第33話 誉めたがりな友人は空気を読む

俺は人の足元を避けながらひたすらに走っていた。


早く行かなければ。ヒートは魔法によって一方的なリンチをされてしまう。


アランやチルハに助けを求めたいところだが、奴らは恐らく透明な姿になっていて見つけるのは不可能だ。


天音は修行はしているものの、あの人数相手にどうにかできる力は無い。第一、ウーサーの傍を離れることは愚策だろう。


助けを求められるとしたら騎士団か。俺の姿を見て助けてくれるかは不明だが…とにかく騎士団らしき集団を…


その時、何もないはずの空間に突如結界が貼られたかのような壁が発生した。走っていた勢いもあって俺は吹き飛ばされる。


「ストーンキャット!?大丈夫か?」

「ひわ、ヒートくんはどないしたの?」


その透明な空間からは、聞き覚えのある安心する声がした。


なんて運がいいのだろう。


俺はアランに触れて透明になったことを確認してから巨大化した。

慌てふためく2人を荷物ごと肩にのせて俺はヒートのもとに向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――



「ヒート?!!どうしたんだよその傷!?」


家に帰って、すぐに出迎えてきた天音が悲鳴のような大声をあげた。


「えへへ、ちょっと階段から落ちただけッス」


格好つけるんじゃないよ。天音の前では無駄だぞ。


あの後、アランに透明化してもらった俺は、そのまま巨大化しヒートを救出した。

切り傷だらけのヒートを見て一発ぐらいトールのことを殴ってやりたいところだったが、今は目立つわけにはいかない。悔しい思いを胸に足早にあの場から逃げていった。


「…階段から落ちた?お前はドジだなぁ!でもちゃんとお使いできて偉い!誉めて遣わす!待ってろ!今治療してやるからな!!」


天音は意外にも空気を読んで、ヒートの嘘をそのまま信じたフリをして、救急箱を取りに行った。


「ヒートくん…ええの?言わなくて…」


チルハは心配そうにつぶやく。


「心配かけるわけにはいかないッス!!」


「我慢は美徳ではないぞ青年…」


「うぅ…すいませんッス。でも、聞いてください。俺、一発トールさんの顔面に拳入れられたッス!魔法使ってくる相手に拳が効くっていうのは気持ちいいものッスね。だから、我慢ってほど辛くもなかったッスよ!俺、タフなのが取り柄なので」


へらり、と笑ったヒートに込み上げ来た思いがあったのか。

チルハはよしよし、と頭を撫でた。それに便乗してアランも雑に頭を撫でた。


「ヒートくんはええ子やねぇ…かっこよかったで」


「でも我慢はするもんじゃない青年!しかし男らしかった!」


「え、え、え、何スか!?嬉し恥ずかし誉め殺しッス!!」


俺は2人の言葉に頷くことでしか誉められないのが悔しい。俺も便乗して撫でてやりたいところだが、このゴツゴツの手で頭を撫でるのは最早攻撃になってしまうだろう。

こういう時、どうしても人外特有の疎外感を感じてしまうな


その後すぐにそれを見た天音が「なんだそれズルイ!!!」と言って2人に甘やかされているヒートの中に割って入ろうとしてきた。そこは空気読めよ



その日の夜


「きーーーっ!!トールめ!ムカつく奴だな!!ちょっと文句言ってくる!」


馬鹿か。再び攻撃されるに決まっているだろう。


チルハが寝た後、天音はトールに対してずっと怒りを口にしていた。文句が通じる相手だとまだ信じているところが天音らしい。


「あーーームカツクムカつく!!でもヒート超偉いんだぜ!!トールに一発拳いれたの!誉めてやりて~!!でも格好つけたいだろうしな~!!」


天音は足をじたばたとさせながら大袈裟に悶える。


「あ~俺も誉め殺し大会参加したかったな~!!生前の俺は誉め殺しが上手すぎてフラれたこともあるぐらいの誉め殺しマスターだったんだぞ絶対優勝できたわ」


それは誇るべき経歴なのか微妙なラインだな。


「お前ももっと褒めてやった方がいいよ?」


俺なんかよりお前がほめた方が喜ぶだろ


「そういう問題じゃねぇって!アイツ、お前がバカにされたから怒って一発いれたんだぞ」


え?


「なんか、主人がいないと役立たずのゴーレムだとかなんとか好き放題言われてたの。それに、ヒートがキレて殴りかかったんだよ」


なんだそれ。なんだそれ。聞いていない。


「格好つけだからなアイツ」


天音はそう言いながらも息子を自慢するかのように、優しい笑みを見せた。


「お前、いつも俺のオマケでーすみたいな顔してるけど、みんなお前のこと仲間と認めてるよ。心が読めちゃう俺のお墨付き」


仲間の事が何もわかっていないのは俺の方だったな。


明日はこのゴツゴツの手でも良いから誉めてやりたい。


あぁ、そういえば、俺も部活とか所属してなかったこともあって、後輩という存在は初めてだったな。


案外、仲間ができて、楽しくやれるようになったのは俺の方なのかもしれない。

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