第46話 いつも通りの友人の決戦の日

「おはよう…」


その日、一番に起きたのはウーサーだった。


「おはようございますッス!!」


その次はヒートだった。すぐに日課らしいランニングをしに行った。


「モーニン!ストーンキャット」


そしてなぜか仮面装着済みで気障な挨拶をするアランが起きてきて


「おはよっ!!」

「おはよ…」


朝から元気いっぱいの天音と夢うつつの中無理やり起こされたのであろうチルハが起きてきた。


それから、料理が得意な天音が腕を振るい、いつもより少し豪勢な朝食を作りみんなで食べた。

俺はその辺に落ちていた石を拾って天音に焼いてもらって食べた。


なんだかいつも通り風景で少し調子が狂うな。


「はぁ~おいしかった」


一息ついてから天音は言った。


「じゃあ、行こうか」


ピリッと場の空気が引き締まった。


「ウーサー。もうお前が心配することなんて何もないからな。絶対敵とってやるから」


真剣な顔の面々の内、ただ一人天音だけがウーサーを安心させるように柔らかな笑顔でウーサーの頭を撫でた。


「…絶対生きて帰ってこいよ」


ウーサーは照れ臭そうにしながらも、いつものように目を逸らしたりはせず、しっかりと天音を見て言った。

天音はかがんで、指切りげんまんの手にした。


「なんだよこれ」


「俺の故郷の儀式。約束やぶったら針千本飲まされるの」


「刑が重いな」


不安そうなウーサーの顔が和らいだ。

人の心を和らがれる事に関してはコイツの右にでるものはいないな。



こうして、俺達はウーサーを残し、出発した。


一番の懸念は洗脳がどの範囲まで行き届くかということだ。

一度かかってしまうと解けないのか、何か解く方法はあるのか。あまりにも謎が多すぎる。

しかし、天音という唯一洗脳にかからない存在と、人外であるため適応範囲外である可能性の高い俺がいる。もしもの時は全力で逃げればいい。


日が完全に上った正午ごろ、俺達は魔王の城の裏側にたどり着いた。

道中、何体か魔物を倒しつつ、不気味な程に順調だった。


「まず、轟介が巨大化して、あの屋根を折るか壁をぶち破るかする。間違いなく魔王はあの一番上の部分にいるはずだから」


天音はやけに自信満々に言った。


「その後俺達が部屋に侵入。俺がすぐに魔王と戦闘に移るからアランは背後を取ってね。チルハはできるかぎり安全な場所で戦況見つつ有利そうな武器を錬成場合によっては逃げるときの足とか作ってくれると助かる。ヒートはチルハを全力で守って。爆発で牽制してて」


俺達の突入してからの行動が決まる。

全員が天音の言葉に頷いたのを確認してから俺は巨大化した。


日差しを全て覆い隠し、城全体を日陰にしてしまう程に体を大きくする。

肩に乗る天音達が必死にしがみついている。


そして俺は作戦通り、手刀で屋根を破壊した。


意外にも一発でキレイに屋根は吹き飛び、下に崩れ落ちる。


俺は腕を床に伸ばし、滑り台のようにしてみんなを下ろした。

それから人間ぐらいの大きさに戻りみんなと共に戦闘態勢をとる。


崩れた屋根が散らばった柱以外に目立ったものが無い大きな部屋だ。


「誰もいないな…」


既に透明化しているアランが呟く。


誰もいないどころか誰かがこちらへ向かってくる様子も無い。


「おかしいな…ここに魔王がいると思ったんだけど…」


「先進むッスか?」


俺達は戦闘態勢を一瞬解き、歩みを進めようとした。


その時



「随分な登場なのですね」



背後から首を掴まれたような、


ナイフをつきつけられたような緊張が走った。


全身の体液が逆流しそうなほどの緊張感。後ろにおぞましい何かがいる。


足がガタガタと震え始める


「ソイツが魔王だ!!!!!!!攻撃しろ!!!!!!!!!!!」


天音の叫び声で、凍っていた身体が解けたように動いた。


振り返る


氷柱のように鋭く冷たい声、白い髪白い肌、とにかく白い少女がそこに立っていた。


――――俺はこの女を知っている


俺は恐怖を振り払い辛うじて巨大化する。

天音もチルハ特注のナイフを取り出し走り出した。


それでも少女は棒立ちで、冷ややかな目で俺達を見つめていた。


この少女が魔王?


そんな疑問が浮かぶが今を逃すと攻撃の機会が無いかもしれない。


急げ、急げ、


天音よりもデカい俺が一番に攻撃圏内に入った。


俺はできるかぎり大きく右腕を振り上げる。


「…まずはこうかしら」


俺の拳により日陰に立つ事となった魔王は、それでも動かない。


そうだ、あの作戦では、俺達は囮で、背後からアランが魔王様を刺すという作戦だったな。

魔王は気づいていないようだ

これならすぐに殺せる。作戦は成功だ。


俺は勝ちを確信して拳を落とそうとした。


それでも少女は変わらない。

そんな無表情で人間離れした美しい容姿、まるでアンドロイドのような魔王が




「おかえりなさいゴースケ」




俺を見つめて笑った。



その言葉に、出ないはずの涙が零れ落ちるような感覚がした。


この笑顔を見るために今まで頑張ってきた気がしてきた。


この人を殺したくない、死んでほしくない、守らなくては。



俺は拳を魔王様の背後に落とした。



「よくできました」


魔王様の慈愛に満ちたその言葉で攻撃態勢を解く。


俺の拳の下には、血まみれのアランが横たわっていた。

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