第45話 天真爛漫な友人の曇った笑顔が痛々しかった
騎士達と別れた後、テントに戻るとウーサーが起きていて、睨むようにこちらを見ていた。心配してくれたのだろう。
「誘拐?人がいなくなるのは割と日常茶飯事だよ」
ウーサーはサラッととんでもない事を言った。もしかしたらこの第5区で無事に育つということhあ並大抵のことじゃないのかもしれない。
「知らないうちに魔物に襲われたんだろうとか、家出したんだろうとかでみんなあんま気にしてない。気にするのは家族ぐらいだ」
重くて悲しい事実をこんな幼い少年に言わせてしまった。
その罪悪感からか、天音は急にホットミルクを作りだした。
チルハが毛布を錬成し、ヒートが笑い話をしはじめ、アランが子守歌を歌い始めた。
ウーサーはその互いの行動の噛み合って無さに笑っていた。
――――――――――――――――――――――――
俺と天音は皆が眠りについたのを見計らって外に出た。
第3区や王都と比べて、ここは夜も人通りがあるが、俺達は構わず話していた。
「前も言ったけど、俺、離れてると心の叫び声しか聞こえないし、目視だと表層心理ぐらいしか見えないわけよ。」
天音は突然自分の能力について語りだした。話の流れがわからなくて?マークを浮かべていると、ふわり、と優しい温度に包まれた
「でもこうやって抱きしめたりすればもうちょっと深い部分も読み取れるわけ」
よくわからない例を聴いたことでようやく自分が抱きしめられているという事実に気が付いた。
天音の心音が聞こえてくるぐらい密着した状態に心臓は激しく動き
柔らかな肌と優しい温度に包まれて完全に俺はのぼせあがっていた。
「おーい聴いてる~?」
聴きたいけどそれどころじゃない頼むから離してくれ。健康に害がありそうだ。
「は~い。お前まだ俺に慣れねーの?魅力的でゴメンな!」
童貞には刺激が強いんだよ。お前のスキンシップは…この上なくムカつくことに
「話戻すけど、ま、とにかくこうやってくっつけばくっつくほど深いところまで心を読めるわけ。」
俺の意見を無視して天音は話を無理やり続ける。
「だからさぁ、騎士団の誰かとセック」
それだけはやめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1
とんでもない事を言おうとした天音の顎に頭突きした。もちろん小さい姿なので威力は控えめだ。
「痛い…」
痛い…じゃねぇよ!!自分の体を何だと思ってるんだ…
「男の姿を知ってるゴースケですら俺の姿を魅力的に思ってくれてる…ってことは、やっぱり俺、結構モテると思うし騎士団の人も一人ぐらい抱いてくれるんじゃないかって…」
そういう話をしているんじゃない!!自分の体を武器にするもんじゃないだろ
「ごめんごめん。騎士達が洗脳されてるなら一度は魔王と出会ってるんだろうし、情報読み取れないかな~って思ったんだよ」
お前の体を犠牲にしてまで情報を得たい奴がいるわけないだろ
「お前って処女厨?」
いい加減ぶん殴るぞ
「ナハハお前ホント優しいな~」
撫でるな。
もしかして陽キャと陰キャは貞操観念の認識からして大きな隔たりがあるのだろうか。
俺は自分の体を軽視する天音に怒りを感じていた。先ほどとは違う意味で体はのぼせあがっていた。
「もう言わないよ。お前がそんなに怒るなんて思わなかった」
そう言って天音は笑った。
それが本心なのかそうでないのか残念ながら俺にわかる術は無い。不公平だ。
…それにしてもお前がそんな事言い出すなんて、騎士団は一体何を考えていたんだ?
俺の問いに天音は少し答えを渋った。
てっきりこの話をするために俺を呼び出したのかと思っていたため、その反応は意外だった。
「攫われそうになってた女の子、人の回復能力を早める魔法を持ってるんだって」
…それは、随分使い勝手の良い魔法だな
もしかして、その子を攫って王都に従事させようとしているのか?
天音は俺の問いに重々しく頷いた。
「しかも1回や2回じゃねーんだよ。アイツらここの区の住民のこと人間だなんて思ってない。森で珍しいカブトムシを捕まえるみたいなそういう感覚で利用価値のある魔法の子を攫ってる」
王都ではあんなに祝福されている騎士団が、そんな事をしているのか。沸々と怒りが湧いてきた。
何より、いつもヘラヘラと笑っている天音が、人の悪意に触れて萎びていることに、心が痛んだ。
「…これも魔王を倒せば全部解決するんだよな?悪い騎士の洗脳も解けて、攫われた子も帰ってくることができて…全部上手くいくんだよな」
俺はすぐには頷けなかった。
そんな、絵本のように全てが上手くいく展開になるとは、元よりネガティブである俺にはとても思えなかったのだ。
しかし、それでも、今は頷いた。
だって明日は
「明日は魔王を倒しに行かなくちゃだしな!こんな事、倒してみないとわかんないよな!!」
天音は踊るように立ち上がった。
月光を反射する金髪が天の川のように見える。
そうだ。明日は魔王を倒しに行く。
それは今までで一番厳しい戦いになるのかもしれない。
それでも
「なんか疲れちゃった。寝よっか!」
できたらコイツが、大事な友達が、
こんなに曇った笑顔を見せるのは、今日が最後になると良い。
そう思った。
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