第34話 慕われる友人はスキップで行く

「顔の傷とれないな~お前」


「男の勲章ッス!!」


一応天音の前では階段から落ちたという建前でいるんじゃなかったけ?階段から落ちてできた勲章ってどうなんだ。


物資調達した翌日の早朝。

俺達はすぐにこの街から出発した。


ヒートの件もあり、この街に留まるより、さっさと出て行って野宿でもした方がマシだという結論に至ったのだ。

いつ、家を直接襲撃するかわかったもんじゃないからな。


ただし、ヒートもウーサーも傷は完治しているため準備万全であるとは正直言い難い状況ではある。

ヒートは御覧の通りピンピンしているが、やはり幼いウーサーはどこか不安げだ。その不安を和らげるため、人間ぐらいの大きさになってウーサーを肩車している。


同じマンションに住んでいた子供と遊ぶ機会が多かったのだが、肩車というのは、どの子も大抵喜ぶ必殺技であった。

育った世界は違えど、ウーサーにも聞くのではないだろうか…と思っての行動であったのだが


「不安そうな顔をしているな…少年…」


アランが言うように楽しんでいるとは言い難い表情をしていた。


「…だってお前ら、光の勇者を見つける算段なにも考えてないだろ…どうやって見つける気なんだよ…」


全員が黙って天音を見つめた。


「えっ!?俺ぇ」


天音は明らかに何も考えていなさそうな間抜けな顔で返事をした。


「光の勇者って人の心読めるんだろ?なら簡単!ポメラニアンの行列がいるな~って考えておいて、ポメラニアンの行列を探してるやつがいたらソイツが光の勇者!」


俺がお前に使った策じゃないか。そんなバカみたいな作戦が通じるのはお前だけだよ


「ぽめらにあん…?」


しかもこの世界にポメラニアンはいないだろうがよ。見ろみんなの呆けた顔を。


「じゃあ、あれ!今からこの街を爆破するぞ~って頭の中でいっぱい考えてればいいんじゃね?接触してきたやつは高確率で光の勇者ってやつ」


「そ、それは…いい考えかもしれないッスね…」


「じゃあ町についたら町を破壊するぞ~っていっぱい思っておけばええんやね!」


子分2人がまさに名案と称える。あまりにも脳筋みたいな考え方だが、天音にはそれが聴いたわけだし案外有効な手段なのかもしれない。


「どうだ?ウーサー」


「嫌、馬鹿じゃねぇのって感じだけど…」


「ひどい!」


「だってこの世界に何人人がいると思ってんだよ…」


まぁ、ぶっちゃけ天音の能力があれば、割と多くの人数の中から目的の人物を見つけることは難しくない。

俺と天音がこの姿で出会っていることが何よりの証拠だろう。


「だいじょーぶっ!俺、運だけはいいんだ」


魔法の事をお茶目な言葉で覆い隠し、先頭にスキップで乗り出した。


「お前らもあんなリーダーで大丈夫なのかよ…」


天音には何を言ってもムダだと察したのか、ウーサーは他のメンバーに話しかける。


「ふはは、心配いらないさ!少年!!君も時期に彼女の魅力に酔いしれるはずさ!」


「アマネちゃんはええ人やし」


「姐さんはツエーお方っス!!」


「この根拠のない妄信っぷりが怖いんだけど!?」


まぁ、根拠なら無いことも無いんだが、若干宗教じみてきていることには同感だな。


そんな話をしていた時、突如、前でスキップしていた天音の足が止まった


口に人差し指を当て「静かに、魔物だ」というハンドサインを出す。

全員に緊張が走った。


林からは、禍々しい雰囲気を纏った熊と獅子舞のハーフのような巨大な魔物がのっそりとでてきた。


完全にその目は俺達を見据えている。


ウーサーの震えが大きくなった


「あ、あいつ、あいつにみんな、みんなやられたんだ」


この魔物に襲われてこの少年の家族や仲間は殺されたわけか。

同じ個体…では無いだろうが、この少年の口ぶり的には種類も同じなのだろう。


「逃げよう…!逃げた方がいい」


怖いだろうに少年は必死に声を絞りだしていた。


それは少年の根の性格が優しいからか、怪我を直して協力したことにより俺達に情が移っていたのか、なんとか俺達を助けたいという気持ちがこもっていた。


だが、すまない。


お兄さんたちは下級とはいえ、騎士なんだ。



ヒートが地面を爆破した。

それにより、痺れる程の爆発音と、一帯にものすごい砂ぼこりが立ち込め、泥の臭いが蔓延した。


砂ぼこりがはけた頃、魔物は見事に倒れていた。


「ど、どういうこと…爆発一発で倒したわけ…?」


「いや~!!まさかっ!俺のは音と光と風が派手なだけの花火みたいな魔法ッス!」


顔を土まみれにして笑うヒートがこちらを振り返った。


「い~や。青年!!俺の力は嗅覚と聴覚が強い魔物には効きにくいんだ。リトルキャットの刃が届いたのは君のおかげさ!!」


魔物の死体の首元から、アランとチルハが上半身から徐々に実体化して現れた。


「アラン君が透明にしてくれたからやで…たまたまこの魔物に効く毒を知っていてよかったわ…!」


朗らかな笑みでチルハは言った。さりげなく言っているが、膨大な知識量があってこそだろう。


「す、すごい」


少年は目を疑っているのか、身を乗り出して何度も瞬きをしながら、ハイタッチをする4人を見つめる


「爆発で魔物の5感を麻痺させて、透明になって、毒を盛って…じゃ、じゃあ、あの人とゴーレムさんは一体何を…?」


………………………何もしてないな!!


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