第31話 破天荒な友人のパーティは密かに強く結束している
「結局光の勇者って何なんスかね~」
俺と2人で買い出しに出かけてるヒートが言った。
「ってゴースケさんに言ってもわかんないか!」
実はゴースケさんは人の言葉を完璧に理解していますよ。
こちらから発信ができないだけだからな。だが、それを伝える術もないので
「でも逆に何話してもいいってことッスもんね!!気が楽ッス!!」
っていうか独り言デカいな。コイツ。
俺とヒートは2人きりで買い出しに来ていた。
まず、俺達はとりあえず、あのウーサーというらしい少年の故郷に一度戻ることにしたのだ。
ウーサーの故郷は魔王の城に近いらしく、よく魔物が襲ってくるのだそうだ。
俺達がそこを拠点にして光の勇者探しをすれば、町は守れる、恐らく宿も貸してもらえる、魔物を倒したら後で王都に戻ってきたときに金にもなる。といいことずくめなのである。
そもそも俺達はこの王都では村八分気味であることもあり居づらかったからな。ちょうど良い。
そんなわけで、俺達はウーサーの故郷である第5区に行くまでの物資を調達していた。
一応チルハがいるため、細かいものは後から魔法で錬成できるが、本人曰く"大きい物や複雑なものは錬成にかなり時間がかかる"”生物は錬成できない””食べ物を錬成できるが味を再現するのが苦手”など色々と制約があるらしい。
そのため、チルハとアランは食べ物を、俺とヒートは大きな物資を、そして天音はウーサーと一緒に待機という役割をそれぞれ持ち、分かれて活動しているのであった。
正直言うと、アランの透明化の魔法が無い俺達が無事に買い物をこなせるか、かなり不安ではあるのだが、俺達とチルハ、どちらをアランを組ませるかといったら答えは明白だろう。
「テントと、ランプと、寝袋と…」
ヒートは買い物メモを何度も読みなおしながら歩く。
ガサツで明るい奴に見られがちだが、かなり心配性でネガティブな面が目立つ奴だよな。ある意味天音とは真逆のタイプだ。
「ゴースケさんも確認してほしいッス!!メモ読めるッスか!?」
俺は頷いてメモを渡されたメモを上からチェックしていく。完璧だ。
俺はヒートの方を向いて首を縦に振った。
「よし!!じゃあ後は帰るだけッスね!!何事も無くてよかったッス!」
ヒートは、男一人でも運ぶのがキツそうな荷物を持ちながらもご機嫌そうに歩き出した。前世の俺だったら恐らく2往復しないと持ち運べなそうな量だ。
しかし、今なら余裕だな。
俺はヒートの肩から降りて人間ぐらいの大きさになり、手を差し出した。
「持ってくれるんスか?」
俺は頷くが、意外にもヒートは顔をしかめる。
何が問題なんだ。男のプライドというやつか?
「うーん…申し出はありがたいッスけど…このまま大通りにでたら結構目立っちゃいません?」
それもそうだな。
「それに、もし騎士にでも見つかったらまた取り調べ受けることになるかもしれないし…そのまま俺の部屋調べられたら今度こそ言い逃れできないし…」
そ、それもそうだな
「それに、ゴースケさん細かい動きが苦手って姐さんも言ってたしテントとか壊しちゃいません?」
それは余計なお世話だな!!!このネガティブ野郎!!
心の中で罵ってから、元の手のひらサイズに戻ってヒートの肩に乗った。
ヒートはアハハすいませんと楽しそうに笑った。なにがおかしい。
「………最近すごい楽しいんス。今までこんなに良くしてくれる仲間に出会ったこと無かったんで」
思わず零れ出た言葉だったようで、口に出してからあわあわとして照れ臭そうに笑った。
「…姐さんは最初馬鹿だし目立ちたがり屋だし一緒にいたら気づいた時には地獄にいそうとか思ってたんスけど、今では前向きで誰とでも仲良くなれるすごい人だなって思ってます。チルハくんも最初は暗くてとっつきにくい子だと思ってたけど、とっても優しくてかわいい子だし、アランさんも最初は変人っぽいし近寄りたくないなって思ってたけど、面倒見がよくてかっこいい人ッス。」
全員最初の印象が最悪すぎて後半のフォローが追いついていないな。
まぁ、それでも、今の仲間をかなり気に入っていることだけは表情から痛いほどに伝わってきた。
「それに比べて俺は…馬鹿だし魔法は役立たずだしまさに木偶の坊って感じっス…」
悲しむ…という段階はもう超えているのだろうか、案外ケロっとした態度で言った。
「何とかして役に立たなきゃとか、手柄をあげなきゃて思って躍起になってた時もあったんスけど。このパーティーはきっと誰一人パーティの貢献度なんて考えてないんスよね。
例えばアランさんが大けがしたり、チルハ君が急に魔法がつかえなくなったりしても、姐さんは…いや、みんなはそのまま仲間として毎日を一緒に過ごすんだと思うんス。」
思ったよりもポジティブな気持ちであの言葉を言っていたらしい。少し安心した。
そして、ヒートの言う通り、傍から見ていると、確かに今のパーティーは短時間にしては信頼関係ができているように見える。
パーティはリーダーに似るのか。
否、考えてみればこのパーティのメンバーは全員ヒートと同じ孤独な日々を過ごしてきた奴らだ。
きっと、あの2人もヒートと似たような気持ちを抱いていることは想像に難くない。
「それでも俺はそんな大好きなみんなの役に立ちたいッス!!だからせめて足は引っ張らないように頑張ります!!」
ちょっと恥ずかしそうに愛を叫んでからヒートは俺が持とうとした分の荷物も全て持ち上げて歩き出した。
俺は何だか飼い犬が投げたボールを持ってきたような微笑ましい気持ちになり、ゴツゴツとした手で頭を撫でた。
「へぇ、随分今のパーティの人たちはお優しいんだねぇ」
その時、背後から寒気と共に嫌な声がした。
「でも、俺達はお前ら秩序を乱すパーティを見逃す程優しくないぜ」
そこには、何度か俺達と衝突し、今恐らく最も俺達を憎んでいるであろう男。トールが立っていた。
いや、それだけではない。
そこにはいつもギルドで飲んだくれていたり大声で会話をしている奴ら、恐らくトールの仲間、数十人がその背後に立っていた。
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