何故?


「わからん!!!!な~んもわからん!!騎士団の目的も魔王の目的もわかんないよ~!」


天音はやけになったように騒ぐ。あの短い時間と過酷な状況では無理もない。むしろそれだけでも読み取れたなら十分だ。


俺は最初に倒した食材とたった今倒した小さな食材を再び担いだ。


「それにしてもお前よく働きすぎじゃね?」


天音の言う通り、俺は魔物の討伐、深夜の見張り、掃除洗濯、移動の足など、協力できることは全て積極的に精力的に行っていた。


俺はあの日、仲間を自分の手で傷つけてしまったことがどうしても許せなかったのだ。これはエゴで自分勝手な償いだ。だが自分を慰めるためにもみんなのために動いてないと気が済まない。


「ネガティブだな~~お前!めんどくせー奴~~」


天音はケラケラと笑いながらストレートに言った。否定はできない。実際、他の仲間たちも俺がやった事は洗脳されていたからと割り切っているのか全く気にしていなそうな様子だ。


「ま、そういうめんどくせ~とこがお前の美点だと思うけどね!!じゃ、俺この魔物捌いてくるね!!」


天音はそう言って、嵐のように俺の前から姿を消した。

面倒くさいところは果たして美点なのだろうか。



その日の夕飯は岩山のように積み上げられた、から揚げだった。

あまりにも多いため、ウーサーや回復魔法の少女も呼び、その日の夕飯はにぎやかだった。


「こんな美味しい食べ物初めて食べました」


回復魔法の少女―エリスは、ニコニコと幼気な笑みを浮かべ感想を述べる。天音はそれを見て嬉しそうにから揚げをエリスの皿にのせた。


「姐さん常識無いのに料理は本当にうまいッスよね!!」


「お?喧嘩売ってんのか~?」


前世から天音は料理が趣味でもあったらしく定期的にSNSにオシャレな料理をあげてチヤホヤされるなどしていたらしい。ちなみに俺はオシャレなタイプのSNSはやっていなかったので、この世界にくるまでその事実は知らなかった。


「あれから王都の騎士団はどう?」


「今、第5区を中心に光の勇者の聞き込みのようなものを行っているようだ。当分は俺がこの2人についているつもりだ」


今日、ウーサーとエリスのボディーガードを務めていたアランが答える。透明になれるアランがいればとりあえず安心だろう。


「…最近目に余るよな」


ウーサーが俯きながら呟いた。


「何が?アランのウザさ?」


「ん~?ハニー??」


大人が無駄にふざけるな。


「王都の騎士のやり方…ですよね?」


「あぁ。段々乱暴になってきてるよな」


子供たちは顔を合わせて、暗い顔になった。


「どういうことやの?騎士団もなりふりかまわなくなってきとるんかな…」


天音は難しい顔をしながらからあげを頬張る。


「いや。乱暴と言っても、威圧的な態度が少し強くなったぐらいなんだけど…」


「まぁエスカレートしてきていると言っても過言ではないだろうな」


みんなには言わないのかよ。といったようなウーサーの批難するような視線から察するに、天音が光の勇者だと知っているのは俺とウーサーだけになるのだろうか。

天音はそんなウーサーの視線に気づいてないふりをしながら「ひどい奴らだなぁ」と他人事のようにぼやいた。


「…ちょっと気になるし、俺も明日はついていっていい?」


それでも、責任のようなものを感じているらしく、さりげなく様子を見に行くことを決めたようだ。


俺は、天音がからあげを揚げた後に熱してくれた岩を頬張る。みんなと同じものを食せないということが最近少し寂しく感じる。俺は根本的に違う生き物であることを思い知ってしまうのだ。

おかしいな。前世ではコミュニケーションが苦手だったから今世ではゴーレムになれてラッキーだなんてあんなに思っていたのに。



「え~ゴースケ一緒に寝ないの」


その夜。寝床で天音意味の分からない事を言いながら俺をこねくり回した。

やめろ。このやりとりは何回目だ。俺はこれから見張り番をするんだ。


「だからお前働きすぎだって~一緒に寝ようぜ~!」


チルハがいるだろうが。寂しがり屋め。第一俺だってホントは男子テントで寝る必要があるわけで


「でもお前ゴーレムじゃん~お前がいた方が楽しいよ~」


俺はヒートのようにお前を慕うこともチルハのようにかわいくすることもアランのような気の利いた会話をすることもできん。


「お前こじらせてんな~比べるもんじゃないだろ~」


ケラケラと笑いながら天音は俺を振り回す。子供か。

俺は人間よりも体力の減りが少ないんだ。パーティの誰かに見張りをさせるわけにもいかないだろ


「うう…わかったよう…寝るもーん」


少しすねたように言ってから、ふわりと振り返り「おやすみ!」と微笑んで女子テントに入っていった。


……この様に、少しずつ日常に戻っていく中


俺は時々厚顔無恥な考えがよぎってしまう。

いや、それでも天音の隠していた空白の2年間についてを知ったら嫌でも思ってしまうだろう。


――――――天音は俺に気があるのではないか?

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