第13話 不思議な友人は修行する


翌日。俺達はチルハの部屋にいた。


「拷問部屋か?」


思わず天音がそう言ってしまうほどに、壁にはゴツイ武器が装飾の如く取り付けられていて、部屋の奥の方には飾り切れていない武器の山も見える。


「ちゃうねんちゃうねん!」


チルハは顔を赤くしながらそういうが、置いてある本も、武器に関するものばかりでどう見ても武器オタクとしか言えない部屋だった。


「…アマネちゃん、これ使う?」


「お、小刀か?」


「これはブギオっていて短剣みたいなナイフなんやけど…」


チルハは嬉しそうに知識を繰り広げる。

生前学校で友達だったアニメオタクを思い出す早口解説だ。歴史を解説してくれているようだが、異世界であるため話にでてくる偉人も国もさっぱりだ。


「はっごめん!!思わず」


「ううん。お前がどんだけ武器好きが伝わってきたよ」


「ひわわわ、恥ずかしいわぁ…」


わかるわかる。陽キャはオタクにこういう態度でいてくれるから逆にこっちが恥ずかしくなってしまうんだよな。


「…自分で扱えなきゃあんま意味ないんやけどね」


チルハは自嘲気味に零した。

しかし天音は何でもないように「そう?俺使いたいんだけど」と答えた。


「ふふ、おおきに。優しいなぁアマネちゃん」


「そう簡単に人を信じていいのかぁ?俺がお前の武器を使いたいがためにすり寄ってるだけかもよ?」


「ひわわわわわ」


そう言ってチルハの脇をくすぐる。

女子同士じゃなかったら少し危ない絵面だった。


「それでもええねん。この子達が生きる道があるなら」


チルハは手にもったナイフに向けて母のような慈愛に満ちた顔を見せた。

いや、実際母で間違いないのかもしれない。ここにある武器を生み出したのは誰でもないこの少女なのだから。


「剣を覚えるって言っても教える人がおらんね」


「いつもどんな特訓してんだ?」


「本見て…やってたんやけど…」


チルハは武器の山から剣を取り出す


「うんしょ、うんしょ」


しかし剣を持ち上げるにも一苦労のようだ。昔見たネズミが大きな果物を運ぶ絵本を連想してしまうような和む光景ではあるのだが


「なるほどな…」


「持ち上がらへんねん…えへへ」


普通の女の子と比べても小柄であるチルハに剣はあまりにも大きかった。


「じゃ、チルハは本みて俺の練習指南してくれ!」


そんなチルハを見て天音はそんな役目を与えた。もし、あのまま生きて入れたら人事とか向いているのかもしれない。



数日後。


小学生の頃、一度たりとも朝顔の観察日記や絵日記を完成させたことのない天音は意外にも剣の特訓は続けていた。


「どうっすか?特訓の様子!!」


階段に腰掛けてキャッキャっと楽しそうに特訓する二人を見つめていた俺の横にヒートが座りこんだ


「…ってゴースケさんに言っても俺がわからないから会話できないか…」


努力はする。


「姐さん不思議なお方っスよね。」


ヒートは俺と同じように特訓する二人を見つめたままぽつんと漏らした。


「マジでこの世界の常識が通じない異世界から来たみたいな」


勘が良いな。概ねあっている。


「よっ、ヒート!差し入れか!?」


そんな男同士の会話を遮るように女の姿をした男が間に入ってきた。


「差し入れ!?気が利かずすいません!!手ぶらっス!!」


あまりにも卑しいぞ。


「アマネちゃん要領ええね…覚えるの早いわぁ」


てくてくと、絵本にでてくるペンギンのようなかわいらしい歩き方で、大きな本を抱えたチルハもやってきた。


「お前の教え方が良いんだよ。いっぱい勉強したんだな!」


「えへへ」


「随分仲良くなったんすね!!チルハ君!俺も仲良くなりたいっす!」


「くん?なんで?」


呼び方に異を唱えたアマネの口を慌ててチルハがふさいだ。


そういえばコイツ男装してたんだったな。割とバレバレな感じだったけど…


「ひわわ、えっと、えっと、ヒート君?」


「はいっス!俺が近づくたび逃げるんで嫌われてるかもしれないっすけど、俺はこれから仲間になる子と仲良くなりたいっす」


「もしかして、根にもっとるん…?」


爽やかに出された手に戸惑いつつもおずおずとチルハは手を取った。

ヒートは加減をしらないのか乱暴だろうというぐらい大げさな握手をした。

チルハはまたもや、ひわひわ言っている。大型犬に振り回される子猫みたいな図だ。


「へ~このご時世に武器とか練習してんだ」


その時、生前の天音に若干似た調子の軽薄な声が響いた。


いや、天音には似ても似つかない、アイツは心の底から楽しそうな話し方をするが、今声をかけてきた人間の言葉は全く笑っていなかった。


「相変わらず、場をかき回すようなことばっかすんね~そこまでして目立ちたい?」


そこに立っていたのは、ギルドトップクラスの実力者、トールであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る