第14話 性根の悪い友人は一泡吹かせる
「よっ、トール何?何の用?」
厄介な人間に絡まれてしまったと、固まる俺達をよそに、天音はあくまでもフランクに階段の上に立った男に声をかけた。
「いーや、ギルドのはぐれ者たちが何してるのか監視する義務があるかなーって」
トールは含みのある言い方をしながら階段を下り俺達に近づいてきた。
一歩一歩近づくたびに緊張感が増す。
「ギルドの頭領気取り?」
「いや、実際1、2を争うトップレベルの実力者っスよ!その中でも特に派閥が大きいのがトールさんなので実質頭領みたいなもんなんス」
陰キャは陽キャに怯え観察していたからよく知っている。
男というのは、仲間の多さで自分の強さを示す。カーストの高い奴程人脈が広いのもそのせいだろう。
「お前はトールにビビりすぎだよ。この天音様がついてるんだぞ」
そうヒートに話しかけている隙にトールはチルハに近寄った。
「ん?なにこれ」
「ひわっ!」
トールはあからさまに意地悪をするようにチルハからナイフを取り上げ、チルハの背丈では届かないところまで手を伸ばした。
「…離して…」
「へぇ、まともに喋れんじゃん。いつもビクビクしてるから子犬かと思ってた」
「そ、そのナイフは…ウチの子や」
「へーこれナイフ?このご時世に?」
「そうだよ。文句あるか?」
チルハの代わりとでも言うように天音がナイフを構え、答えた。
「ははっ、そんな刃物如きで何ができるの?炎が切れる?風が切れる?魔法第一主義のこんな世界じゃ武器なんて何の役目も立たないでしょ」
明らかに小バカにしたように言う。
チルハがあんなに愛情を注いでいる、子供とでも言うべき武器が、使ったこともない奴に馬鹿にされている。
その状況に全員にふつふつと怒りが湧いてきていた。
「…なんでそんな言い方するんだよムカつく奴だな。」
天音は意外にもキレたりせず、冷静に嫌味を言った。
「あははゴメンゴメン棘のある言い方しちゃった。でも俺も最近の君たちには秩序を乱されてムカついてるんだよね」
「秩序だぁ?」
あぁ恐らく1日で大量の依頼をこなしたあの日の事を言っているのだろう。
この男も、やはり、自分の職が変わってしまう不安が大きいのだ。
「っていうかそもそも事実を述べただけだよ。実際俺の風魔法を切り裂ける?」
「いーや無理だな」
何かを言いかけた天音は、突如足元の石を高く蹴り上げた。
「だけど」
当然、全員の目が青空に舞う小石に向く。
「高慢でムカつく魔法使いの服を」
天音は石に目が言った隙に一気に距離を詰め
「こ~んな、お恥ずかしい感じにすることならできるんだぜ」
トールの服を縦に切り裂いた。
「貴様っ!!!」
「いやーーーイケメン様のサービスショットだ~」
激高するトールに、ゲラゲラと下品に手を叩きながら大声で笑うアマネ。気づいたら攻勢は一転していた。
「女だからって優しくしてもらえると思うなよ…!」
トールが魔法を打つ体制になる。
「ボムッ!!!!」
ヒートの掛け声と同時にトールの足元が爆発し、体制を崩す。
「に、逃げた方がいいッスアマネさーん!!」
ヒートはチルハを米俵のように抱えて空いた片手で天音の手を引いた。
「は?コイツ如きに逃げる必要ねーよ」
「厄介なことになるッスから~!」
図体の割に弱弱しい態度でお願いするヒートを見て、渋々天音も走り出した。
「ふ、服をどうぞ!!」
ヒートに後ろ向き抱えられながらも布のような何かを錬成したチルハが飛ばす。
トールが体制を戻す頃には俺達は目に入らないところまで逃げることに成功していた。
「最近なんか逃げてばっかりっスね…」
息を整えながらヒートが笑った
「チルハ君、最後何か飛ばしてましたよね?」
「もしかして服でも錬成したのか?優しい奴だな!」
天音は大型犬を撫でるように雑にチルハの頭を撫でた
「服は服なんやけど…」
チルハは照れ臭そうにごにょごにょと言葉を紡ぐ。
実は俺は割としっかり目撃していた。チルハが投げたものを。
施しで与えるにしては目が痛い青色の布。
「こんなものを…」
口で説明するのが難しかったのか、チルハは錬成魔法で先ほどと同じ物質を作り出した。
「法被?!」
生前、お祭りなどで見られた服、法被のような服であった。
「後ろに何か書いてあるっスね?」
――敗北者
あまりにも端的に尊厳を破壊する単語だった。
そのあまりも乱暴なレッテルに天音とヒートが同時に噴き出す
「お前マジか!!」
「意外と性格悪いっすねチルハくん」
チルハはやはり恥ずかしそうにうつむいて照れていた
少しマイナーな趣味を持つ少女――チルハ。
控えめで心優しい娘と思いきや、意外と図太く強かだ。
案外、天音と波長が合うのかもしれないな。
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