第60話 安心しきった友人は眠りについた
「ウーサーは大丈夫?」
「はい!!俺達と合流して城の状況を伝えたら疲れて眠ってしまったッス!」
「驚くことに怪我一つ無い…トレビアンな少年だな」
対魔王戦の功労者であるウーサーは思ったより顔色が良かった。
こんあに細くて小さな少年は俺達が思っていた以上にずっと強い男だったんだな。本当に助かった。
「そっか。よかった……………………………………」
ウーサーの安否がわかった途端、安心感からか天音の全身の力が抜け、電池が切れたように目を閉じた。
「ひわわわわ!!!!天音ちゃん!?死んじゃった?!」
死んでないよ。心地よさそうに呼吸している。
ただ、怪我と疲労がひどいのは事実である。俺の腕の中なんかよりも安静できる場所で寝かせてやりたい
「見たところストーンキャット達は戦いが終わった後も何かに追われていた様子だったな」
アランの言葉に頷く。そうだ。まだ、全く安心できる状況ではないのだ。
「後でゆっくり話を聞くとしよう。今はとりあえず全員で透明になって第5区の回復魔法のレディに助けを求めよう」
そういえば、天音やアランが俺に攻撃されて大怪我を負わされてもピンピンしていたのは、以前誘拐されかけていた回復魔法持ちの少女のおかげだという。今すぐにでも感謝をしたい。
とりあえず、天音を最も安心できる状況にしなくてはならない。俺は腕の中で眠る天音をアランに託した。意外と筋肉のあるアランは難なく姫抱きをして受け取る。
チルハとヒートがアランの服の裾を掴んだ。全員で透明になるフォーメーションだ。
しかし、俺は、なんとなく一歩後ずさってしまった。
「どうしたストーンキャット?透明になるのだろう?こちらにこないのか?」
俺は……
本当にその輪に入っていいのだろうか。その手を掴んでいいのだろうか。
運よく回復魔法を使える少女に助けてもらえたからよかった、チルハとヒートの機転によりあの日いちはやく城から脱出したからよかった。
しかし、もしそのどちらかが欠けていたら、俺は確実にアランを殺していたのだろう。
いくら洗脳されていたからと言っても、その事実は変わらない。
天音が俺を甘やかそうと、やはり俺は自分を許せない。
そうだ。俺がこの場で囮になればいい。なんなら、城まで行って、王都の騎士団を倒しにいくのもいい。
俺はパーティのみんなに背を向けた。
「待てストーンキャット」
アランがいつもより険しい声で俺を呼び止めた。
「俺は生憎、手が塞がっているのだ!君から来てもらわないと困るな!!」
ありがとう。そして本当にすまなかった。
俺にそんな資格は無い。
俺は一礼をして、首をやんわりふるふると振った。
それを見て3人は顔を合わせて何やら話始めてニヤリと笑った。
俺はこの意識のままそんな楽しい会話に混ざれるわけがない。
再びゆっくりと背を向け城に向かおうと足を動かした。
すると、突如、俺の足を進めた先に花火のような爆発が起きた。さすがに歩みが止まる。
気づいたらチルハとヒートが俺の両脇をホールドしていた。腕を振れば簡単に振り払えるが、そんな危険な事が俺にできるわけがなかった。
「ゴースケさん!!そんなカッコいい事させませんよ!!」
「ゴースケくんの毒も回復せなあかんやろ!!」
凸凹コンビは俺を引っ張る。ゴーレムの俺を人間の2人がひっぱってどうにかできるはずもなく俺は微動だにしない。
見かねて天音を抱えたままアランが歩み寄った。
「ストーンキャット、君はただでさえ魔獣の群れと戦って疲れているだろう2人に、そんな力を使わせるのか?」
……意地悪な言い方をする。
俺は観念して、木からはみ出ない程度に巨大化をして、チルハとヒートを肩に乗せた。
そして勝ち誇った笑みを見せているアランと気持ちよさそうに眠る天音とウーサーも乗っけた。これで全員まとめて透明になったのだろう。
「いつかの仕返しができたぞストーンキャット」
アランの言葉で、コイツが初めてパーティに加わった日を思い出した。俺が力づくでパーティの輪の中にぶち込んだだったな。
「少し傷つけたぐらいでしおらしくする必要は無いさ、許し合うのがパーティだ」
あの、個人主義のアランがこんな事を言うとは思わなかった。
その少しクサイ台詞と、達成感に満ち溢れたチルハとヒートの顔を見て
「今度こそ仲間を誰にも、王にだって、神にだって、傷一つつけさせない」と少しクサイことを心の中で誓った。
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