第47話 友人は魔王は女神様は
――熱い中で死んだ俺は、その冷えた地面に胎盤の中にいるような心地良さを感じていた。
「あなたを特別に生き返らせてあげましょう」
真っ暗闇の中に現れたのは
白い少女
髪も肌も服装も全てが真っ白な天使のような少女だった。
髪は異様な程に長く、白い体躯に赤い瞳が輝いて見えた。
――そうだ。思い出した。
俺は、この少女によって二度目の人生を歩めることとなったのだ。
魔王なんかではない。この人は、この方は女神だ。
俺がお守りしなくてはならない。女神様。
「ゴースケ…?」
天音の震えた声により、白く靄のかかっていた視界が明けた。
微笑む魔王。横たわるアラン。青い顔をした天音。
あれ?何をしていたんだ…?俺は
仲間であるアランを潰した…?
でもアランは女神様を殺そうとしていた。
ひどい奴だ。許せない。なんでそんな事をしたんだ?
「お前っ!ゴースケを洗脳したのか!?」
聴いたことのない天音の泣き叫ぶような声が響いた。
あろうかとか、天音はナイフを構えて女神様に切りかかる
危ない!!!!
俺は天音をビンタして女神様から引きはがした。
「あ゛ぁああああああああああ」
天音は悲痛な叫びをあげながら、ゴロゴロと弾んで回転しながら壁に激突して蹲る。
それでも天音はナイフを女神様に向けたままだ。
――ここで殺さないと。女神様が危ない。
虫のように這いずりながらも、刃を向ける天音に向かって、俺は拳を振り下ろした。
「ゴースケ…」
泣きそうな天音の声に一瞬、腕が鈍る
それでも、今コイツを倒さないと女神様が殺されてしまうかもしれない。
俺はすぐに正気にもどりそのまま拳を振り下ろす。
天音に当たる直前
ボフンっという小さな衝撃と蜂に刺されたような痛みが拳に走った。
反射で拳を振り下ろした拳をあげてしまう。
「正気に戻ってくださいゴースケさん!!!!!!!!!!!!」
ヒートだ。
一目散に天音に駈け寄っていく。辛うじて動ける天音を起き上がらせてから、女神様の方を向いた。
お前も魔王様を攻撃するのか?!
俺は女神様を手に乗せて危険な場所から遠ざける。
しかしヒートの狙いは魔王ではなかったようだ。
一直線に倒れているアランに向かっていった。
「ゴースケ」
無機質な声が俺の名前を呼んだ。先ほどの笑顔は消え死んだ魚のような目で天音とアランを背負ってノロノロと動くヒートを指さした。
「踏み潰しなさい」
俺は女神様の言葉に頷いた。
足を上げる。
すると、足の下を簡易的なトロッコのようなものがものすごい速さ通りすぎていった
「ヒートくん!!!!乗って!!!!!!1」
2人を抱えたヒートはノロノロとトロッコに近づいて、乱暴に乗せた。
「どうしたの。轟介踏み潰しなさい」
女神様がそう言って俺の頬に触れた。
なぜか俺はみんながトロッコに乗るまでをぼんやりと眺めてしまっていたようだ。俺は女神様の声で正気に戻り足を振り下ろした。
床が抜けて下の階層まで抜ける。
足をあげると。
もうそこには誰の姿も無かった。先ほどのように血まみれで横たわる仲間もいない。
床の焦げた後を見るに、間一髪でヒートの爆発の威力で飛び出したのだろう。
俺は4人を追おうと城から出ようとするが「もういいでしょう」という女神様の言葉で静止した。
「あの傷は最低でも3か月はかかるでしょう。それから全員に恐怖の感情を彫り込んでおいたのでしばらくは近づけませんよ。あなたがいないあのパーティに私を倒せる力はありません」
視界の端でトロッコが大きな木に衝突して大破するのが見えた。
ボロボロになりながらもチルハとヒートはアランと天音を担いで前に進む
「あ痛」
床に降りた女神様が呟いた。
俺は女神様が攻撃されたのかと思い攻撃態勢にうつる
「大丈夫ですよ。貴方たちが侵入したときのガラス片で手を切ってしまっただけのようです」
細くて白い中指から赤い血が流れていた。肌があまりにも白いため赤い血が目立って痛々しい。
何とか治療をしてやりたくてオロオロとする。
しかし、女神様は中指から手首にまで流れた血液を、妖艶な仕草で舐めとった。
すると、パックリと開いていたはずの切り傷は消え、元の白くて美しい手に戻っていた。
「驚きました?私不死身なんです」
驚いた。洗脳の魔法だけでなくそんな体質を持っているだなんて。
この人は本当にそこらの人間とは違う。女神様なのだ。
「ゴースケ」
女神様が俺の名前を呼んだ。
それだけでなんだか踊りだしたくなるほど浮かれた気分になるのだ。不思議だ。
「帰りましょうか」
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