第22話 引く手あまたな友人と2人きりになりたい


アランと天音のデート以降、俺は天音と2人っきりになれるタイミングをうかがっていた。


「おはよーアマネちゃん…」


「おはよっ!チルハ!」


俺と天音は現在チルハの武器だらけの部屋で暮らしている。


天音は意外にも美容に気を使っているようで、チルハと共に洗面所で身だしなみを整えにいった。どんな美人にも維持コストはかかるらしい。

チルハの便利能力で化粧水などの道具を揃えてもらい、顔の整え方やらなんやらをチルハから教わっている。


こういった時、俺は本当に居場所が無い。

俺の姿がゴーレムであるためまさか中身が童貞だとは知らずにチルハがよくわからないタイミングで着替えをしだしたり、だらしのない天音の脱いだ服が転がっていたりするため、俺はベッドの隅で大人しく窓を見ていることしかできないのである。


そんなこんなで、朝、天音と2人きりになれるタイミングは皆無に近い。



「ちわっす!姐さん!」


「morning…子猫ちゃん達…」


ギルドで完全に居場所を無くしている俺達は、ヒートの部屋が溜まり場となっている。


先日、仲間となったアランが魔法で透明になり、目ぼしい依頼を見つけてくる。

それをこなして報酬を貰うことで俺達は生活を続けている。


一応、以前行ったヒートと俺達がこなした西の森の魔物の依頼だけでかなり貯金はあるのだが、ヒートが「姐さんが何かの間違いで投獄された時の保釈金を確保しておかないと…」とかなんとか尊敬しているのか失礼なのか判断に迷う心配をしているため、ある程度のお金を稼ぎながら生活している。


「なんかまた依頼増えてきた?今度は東の森でも壊滅させるか!」


「0か1しかないんスか…!?」


そして、会議は大抵この馬鹿のせいで踊りまくる。


「仲間も増えたし以前ほど大変じゃないって!」


「私はみんなでどこまでできるのか試してみたいかも…」


「チルハくんまで~!ま、まぁ俺もまた思う存分姐さんの役に立てるなら…」


再び魔物の一掃を目論むアマネに、珍しくチルハが同調した。

こう見えて生粋の武器オタク且つ魔法マニアで魔法を極めるためだけに不法入国をしている女だ。きっと自分の武器が活躍するところを見て見たいのだろう。


「俺は反対だなキャッツ達…」


そこに、意外にもアランが異議を唱えた。室内では異質すぎる仮面を抑えて謎のポーズをとっていた。存在がうるさいとはこのことを言うのだろう。


「キャッツ達の願いを叶えたい気持ちはやまやまだが、恐らく本格的に国に目に着けられる覚悟をしなくてはならないな!」


「は?他の戦士じゃなくて?」


確かに、他の戦士は依頼を大量にこなされることで自分たちの仕事がなくなり再びギルド裏で襲ってくるかもしれない。

しかし、何故国に目を付けられなくてはいけないんだ?依頼をこなすのは一応国の平和のためという名目ではないのだろうか?


「また私闘なんてしたら騎士団に睨まれちゃうっスよ!」


「…まぁそういうことだ!ハニー!騎士団はこの国で最も正義であるとされる集団だ!睨まれれば国を敵に回すことと同義だろう!!」


「え~何それ~仕事をこなして国に睨まれるなんて意味わかんねー」


アランは何かを隠しているような言い方をするな。

魔王の話をしていた時からそうだ。やはりアレでもベテラン戦士なだけあって何か知っている情報があるのだろうか。

天音とヒートは特に気にしている様子は無いが、ふと、隣を見ると、チルハも明らかにアランに何かを言いたげな目線をちらちらと向けていた。


「じゃあ、こっちの依頼とかどうだろ」


「それは北の森のミッションだな。ちょっとここからだと遠いかもしれない」


しかし引っ込み思案気味であるチルハは結局うつ向いてしまい、話は別の話題へと変わっていった。おしい。


その時、外から愉快な演奏の音が聞こえてくることに気づいた。


野球の応援のような賑やかな歓声とブラスバンドのような華やかな演奏が聞こえてくる。


「なんだなんだ?」


「騎士団が依頼をこなしに行くんだ」


「騎士団の行進ッスよ!姐さんそういえばここにきて短いっスもんね見た方が良いッスよ」


「え?依頼をこなしに行くだけでこんな派手に祝ってもらえんの?羨まし~俺も騎士団入りたい」


先程、話題にあがっていた王仕えの騎士団のようだ。天音の言う通り依頼をこなすだけでこんなに派手な催しが行われるなんて、思っていたよりもとんでもない集団なのかもしれない。


「すごい人混み!」


気づいたら天音は窓から子供のように外を見ていた。アランとヒートもそれに続く。

小さな窓に体格の大きな男2人が天音を挟んでいる状態なので天音は「むさくるし!」と呻いている。


「見に行ってみるッスか?」


「マジ?捕まんない?」


「まだ何もしてないッスよね?!…あ、でも前回入国許可証持ってないとかいって逃げっぱなしだったのか…」


「俺がトレビアンに全員まとめて透明にしてやろうではないか!!」


「それって全員くっつかなきゃならんってこと?結局むさくるしーな!」


「ふはははははよいではないかよいではないか!」


アランはヒートと天音を無理矢理自分に引き寄せる。


「さぁ!リトルキャット!君もおいで!」


「ひわわわわわわわ!」


離れたところでボーっとしていたチルハにも呼び掛ける。


「俺の魔法は透明になっているものが触れているものも透明化する!つまりハニーに捕まれば君も透明になることができる!」


服なども一緒に透明になる理由はそれか。意外と広範囲を透明化することもできるのだな。


俺は恥ずかしいのか行くのを躊躇しているチルハの手を引いて天音と手を繋がせた「えへへ」なんてかわいらしく照れ笑いをしている。

俺はそこからアマネの肩の上に乗った。


こんなにみんなでくっついてるんじゃ、二人きりどころの話じゃないな。

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