第21話 寂しがり屋の友人は手を差し伸べる

俺が天音から離れていった時


正直、「天音はもう俺の気持ちなんて考えていないのだろうな」なんて女々しい言いがかりをつけ、内心恨んですらいた。


なんだ、あれ以来アイツのことを考えていなかったのは俺の方だったんじゃないか。


「――そう、だから俺はそんなあの子を一目見て、守りたいと思ったんだ」


俺の自分への呵責など知る由もないアランは突如そんな言葉を漏らした。

天音を、守りたい?


「今考えると傲慢な話だったよ。あれは俺なんかに守られるような器ではない」


アランは楽しそうにチルハとヒートとじゃれつく天音を見て笑った。


たった一回のデートでここまで分析してしまうだなんて、こう見えてよく人を見ているのか、はたまた恋の力というやつだろうか


「あぁいうタイプには多分、絶対に離れない他人が必要なんだ。だから、俺がいてやらないとなんて思ったが、」


ずっと、今日一日の大半を天音を見つめて過ごしていたアランの視線がはじめて俺に注がれた。


「君がいるんだな」


絶対に離れない他人、


俺が天音にとってのそれなのだろうか。


俺なんかに何故そんなに信頼を置いているのだろうか

たまたま前世からの知り合いだったからにすぎないだけの男だ。


だが、同時に思った。

絶対に離れない…かはわからないが、確かに俺はアイツを見捨てるなんてことできないのだろう。


「ふはは、ストーンキャット最後に独り言に付き合ってくれて感謝しよう!君はトレビアンな男だよ」


アランは急に、いつもの調子に戻り、立ち上がった。


「俺はこれでオサラバするよ。きっと彼女に俺は不必要だから」


随分と聞き覚えのある言葉だ。俺が今、最も後悔している3文字の単語。


アランは後ろを向き足元から消えていく。最後までかっこよく消えようとしているのだろう。


なので、俺は巨大化し、アランの首根っこを掴んだ


「ストーンキャット?!」


そして俺は窓が開きっぱなしのヒートの部屋に


「何をするぅうううううううううううう!?」


思い切り投げ込んだ


「アラン!?」


「何!?どういう状況やのん!?」


「大丈夫っすか!?」


あまりにも衝撃的な再登場を果たしたアランに3人は駆け寄る


「少し荒っぽすぎないかストーンキャット!!!!」


「あ!ゴースケそこにいたのか!」


窓から笑顔で手を振る天音にピースサインを返しておいた。

俺だってお茶目な行動をしたいときもある。


「なんのつもりだストーンキャット!?俺はスマートにトレビアンに帰ろうかと…ん?」


よくわからないことを言うアランを、ヒートとチルハが両側からホールドした。


「逃がさないッスよ!アランさん!」


「アマネちゃんと何しとったか、聞きたいんやけど…!」


「よくやったな二人共!そのまま離すなよ!!さっきの恨み!」


天音はホールドされたアランにとびかかり思い切り脇をくすぐりはじめた


「ふはははははは!!!」


「素の笑い方もそれなのかよ…おもしれ―奴だな…」


アランは戸惑いながら窓の外の俺を見る。


お前と天音が同類っていうなら、お前だって本当は寂しかったんじゃないのか。


運のいい事に天音は自分を慕ってくれる人間を二人も見つけているんだ。

お前だって打ち解けられるはずだぞ。なんてたって、幼馴染の俺が公認するほどには似た者同士みたいだからな。


まぁ、生憎ながらコミュニケーションが取れないので理由は自分で考えてくれ。


「お前ここまで来て仲間にならないの?」


天音は純粋な顔でアランの顔を覗き込んだ。


「いや、しおらしくする必要ねーや!今すぐ俺のパーティー入れ!これは強制だからな」


そう言って、この愛すべき暴君は笑顔で手を差し伸べた。

アランは呆けた口をしてから、口角を上げた。


「…ははっはっはいいだろうこのアラン・クリミアのトレビアンな力が必要なんだな!!」


その手は女性をエスコートする優しい手ではなく、対等な仲間としての力強い握手であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る