第44話 生意気な友人は騎士を煽る
「なんかおかしいよな~」
夜、ウーサーが寝て、起きているのはパーティのメンバーだけになった。
そろそろ寝るかと明かりを消した時にそう天音が呟いた
「何がッスか?」
「ここに住んでる人一切魔法使える様子がなくない?」
言われてみればそうだ。
王都の市場では当たり前のように騎士ではない人達も魔法を使っていたし、第3区でもヒルダのように魔法を使える人はいた。しかし、この第5区ではスリの方法もアナログ、魔物に対しても対抗手段がほとんどなさそうであった。
「でもウチの区でも魔法使えない子結構おったで?」
「マジっスか!?!?」
全員が魔法を使えるわけではないのか。新事実だ。
「そっか、ヒート君第一区出身やったっけ。そこの区域は全員魔力持たせてもらえるやろうな」
「あまり知られていないが第3区以下の場所は治安悪化防止のために15を超えたら魔力を献上する決まりがあるんだよ。その代わり金銭なんかをもらえるから多くの人は魔力を無くすんだ」
確かにこの治安で魔法が使える人がいたら相当危険な区域になっていただろう。
あれ?だとすると、第3区出身のチルハは…
全員の視線がチルハに向いた
「お察しの通りやで…逃げ続けて不法入国までしちゃいました」
てへぺろっとちょっとしたドジを告白するかのように言った。そういう次元じゃないだろ。
その時、遠くから、昼間とはまたちがう女の子の悲鳴が聞こえた
「魔物か?!」
「ヒートとチルハはここに残ってウーサーのことを頼む!俺とアランとゴースケだけで行こう!」
天音の判断にチルハとヒートが頷いたのを確認してから俺達はテントを飛び出した。
暗い道をチルハが錬成したランプで照らしつつ悲鳴のあがった方へ走っていく。
しかし、昼間のような巨大な魔物の姿はどれだけ走っても見あたらない。
「…こっち!」
天音が草木が生い茂る人の道では無さそうなところを指さした。心の声が聞こえたのだろうか。
俺が先頭に立ち、草の根を分けて道を作って進んでいった。すると確かに女の子の鳴き声は近くなる。
草の背が低くなった頃、屈強な男がチルハやヒートと同年代ぐらいの女性をひっぱっているところが目に入った。
一気に頭に血が上るのを感じた。反射的に巨大化しようとするが、「待てゴースケ相手は人間だから」と天音に静止される。
確かにいきなり潰すのはあまりにも早計がすぎるな。反省。せめて事情を聴かないと。
俺を抑えてから天音はアランと顔を合わせる。何か作戦を通わせたのか二人同時に頷いた。
「おーい!おにぃさん♡何やってんのぉ?」
天音がわざと猫なで声で小さな歩幅で男と少女に近寄った。
男は特に焦る素振りは見せず低い声で「何の用だ」とだけ呟く。
「いやいや、わかるでしょ?この子嫌がってんじゃん。何するつもり?」
「…王都に連れていく」
「なんで?」
「貴様には関係ない。俺は王都の騎士団だ。これ以上絡むようなら女でも容赦しない」
そう言いながら警察手帳のように王都の騎士団の紋章を見せた。下級騎士には与えられない王に近しいものしか与えられないものだ。
天音の表情を見るに恐らく本当なのだろう
「逆に王都の騎士団がこんな誘拐まがいのことしていいの?」
「誘拐などではっ…」
騎士団を名乗る男がそう叫んだ時、少女を掴む手からタラリと血が流れた
「それ以上力を入れるともっと刺すぜ…」
うっすらとアランの姿が実体化していった。さすが人間相手には強い魔法だ。
男は悔しそうに少女の手を離す。少女は泣きながら逃げていった。
それを確認してからアランも男の手を話透明化する
「貴様らっ!!騎士団相手に何をしたのかわかっているのか」
手を抑えながら騎士団の男は叫ぶ
