第53話 ちゃっかりしている友人が今はとっても愛おしい
「オイ!何やってんだよ?!」
透明な縄を持ったままウーサーが天音に泣き叫ぶように駆け寄った。
「この通り!!」
顔に血飛沫をつけたまま天音はピースをする。
瀕死にも関わらず能天気な天音を見てから、ウーサーは急に冷めた目をした。
「…ゴースケ。正気に戻ったんなら教えてやるけど、コイツの血飛沫、嘘だよ」
は?
血まみれの天音を2度見してから目をこすり、もう一度2度見した。
天音はナハハと笑いながら懐から袋を出した。
「チルハの作った血のりでっす☆」
舌を出してコツンと自分の頭を叩いた。
一気に身体が脱力した。
「あれ、怒らないの?」
何言ってんだ。俺を正気に戻すためにやったことに文句をつけるわけないだろ。第一俺はお前やアランに許されないことを…
「反省会は後でにしよ」
口から喋っているわけではないのに、人間なら口があったであろう場所に人差し指をつきつけられた。
敵わないな。お前には。
その時
「戻ってしまったのですか。ゴースケ」
ほのかに温まりふわふわと浮かび上がっていたところを、冷や水を浴びせられ地べたに叩きつけらたような感覚だった。
「強い衝撃があると正気に戻ってしまう時もあるのです。確かに貴方の予想外な行動は私も驚きました。」
この人の声は小さく儚いのに、鋭く痛い。
「なんで…!縛ってたはずじゃ?」
ウーサーの声が震える。
「私は不死身なので。骨を折って間接を外して縄を抜けることぐらいたやすいのです。」
お前が責任を感じることは無いよ。とでも言いたげに天音はウーサーの頭に手をポンと置き立ち上がった。
魔王は少し厄介な虫を叩き潰した後のようにため息をついてから言った。
「戻ってきなさい。ゴースケ」
嫌だ。嫌だ。もう天音を傷つけたくない。
仲間を傷つけたくない。
「あなたを転生させたのは私なのに?」
心では抗っても、身体が覚えているかのように魔王の方に向いた。
頼む。天音、ウーサー。逃げてくれ。頼む。
「どういうことだよアマネ」
ウーサーがわなわなと震えながら天音の服の袖をつかんだ。
「魔王が言っていること、"本当"なのかよ…」
そうなんだ。
理由は全くわからないが、俺に第2の人生を歩ませてくれたのは間違いなくこの魔王なんだ。
きっと、俺はだからこそ他の生物よりもこの魔王の洗脳にかかりやすい。
頼む。天音、ウーサー逃げてくれ…!
「ゴースケ、あと54秒だけ抗って?」
突如天音がよくわからない事を呟いた。なぜそんな微妙な秒数を
わけがわからないが、従おう。俺は必死に天音の事を考え意識を保とうとする。
「忘れたのですかゴースケ、その強い身体を与えたのも私ですよ」
ゾワゾワと背中が粟立つ。まずい。持ってかれる…!
「確かにアンタには感謝してる。ゴースケを生き返らせてくれてありがとう」
天音は必死に洗脳から抗おうとしている俺の横を通りすぎ魔王の元に近づいた。魔王が忌々しそうに歯ぎしりをする。
「どうですか。私を殺し損ねて、性別まで変えて、手に入れた男を取られる気分は」
「別に手に入れてねーしゴースケは誰のものでないし。ってか結構俺の性別が変わってることもお気に召さない感じ?もしかして男のイケメンな姿の方がお好き?」
「調子に乗らないでください。女になってもその忌々しい顔が変わってなくて苛立っていただけです」
「マジか~バレないように性別まで変えたんだけどな~性別変えても俺のカリスマオーラは変わらないってわけね」
「言いたい事はそれだけですか?」
魔王はそう言ってから俺を見た。
「ゴースケ。この女を殺しなさい」
俺の身体は抗えなかった。目の前にいる天音を踏み潰そうと立ち上がった。
立ち上がろうとした。
立ち上がれない。
身体がかなしばりにかかったように動かない。動けない。
「どういう事…?ゴースケ。早く殺しなさい」
身体は今にも天音を踏み潰そうという動きを取ろうとしている。それでも俺の身体はびくともしない。ビリビリとした痺れのようなものも感じる
「ゴースケ…!!はやく!!」
魔王が初めて取り乱したように俺に命令をした。しかし
「無駄だよ」
あっけからんと天音が言った。
「いやぁ、よかったわ効果あって!!」
「どういうことですか」
唸るような低い声で魔王が言った。
「ちょおっとゴースケに毒盛っちゃった☆」
耳を疑いたくなるような言葉が聞こえたんだが。嘘だよな?
でもこの痺れには覚えがある。いつだったか、チルハが魔物に効く毒を研究するため俺で人体実験をしようとした時だ。
その場は頭突きで済ませたが、まさかこんなところで活きてくるとは…
いや、それより毒?!いつ盛ったんだ?!
「昨日の予告状覚えてる?」
今ならわかるが、恐らく第3区からヒルダの遠視の力をかりて飛ばしてきた予告状のことだな。
あの時間を守る気が無い全く意味の無かった予告状に何か仕込まれていたのか
「あれを運んでたドローン的な機械の部品にちょっと毒を仕込ませてもらいました☆お前が思い切り握りつぶしてくれたおかげで思った以上に効いたみたい。チルハが毒が効くまでの時間を計算してくれたんだけど怖いぐらいピッタリでビビちゃった」
ケロリととんでもない事を言って見せた。
「安心してねゴースケ!毒って言ってもしばらく麻痺するだけで死にはしないから!ま、俺もお前に殺されかけたし喧嘩両成敗ってことで!!!」
こ、こいつ…!!そうだ。天音はこういうやつだった…!
しかし、今はこの感じが懐かしいと同時にちょっぴり愛しい。
会いたかった、俺もきっとお前に会いたかったんだ。
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