友人と魔王と光の勇者と

第27話 読める友人は謎の子供に話しかける

「え、なんでヒートくんがおるん…!?」


寝ぼけ眼のチルハが言った。あまりにも当然な疑問である。


仮にも女子の部屋に泣きながら突っ込んでくる巨体の男というのはいかがなものだろうか。

いや、ヒートは一応チルハが男だと思ってるんだったけか。いや、さすがにそろそろ気づけよ。


「なんか、ズビズビしてて全然何言ってるかわからん。どうしたんだよヒート」


チルハが目をこすりながら泣きついているヒートのそばに行き、天音が落ち着かせるように背中をポンポンと叩くと、ようやくヒートのうるさいうめき声は単語としての様相を呈してきた。


「こ、こ、こ、子供が、部屋の前で倒れてたんス…」


寒いギャグが炸裂した後のような居心地の悪い沈黙が起きた。


「に、認知してやれよ…」


天音は若干戸惑いながらも失礼と的外れの中間の言葉を口にした。


「違います!!!!断じて!!!!でも全く心当たりがうわあああああああああああああどうしよう!!!」


「うるさ!?」


天音の言葉を聴いてタガが外れたようにヒートは叫びだす


「ヒ、ヒートくん近所迷惑やから~!」


「わああああ!!!…………すいません落ち着きました」

「うわぁ急に落ち着くな!!」


インターネットのコピペみたいな会話をしてから、ヒートは涙目で語り始めた。


「その…今朝、日課の走り込みをしようかと部屋をでたところ…その男の子がボロボロで倒れてて…辛うじて生きてそうだったんスけど…」


「今そいつどうしてる?」


「この時間で病院もやってないんでとりあえず俺の部屋で寝かしてるッス!」


「と、とりあえず救急セット錬成するわ!」


そうして俺達は朝6:00から迷惑にも大騒ぎしながら、廊下を走りヒートの部屋へ向かった。


「どう見ても、王都の入国許可証もってへんよね…」


目立つ傷口に絆創膏を張り終えたチルハが呟いた。


「やっぱそうッスよね!?俺何人不法入国者と関われんばいいんスか~!!」


確かに、この街の生活レベルに合わない…というと失礼かもしれないが、明らかに靴を履いてきた様子はなく、服もところどころ焦げ目が見える。


「魔物に襲われて逃げてきた子っぽいな?」


そうだ。天音。お前が心を読めばわかるんじゃないのか?

俺が心の中で語り掛けるが、天音は微かに首を横に振った。意識が無い相手の事を読むことはできないのか。


「チルハくんこれって…」

「せやね…多分、5区から来た子やんな…」

「5区?」


チルハとヒートの会話にアマネはお約束のようにキョトンとした。


「やっぱ知らないッスよね姐さんは…」


「馬鹿すんな!アレだろ王都から一番外れたスラム街的な…」


コイツ、心を読んでるな…

以前、地図を見せてもらってもらったのだが、この世界は王都を中心に5重丸のような構造をしているらしい。王都を取り囲む森の外に第一区があり、また第一区を取り囲む森の外には2区があり…といったような構造していて、王都に近い、つまり数字が若い地区程生活レベルが高いらしい。

恐らく5区とは最も外側に位置するスラム街のような地域なのだろう。


「じゃあ、王都の入国許可証なんて手に入るわけないっスよね…」


「そうなの?」


「まぁ…王都にいる騎士のほとんどは2区以上の人ッスから…」


もしかしたら入国許可証を与える試験的なものに、前世で言う学歴フィルターのようなものがあるのかもしれない。


「ヒートはどこ出身なの?」


「第一区ッス」


「意外と育ち良いんだな」


「ひわわわわわいいっくの人!??????」


チルハがかなり狼狽えていた。そんなに意外なのだろうか


「いい、いっくって言ったら貴族やん!?ヒートくんそんなすごい人だったん?!」


チルハにいては珍しく大声であわあわとする


「いや…俺はそん中でもかなり落ちこぼれなんで全然…」


「何?1区ってそんなすごいの?」


「う、ウチが3区出身やから雲の上の人みたいなもんやねん…」


謎の少年から完全に話題が移って、忘れかけて談笑しはじめた頃。

突如少年がむくりと起き上がった。

俺は天音を叩いて少年の存在を知らせる


「お、起きたか!元気?」


コンビニで友達と会ったみたいなフランクさで天音が話しかけると少年の焦点の定まっていなかった大きな瞳はキッと細くなって、獣のような戦闘態勢にうつった。


「お前ら何をするつもりだ!!!!王の騎士団か!?」


少年は敵意をむき出しにして犬が吠えるように威嚇をする。


「お!落ち着いてくださいッス!君は俺の部屋の前で倒れてて…」


ヒートの言葉で、自分が倒れる前の記憶が戻ったのか動きが止まった。天音はじっと少年を見つめている。心を読んでいるのだろう。


「俺達にまったく敵意は無いよ」


天音は両手を挙げて武器を持っていないアピールをする。


「嘘だ!!ここは悪い魔法使いの巣窟だっ!!ゆ、油断させて俺を殺すんだろ!!」


俺達を怯ませる目的の咆哮にしては、強がりにしか見えなかった。


「なんで俺達がお前に攻撃すると思ったの?」


天音は普段の少し粗雑な言葉を丸めて少年の目線に合わせた。


「………光の勇者を隠してるから…」


俺達は少年の言葉にクエスチョンマークを浮かべた。


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