第28話 冗談好きの友人はとある事実に驚愕する

――光の勇者


先日、王に最も近い強い戦士が集まるという王の騎士団の行進を見たが、

天音曰く、その目的は光の勇者を探すことらしい。


魔王?を倒せるだけの力を持った勇者だとかなんとか言っていたな。

光の勇者とかいうは、今の騎士団では魔王に勝てるだけの力は無いがその光の勇者がいるだけで戦況が変わるような何かなのだろうか。


「光の勇者が!!光の勇者がこないから!!!!父さんも母さんもみんなみんなみんな死んだんだ!!」


少年は泣き叫ぶ。俺達はただ、それを黙って聞くことしかできない。

少年もこの叫びが八つ当たりであることに気づいたのか、次第に勢いが弱まってきた。「…なんか言えよ…!」と小さな声で呻いてから、部屋の隅にうずくまる。


天音はそれを見て、何か思い立ったように立ち上がって、ヒートに何やら耳打ちをする。ヒートが頷くとスキップ気味で台所へ向かった。


「落ち着いた?」


天音は台所から何かを持って少年に近づく。それから、少年の目線に合わせるようにしゃがんで何やら飲み物を差し出した・


「警戒するのはいいけど、傷大丈夫?」


少年は警戒を解かずに懐かない野生動物のように天音を睨んだ。


「とりあえず、お前の怪我を治療してくれたこのお姉ちゃんにお礼を言おうな!」


自分に会話の矛先が向くと思っていなかったチルハは「ひわっ」と小さな悲鳴をあげる。少年は包帯が巻かれた腕とチルハを品定めするように交互に見つめる。


「…傷は、痛くない?」


チルハは恐る恐るというように、少しぎこちない笑みを浮かべながら少年に話しかけた。

ローブをして顔の表情が見えにくく怪しさ満点の見た目ではあるが、その無害そうな物腰や、治療をしてもらったという恩義を感じてか、少年は「…痛くない」と小さくつぶやいた。

それを聞いて天音はヒートとチルハと顔を見合わせて1ミッションを乗り越えたような笑みを浮かべた。


「…人が大勢いて緊張してるんだろーな。チルハ、ヒート一回席を外してもらっていい?」


チルハとヒートは素直に頷いてスッと部屋から出ていった。


「飲む?」


2人がいなくなったところで天音は少年の隣に座った。


「何が入ってるかわからない…」


「かわいくねーガキだな」


そう言いながらも天音は楽しそうに笑っていた。口元だけは。

目だけは一ミリともそらさずまるで少年を目で吸い込むように見つめている。

チルハとヒートを外に出したのは、この人の心を読む魔法を隠すためか。


「俺もなんか飲もうかな。ゴースケ持ってきて~」


人使い…いやゴーレム使いの荒いやつだ。それでも今は天音の魔法がこのよくわからない状況を打破する鍵であるため、中くらいのサイズになり、ヒートの部屋の調理場に向かった。

瓶に入ったコーヒーをグラスに注ぎ砂糖を3杯入れてストローを指してから天音の元に運ぶ。すると、少年はスヤスヤと寝ていた。

天音はシーっと人差し指を口元に当てる。言われなくても声なんて出せないよ。

っていうか俺が目を離してる隙に何したんだ?催眠術でもかけたの?


「俺の聖母力が高すぎるせいで安心してねむちゃった!」


あからさまな嘘をつくんじゃない。寧ろお前はクソガキ属性だろ。


「轟介きゅんったら失礼しちゃう!授乳プレイもオムツ替えプレイもお手の物だわ」


今は冗談はいいんだよ!!


「たはは、ごめんごめん。さっきの飲み物にこっそり睡眠薬的なもの盛っただけ」


睡眠薬?!


「だいじょーぶ!チルハに前に作ってもらったやつだし体に害はなかったから!」


そういう問題かよ…っていうか何故…


「この子から読んだこと共有したいし、寝かせた方が都合いいだろ?寝起きで記憶も混濁するだろうから寝ぼけてうっかり口走ったことにすればいい」


なんだか悪役令嬢のような笑みだ。まさに破滅フラグが立ちそうな調子の乗り具合である。


「コイツは地元が魔物に襲われて、逃げてる途中で騎士団に助けを求めたらあしらわれたらしく、腹いせに殴り掛かったら捕まって逃げてきたらしい」


後半は察していなかったよ。酷い話だ。騎士団は任務外の仕事なんてしないということなのだろうか


「そう。それは俺もムカツク。でもそれよりヤバい情報を持っててさ」


天音は俺からコーヒーを受け取って「あ、この情報はお前だけに話すやつだから」と前置きをしてからストローからズズっとコーヒーをすすって言った。



「その子や騎士団が探してる光の勇者って俺のことかもしれない!」



冗談にしては悪質すぎるぞ。


しかし天音の表情は自嘲と困惑が入り混じる、冗談とは思えない笑顔だった。


勘弁してくれよ。

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