第30話 あえて空気を読まない友人はみんなのことが大好きなのだ

「一緒に光の勇者を探してくれる…?」


目覚めた少年は目をぱちくりと動かし、夢か現実か判断するように、発案者の天音を見つめた。


「おう!おにーさん…じゃなくておねーさんがいっちょ華麗に探してやりますよ!」


天音の純真な笑顔に絆されたのか、出会ってからずっと切れ長に細められていた目が本来の子供らしい丸い瞳に戻る。

しかし、さすがにそれだけで心を開くわけはなく、すぐに緩んだ心を締めなおすように元の野生の猫のような鋭い顔つきに戻った。


「ま、まだ信用してないからなっ」


それでも、この状況では俺達に頼ることが最も最善であることは明白だ。

一人でここを飛び出したとして、騎士に捕まる可能性、魔物に殺される可能性を考えたら俺達に頼る方がまだマシだろう。


「とりあえずこの街にいる間は俺と行動しよう少年!俺は触れてるものを透明にできるトレビアンな魔法を使えるんだ」


「魔法…!」


"魔法"まるでその単語自体に恨みを持つかのような怨念のこもった声だった。

アランも思わず差し出そうとしたのであろう手を引っ込める。


「お前も魔法使えるんだろ?見せてくれよ」


天音は恐らくそんな魔法に否定的な少年の心を読み取っておきながら、あっけからんとそう言った。

「……」

当然少年は嫌そうに顔を背ける。


「俺の魔法はこのゴーレムのゴースケを操る魔法。カッケーだろ?」


俺は子供に好かれるようなコミカルな仕草をわざとしてみる。

オイ。噴き出すんじゃない天音。

しかし、意外にも少年にウケたようで手を振ってみたらグッと掴まれて、上から下から色々な方向からのぞき込まれる。ちょっと恥ずかしい。


「気に入った?ソイツこう見えて強いから近くに置いておくといいよ」


怪獣やロボットが嫌いな男の子は存在しない。その常識はこの異世界でも同じであるようだ。

少年は俺を隣に置いた。


「とりあえずみんなで朝飯食おうぜ!その様子だと腹減ってんだろ」


「キッチン借りるぜヒート!」と言いながら天音は俺達を放置してキッチンに向かった。「お、俺も手伝います!!」ヒートも慌てて立ち上がる。

よって、この場には俺とチルハとアランという何ともコミュニケーションに不安のあるメンバーが残ってしまった。


「……………なんでこんなに俺をもてなすんだ…?後で食う気か?」


天音が去った後少年は言った。チルハとアランはその言葉に思わず吹き出す


「な!当たり前だろ!!俺に飯を与えて何になるんだよ!!油断させて後で騎士に突き出す気か!?」


少年は赤面して立ち上がる。熱くなりやすいタイプなのかもしれない。

その様子を見て2人は微笑んだ。いや、2人とも仮面とローブで顔が隠れているから口角が上がっただけではあるが。


「少年…と言ったか?ここまでくるのに色々な人間にあってきたのだろうな…だが心配はいらん!!」


緩急のある喋り方から急に繰り出される大声に少年はビクッと肩を震わす。


「ア、アラン、怖がらせたらだめやよ…」


「ふっ…向いて無いかもしれない…」


間違いなくそうだろうな。


「アマネちゃんはね。ちょっと変やねん。多分君が今まであってきた人間とはちょっとちゃうかも」


急に、天音の事を語り始めた二人に少年は怪訝な顔をする。


「ふはははは!!珍しく気が合うじゃないかリトルキャット!!」

「ひわ、せ、せやねアランくん…!」


この間までチルハがアランを苦手としている場面を多くみてきたため、この2人が仲良くしている場面はなんだか嬉しくなるな。


チルハは先ほどの天音のように少年に近づいて目線を合わせるようにしゃがんだ。


「あの子は、みんなが大好きやねん」


「はぁ?」


急に関係の無い話を始めたかのように見えるチルハに少年は棘々しいを返事をする。いつものチルハならそこで「ひわわ」と怯んでしまいそうなものだが、天音のことを語る時は、少し違うようだ。


「アマネちゃんはね、もう君の事が結構好きなんやと思う。だから良うしてくれるんや」


「は?!今会ったばっかだぞ!?」


「それでもハニーは、君を好きになれる。仲良くしたいと思ってるんだよ」


「せやね!君を助けたいとか崇高なことや、利用するとかの損得勘定が考えられるような人やないもん。純粋に、君の事が好きで、仲良うなったら楽しいだろうなって思うとるんや」


この2人の言う通りだ。天音はなんというか、人を好きになるのが上手い。

もちろん、この"好き"は恋愛としての意味ではない

だからこそ誰とでも仲良くなれるし、誰とでも仲良くなりたいと思っている。


そういえば、この世界に転生してからは特にそれが顕著だ。きっとその魔法のせいなのだろうな。


寂しがり屋な性質が根底にはあるからこその性質なのだろうが、こうしてみると、確かに誰でも好きになれるというのは立派な長所なのだろう。


天音のことを少しだけ見直した。


少年も俺と少しばかり感想が一致したようだ。なんと、その後、天音が意気揚々と作ってきた特製のコーンスープを受け取って、10秒ほどコーンスープとにらめっこしてから「…ありがとう」と蚊の鳴くような声でお礼を言ったのだ。


天音は目を点にしてから喜色満面の笑みを作り「おいしいだろ!!な!な!」と調子に乗って少年に話しかけまくった。

もうかなり少年のことを気にいてしまっているんだろうな。

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