第56話 誰よりも光が似合う友人に幸せになってほしい
「?…ゴースケまだ痺れがとれないのですか?」
頷くことすらできない俺に、痺れを切らした女神様は、蹴り飛ばされたまま転がっている天音の元へ近づく。
「あちゃ~!俺の当てが外れちゃったかな?そういう時もあるよね!」
さすがにぐったりとしている天音だが、それでも煽るような口調で力なく笑った。
女神様が大きなため息をついてから瓦礫を持って、天音に振りかざした。
その瞬間
「…っ!?ぁあ゛っ?!」
魔王は突如瓦礫を手放して、床に転がり身悶え始めた。
明らかに様子が変だ。うつ伏せになって打ち上げられた魚のようになっている。
どういうことだ?まさか毒?魔王のすぐ不老不死の魔法の前には毒なんて効くわけがない。
「電気だよ」
天音は拘束されたまま芋虫のように這いずりながら女神様…いや、魔王から距離を取った。
「俺のナイフの刃、スイッチを押すと一定時間電気が流れるようになってるの」
まだ隠し持っていたカードがあったのか。
そういえば、魔王の背中には深々とウーサーの刺したナイフが刺さったままだった。
「不死身の魔法でも継続的な痛みにはさすがに抗えないみたいでよかった。不感症の可能性もありそうだったからハラハラしたよ~」
魔王は突如襲いくる痺れと戦っているようで、背中のナイフを取ろうと身もだえているが思うように筋肉が動かないようだ。ほとんど動けていない。
「お前は岩だし電気は効かないだろうから、あくまでも予備機能だったんだけど…マジで助かった…ナイフは初っ端蹴り飛ばされるしスイッチは吹っ飛ばされた時に壊れるしで、もう使えないと思ってたわ」
ケラケラと天音は種明かしをする。
用意は周到だったが、策は天音がその場その場で考えたものがほとんどの綱渡り状態だったのだろう。
天音の機転があってこそだ。
「チルハが予備のスイッチ持ってるから、ウーサーが城から脱出した後状況を伝えてくれたんだろうな…マジ、ウーサーのファインプレイとナイフを抜かずに戦い続けてくれた魔王の慢心が無かったら死んでたわ…日頃の行いって大事だね」
先程魔王が言っていたように異様な程に用意周到だ。
「どうしようもなく心配性の奴がいたんだよ。わかるだろ?」
なるほど、あの心配性の大男の要望を詰め込んだ結果、そんな用意周到な装備になったわけか。
「っぁ……っ…………………………」
魔王がピタリと動かなくなった
「マジ?!気絶した!?」
10秒間、俺と天音は黙って魔王を凝視した。
全く動く様子はない
白く、長い髪の毛が美しいクラゲのように広がっていた。
「…終わった…んだ…」
なんとも言えない幕引きだった。
王家の剣でぶった切るとか、全員の合体技で倒すとか、そんなドラマティックで派手なものではない。
それでも、間違いなく天音は光の勇者だと実感した。
俺が今までであった誰よりも、太陽が似合い、月に愛された、かっこいい奴だ。
「やったよ!ゴースケ倒したよ!」
天音は芋虫のままビタンビタンと足を躍らせ興奮していた。この姿はちょっと光の勇者には見えないな。
俺は、その喜びの舞いにより魔王から受けた攻撃の傷が痛むのではないかとハラハラしながら見ていた。
これで全部上手くいくといい。
みんなの洗脳は解け、魔物は消え、天音は正当な評価をされてみんなに愛されればいい。みんなに祝福され、愛され、幸せになってほしい。
心からそう思った。
「……待って」
間抜けな芋虫姿のままm突如シリアスな顔になった。テンションの高低差が激しすぎる。
「お前まだ動けないよね?」
頷きたいが頷けない。。今だに小指を動かすだけで痺れが走る。
「俺も動けない………アラン達は城に近づけない……」
つまり、今、どちらの陣も行動を起こせない。硬直状態にならざるを得ない。
魔王がそれまでに復活してしまう可能性が脳に浮かび上がった。
綱渡りの状況は終わっていなかったようだ。
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