第59話 仲間と一緒の友人は幸せそうに笑いだした
――城から飛び出すとき、魔王が目を開いているのが見えた。
確かにあの時、魔王の口はこう動いていた。
「いかないで」と
――――――――――――――――――――――――
そんな後ろ髪引かれる情景を一旦捨てないといけない。
俺はその光景を振り払うように首を振り、全速力で走っていた。
段階ごとに、縮小化して森の中に紛れていく。
最初は手のひらの上にのせていた天音を、姫抱きで走るのが適正な大きさになった。
「ゴースケ、あいつら洗脳解けてた」
そんな天音の声には吐息の音が多分に含まれ、戦闘によるランナーズハイ状態が終わり、どっと疲れがでてきたことを察する。
「でも確実に俺達に敵意があった」
どういうことだ?洗脳されていたから攻撃したわけじゃないのか?
……とはいえ、いままで散々小競り合いしていたからな。睨まれてても仕方ない。
「違う、そうじゃないんだよ」
天音が何かを続きを言おうとした時
「…っゴースケ伏せ!!!!!!!!」
言葉通り慌てて伏せた。犬か俺は。
天音の言葉通り右から魔獣が飛び込んでくる。
ありがとう。助かった。
俺は天音を抱いたまま魔獣に蹴りを入れ怯ませた。再び走り出す。
「うっわ~…お前やっぱ強いね…マジで敵にならないでよかった…」
お前をそんなにボロボロにさせる奴が強いわけないだろ。
「ほっんとネガティブだな~お前~」
それにしても魔王は倒されたというのに魔獣が消えるわけじゃないんだな
「魔王は改造した野生の動物を洗脳して魔獣にしてたみたいだから、洗脳が解けて混乱してるのかも」
そういう仕組みだったのか。
俺は度々前に立ちはだかる魔獣を蹴散らしながら進む。
やがて、一本道の目の前に魔獣の群れが現れた。
あまり巨大化すると、場所を知らせてしまうことになり王都の騎士達に見つかってしまうかもしれないため、木の高さを超えない程度、天音を片手で抱えられる程度の大きさになった。
天音、しっかり捕まっていろ。そして一切口を開くな。舌を噛むぞ。
「あいよ~」
天音は緩く返事をして俺を掴む力を強くした。
それから俺はスライディングで群れに突っ込む。とりあえず今は殺さなくても戦闘不能にすればいい。
天音を離さないように片手だけで、一体一体丁寧に殴って倒していった。
思ったよりも早くその場にいる魔獣全員が地に伏せた。
「お前やっぱつえ~…笑えてきちゃう」
なんでだよ。
すると、何もない所から何人かがバラバラと駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
先程の王都の騎士団の登場を思い出してしまい身体が強張るが、この統率の取れてない足音は確実に王都の騎士団では無いだろうことをすぐに理解した。
「無事だったのかハニー!ストーンキャット!」
久々にきく溌剌とした声だった。
俺はキョロキョロと辺りを見回すすると目の前から段々とアランの姿が現れた。
相変わらず派手の仮面にタキシードという時代錯誤な見た目であるが、最後に見た姿が血まみれで横たわる姿であったため、その頓珍漢で元気な姿を見て安堵感が込み上げる。
アランの両脇から涙目の大男ヒートと目深にフードを被った小柄な少女チルハの凸凹コンビも現れる。よく見ると、ヒートは気持ちよさそうに目をつむるウーサーを抱えていた。この顔色なら無事そうだ。あぁ、全員無事だったのだ。
「アマネちゃん…!すごい怪我…」
「ゴースケさんを取り返してきたんスか…!?」
2人は泣きそうな声で心の底から心配そうに尋ねた。
先程まで、あんなに疲弊した様子を見せていた天音は、仲間に再開した途端、その期待と愛がエネルギーだとでも言うように、喜色満面でピースをした。
このかっこつけめ。
「この通り!大勝利してきた!!」
ヒートとチルハの表情がわぁっと明るくなる。
その勢いで、ご主人様が帰ってきた犬のように天音に飛びつくこうと走り出した……ところを、アランに首根っこを掴まれ抑えられていた。
助かる。チルハはともかくヒートの巨体で飛びつかれては、今の疲労困憊の天音では受け止めきれないだろう。
しかし、そんな冷静な判断をするアランも安堵感から思わず顔が綻んでいるようだ。
天音はそんな光景を見て、心の底から幸せそうに声をあげて笑っていた。
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