「悪い騎士団に攫われそうな女の子助けちゃった」
天音はニヘラっと性格の悪そうな笑みを浮かべる。
「誘拐などではないっ!!これは王に捧げる神聖な…」
「オイ。それ以上を喋るな」
男の威嚇の叫び声を聴いてか、同じような制服を着た騎士団の仲間がぞろぞろと集まってきたらしい。
光の勇者を探しに第5区まで来ていたのだろう。
「はっ、すいません」
「ガキはどうした」
「この者達に逃がされてしまい…」
他の騎士達の目が天音に向く。天音は「どうも~」と煽るような顔で礼をした。
「貴様、王都を騒がせている下級の女騎士だな」
「そうそう♪町で噂の超美少女騎士だよ。以後よろしくね」
多くの男に囲まれても天音は飄々とした態度でいる。
「なんのためにあの子を連れ去ろうとしてたか教えてよ」
「お前自分の立場解ってんのか?国家機密だよ国家機密」
「へぇ~じゃあ一般市民の俺はよくわからないから邪推しちゃお~なんで天下の騎士団様が女の子を連れ去ろうとしてたんだろうな~女の子とエッチなことしたかったのかなぁ~みんなの意見も聞いてみたいからこの地区の人に話してみようかなぁ~」
見ているこっちの冷や汗がダラダラと出てくるほどの煽りをする。騎士団全員に力がこもったのがわかった。
「貴様っ!!王都の騎士団を愚弄してタダで済むと思うなよ」
「たった一人で俺達に喧嘩売ることがどういうことか教えてやろうか!?」
騎士団という優雅な名前からは想像できない程荒々しい声をあげ、各々戦闘態勢になる。
「轟介」
下級騎士のチンピラ共とはわけが違うだろうと少々怯えつつ見守っていた俺の耳に、天音のいつもよりトーンが低い声が染みていった。
なんとなく天音の言いたい事は理解した。
俺は巨大化する。
できるかぎり大きく。
この高い木と同じくらいに。
そしてできることなら獣のように四つん這いのまま
「なんだっあの巨大生物は?!」
「魔物か?!」
騎士団全員のターゲットが天音から俺に変わった。
「俺の使い魔だよ♪」
天音がそう言ってウインクしたのが合図か、一番前線に立っていた男がバタンと大きな音を立てて倒れた。
透明化したアランがチルハの錬成した睡眠薬を打ったのだろう。
しかし、騎士団たちには俺が睨んだだけで倒れたように見えている。
騎士団の連中は全員、俺から警戒して一歩さがった。
「俺も騎士団様に喧嘩売るのは怖くて怖くて仕方ねーのよ!だから今日は特別に喧嘩両成敗ってことで見逃して?」
天音は手を合わせて小首をかしげる。わざとらしくかわい子ぶった勘に障る仕草だ。
恐らく天音はわざと騎士団の頭に血を登らせて心を読みやすくしているのだろう。
実際、かわい子ぶりっ子しながらも目だけは騎士団から話していなかった。
そんなことも露しらず騎士団たちは「こんなところで消耗するわけにはいかぬ。帰るぞ」と声を上げ、倒れた男を抱えて、無言で去っていった。
行き場の無い怒りが這いずり回っている背中を見送ってから天音は背伸びをした。
「…さて!俺達も帰ろっか!」
アランがスッと実体化する
「全く…冷や冷やしたぞhoney…」
「ごめんごめん!助かったよアラン、ゴースケ!チューしてやろうか?」
ふざけた調子で笑う天音にアランは「そういうのはふざけて言うものではないぞ…」と呆れと照れが混じったため息をついた。
「……アイツらも、多分洗脳されてるんだよな」
騎士団が去っていた方向を見つめながら天音は呟いた。
アランは少し答えることを戸惑ってから「そうだとも。きっとそうさ」と自分を言い聞かせるようにも聞こえる口調で言った。
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