第23話 にぎやかな友人はひとりにならない
「そもそも王都にはある程度力を持った戦士と国から認可を受けた商売人しか入ることができないが、王仕えの騎士はその中でもさらに力がトレビアンな集団だ」
「力がトレビアンってなんだよ」
俺達は喧噪の中心で、王仕えの騎士団の行進を眺めていた。
神妙な顔をした戦士と、盛り上げるために笑顔でパフォーマンスを行う演奏者のコントラストが異様で少し面白い。
「俺達下級戦士との違いはこなす依頼の難易度だな。報酬も10倍近く違うらしいが」
「なるほどね~大変そー」
王仕えの騎士団の説明をするアランに天音は雑な返事をする。
「だから、みんなあんま積極的に依頼をこなしたがらないんスよね~やっぱ痛いのは嫌ッスから…よっぽどのもの好きじゃなきゃ王仕えの騎士なんて入らないッス」
「ウチはもっと自分に力があったなら入ってみたかったなぁ」
これまた意外な物好きが騎士団へのあこがれを口にした。
「へ~意外っスね!なんでっスか」
「あのお城の中どうなってるかちっこい頃からずぅっと気になっとったんよ~!絶対貴重な資料とか未公開の歴史本とかたくさんありそうやし…!」
「出た!妖怪好奇心お化け!」
「なんなんそれ~!」
「大人しく見えるくせに探求心豊かすぎて行動力がすごいかわいい妖怪のことだ~!」
そう言いながら天音はチルハの頭をローブの上からぐしゃぐしゃに撫でた。なんだかほほえましい光景だが、天音の中身が男だという事を加味すると、不安にもなる光景だ。
「そういえば、今回の依頼は何スかね?パレードの規模を見るに結構難関そうな依頼ッスけど…」
「周りの人の会話聞いてみよっか?」
天音はフムフムと大袈裟に聞き耳を立てる仕草をする。そんなんで聞こえるわけ…
「なんか光の勇者?とかなんとかを探しに行くってよ」
わりとしっかり聞けてるな
「ひわわ、アマネちゃん耳ええなぁ」
「光の勇者?ってなんスかね?伝説っぽくてカッコいいっスけど…」
「アラン知ってる?」
「ふっ、頼ってくれて嬉しいぜ…ハニーだが全くわからん…」
「なんだよそれ~」
「しかし、おかしいッスね。人探しなんかに王都仕えの騎士団が出陣するなんて」
「依頼ってほとんど討伐系やからね…なんなんやろ光の勇者って…」
「なんか、魔王?を倒せるだけの力を持った勇者?を探しにいくらしいぜ~隣の人が話してるの聴こえてきた!」
「それは本当か?ハニー」
「協力を要請しにいくんスかね?」
「ますますわけわからん依頼やなぁ」
「ま!俺らには関係ないだろ!腹減ったし飯食いいこうぜ」
今すぐ先に俺達が探し出しに行こう!とかなんとか言い出しそうな天音だが、空腹には勝てなかったらしい。俺達はくっついたまま食品を買いに行った。
「ね、チルハくんチルハくん!あの二人、やっぱなんかあったんスかね」
飯を食いに行く途中、自分がクソデカ大声であることを自覚したのか、天音とアランから離れたところでヒートがそんな話をしだした。
「ひわっ!?アマネちゃんが?!」
チルハがあからさまにショックを受けた顔をする
「なんか結局プロポーズの返事も俺ら聞いてないですし…」
「そ、そんなん断ったに決まっとるやろ!アマネちゃんやで?」
「やけに仲いいし…」
「アマネちゃん誰にでもあんな感じやろ」
珍しくチルハが反論する。相当天音に懐いているのだな。
「しかも二人っきりでハッピー恋愛劇みたらしいし」
「な、なんなんそれ!?知らんよ…」
「ほら前話題になってたやつッスよ!怪盗が盗みに入る先の女と身分違いの恋をするけど女には実は婚約者がいて恋は実らないと思いきや女の方も怪盗に恋をしてて駆け落ちに二つ返事するもんだから二人でさっさと駆け落ちしてなんか結ばれるやつッス!」
「ひわ…見る楽しみ全部奪ってたわ…まぁ、見る予定あらへんけど…」
見事に全てをネタバレしてきた。
しかしハッピー恋愛映画だとは意外だな。天音の台詞はどう考えても男と結ばれないやつだろアレ。ヒートの勘違いか?
「おーお前ら何の話してんのー?俺も入れて♡」
「姐さん!」
「こ、この間アマネちゃんが見たって劇がどんなのだったのかな~って」
慌てて取り繕うチルハ
「あ~この間のね!面白かったよ!今度みんなで見に行こうか」
チルハ天音に反応にかなりホッとした顔をした。思った以上に天音になついているのだな。たった今ネタバレされたばかりなのによく行く気になるな。
そして、なんとなくわかった。
本当に天音は恋愛などは興味ないのだろうな。
寂しがりのコイツは映画そのものよりも映画をみてみた相手と語り合う行為がメインなのだ。そしてそれは多ければ多い程嬉しい。
…コイツと2人きりになることはやはり特性上難しいことなのかもしれない。
こうして結局午前中はほとんど4人くっついて行動していたため2人きりになるタイミングは皆無であった。
「じゃあ午後は修行しよ!修行!」
そして午後も2人きりになれる気がしない予定がたてられていくのであった。
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