第43話 率直な友人は荒れた地につく
作戦を立ててから5日後、俺達は驚くほどに順調に進んでいた。
魔物は第5区に近づくほどに多くなってはいるものの、難なく倒せるレベルであり、特筆すべき出来事も特になかった。
しいて言うなら、ウーサーも心を開き始め口数が多くなったことぐらいか。大変好ましい変化である。
「うっわぁ随分荒れてんなぁ」
「人の故郷をそんな言い方すんな」
ウーサーのいう事は最もだとは思うのだが、天音に同意せざるを得ない程にこの地は荒れていた。
道は塗装されてなく、ウーサーのように最低限の布で作ったのであろう薄汚れた服を着てかけっこをする子供たち、テントのような住宅、暗がりからこちらを睨む人たち、まさにスラムのような光景だった。
「ひわっ」
チルハが小さな悲鳴をあげる
「どうした?」
「あ、荷物、とられた…」
さっそくスリにあったようだ。
「あ、アイツッスね!」
ヒートはすぐさま地面に小さな爆発を起こし、スリの人間の足を一瞬止める。その隙に、透明化したアランが荷物をひったくり返した
「これかい?リトルキャット?」
「う、うん!ヒート君アラン君おおきになぁ」
これは魔物が出る森以上に油断も隙も無い場所だな。
「ウーサー、お前はここで大人しくしてるんだぞ。騎士団に見つかったら捕えるかもしれないししばらくは周りに気を付けること!」
天音がウーサーの目線に合わせて言う。ウーサーは歯がゆそうに「母ちゃんかよ…」と言って目を逸らした
「あ、あの聞きにくいんやけどウーサーくん、帰る家はあるん…?」
チルハの言葉にウーサーはハッとしてうつ向いた。
「チルハテント作れる?」
天音の言葉に元気よくチルハは頷いた。元よりそのつもりだったようだ。
「今日は俺達も一緒にいてやるよ」
「それはいい考えだなhoney!無事第5区につけたことへの祝いでも開こうか」
「あんま、目立つと疎まれるから…!」
「俺の透明化の魔法を使えばいいのさ」
つくづく便利な魔法の持ち主たちだ。そんなわけで盛り上がっていた矢先、
遠くの方から悲鳴が聞こえた
「魔物だ…」
ウーサーが呟いた事を合図に俺達は顔を見合わせて悲鳴の方へ走った。
そこには巨大な猪のような魔物がいた。この魔物は素早さはそんなにないはず。俺一人だもいける。
天音が尻もちをついている少女を安全な場所に移動させているのを横目で確認してから巨大化して拳を叩き込んだ。
しかし、微妙に当てが外れてしまったらしく、そこにはクレーターができただけだった。
「危ない!!」
まっすぐ天音と少女に向かってくる猪への抑止力としてヒートが爆発させて動きを一瞬止める。
その隙に少女をチルハに託した天音が魔物の目に向けてナイフを振りかざした。
見事魔物の両目に的中したらしく魔物が転がる。
そこに透明になっていたアランが走り出し、魔物にとどめをさした。
少女を無事家に帰した後、俺は土下座で謝罪の意をしめした
「いやいやなんで謝るんスかゴースケさん!!一発当たらなかっただけじゃないっすか!」
「そんな失態誰でもやるやつやん!そんな謝らんでもええのに~」
ヒートとチルハがあわあわしながらフォローをしてくれる
「しかし、ストーンキャットらしくはないな」
アランが呟いた。フォローしてくれていた2人がアランに向かってマジかこいつみたいな顔をする。いや、この場合責めてくれた方が心が楽になる。俺はアランにもう一度謝罪をした
「いや、違うんだストーンキャット謝罪がほしいわけではなくてな」
「アレだろ?いつも一発目は慎重にやる轟介らしくはないなっちゅー話でしょ?」
俺も気づいていない癖だった。天音とアランとはいつも試合形式で修行しているためかそういう癖にも気づくのだろうな。
「ま、そういうこともあるよな!!戻ろ戻ろ!」
そう言ってゾロゾロとウーサーの新しくできた家に戻っていった。
「なぁ」
最後尾にいたウーサーが俺に声をかけたので立ち止った。
天音達は気づかずにどんどん先に行くため距離が開いていく
「お前なんか嘘ついてる?」
ウーサーの不可解な言葉に俺は首をかしげる。純粋な目が何故だか怖く感じた。
「……ついてないな。見間違いか…」
俺は申し訳なさそうに頭を下げたウーサーを肩に乗せ、天音達に追いつこうと早歩きをした
「そんなに精度高くないんだ俺の力」
俺と同じだな。ゴツゴツとした手で頭を撫でた。
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