第6話 能天気な友人はパーティーを組みたい
「で、で、賞金何円ぐらいもらえたの?」
「…3日分の飯代っスかね」
「はぁ!?轟介を倒してそれしかもらえねぇの!?ちょっと抗議してくる!」
駆けだそうとするアマネをヒートが首根っこを掴んで制した。犬か。
「アンタ初めて来る町でアグレッシブすぎませんか!?」
完全に同意だ。動いてなくちゃ死ぬマグロかなんかなのだろうか。
「…とりあえず俺、アンタの分の飯も買いにいってくるっすから、アンタは大人しくしていてくださいね。」
「はいはい」
「もう一度言うっすよ!くれぐれも目立つ行為はしないでくださいッス!!」
オイオイ滅茶苦茶信頼されてないぞお前
「失礼な奴め。俺を幼児だとでも思ってんのか?なぁ轟介」
まぁ、生前のお前は限りなく小学生男子に近い生物のように思えたぞ。
「そもそも目立つ行為をする体力なぞ残っておらん!」
微妙に周りの視線がチクチクと刺さる。
既に目立ちかけているな。恐らく他人からみると、今の天音は滅茶苦茶デカい一人言を言っている女に見えるのだろう
「あー腹減った。こっちの世界の飯もうまいといいなーこっち来てからよくわからん木の実みたいなものしか食ってなかったし。楽しみ楽しみ!」
異世界転生して性転換もして密入国もして飯の心配して楽しみがあるなんてすごい奴だ。
能天気な天音を見守りつつ、俺は周りを見渡す。
この酒場とギルドが混ざったような場所は、ヒートのような低い身分の戦士が多く集まる場所らしい。いくつかのグループに分かれて酒盛りをしていたり、地図を広げて作戦会議をしていたりと、思い思いの過ごし方をしている。
「よぉ!おねーさん!!」
その時、軽薄な声と共にアマネの肩に手が置かれた
「俺?」
「そうそう、変わった話し方すんね」
「まぁな!」
俺からしたらコイツは男のまま美少女の皮をかぶっているだけなので違和感がなかったが確かに、この見た目でこの口調は変わっていると言わざるを得ないだろう。
「お姉さん初めて見る顔だけど、かわいいね1人?」
「いや?3人で来た。今飯持ってきてもらってる」
「へぇーこんなカワイイ子置いてくなんてひどい男達だね」
いや、俺はここにいるんだがな。これはナンパというやつだろうか。
…不本意だが、大変不本意だが天音に危害を及ぼすようだったら戦闘もやむなし…
「もしかしてナンパ!?」
俺の不安とは裏腹にやたら嬉しそうに天音は立ち上がった。
「いやぁ!俺やっぱ傍から見ても可愛いよな!?アンタみたいなイケメンにナンパされるぐらいには!!」
「う、うん。え?ありがとう」
天音の勢いについていけていないチャラ男はよくわからないままお礼を言った。
いや、俺も天音の勢いには未だついていけないが。
「俺、今強い仲間探してんだけどおにーさん強い?」
「パーティー組みたいの?お姉さんなら大歓迎しちゃうけど」
後ろの男くさい取り巻き達がワッと盛り上がった。嫌な感じだ。
「いや、お前が俺のパーティーに入らない?」
あまりにも身の程知らずな天音の提案に場の空気が凍った。
「アマネさぁああああああん!!!!」
そこに図体と声がでかい男が走り寄ってきた。ヒートだ。
「目立つ行動しないでくださいって言ったっスよね!?」
「目立ってたか?コイツがナンパしてきたから俺のパーティーに入らないか聞いただけだぞ?」
「なんで無難な受け答えができないんすかアンタは!?その人はこの中でも指折りの実力者のトールさんっスよ!?おこがましすぎるッス!!」
「お前このチャラ男にビビッてんの?お前の魔法だって何かすげーじゃんバーンって」
するとトールと呼ばれたチャラ男はもう一度、天音の肩に手を置いた。
「いやーお姉さんコイツの魔法マジで使えねぇよ。見たことあるならわかるっしょ?」
半笑いでトールは言った。ヒートの表情が曇る。
「コイツと同じパーティーならさすがに俺も入らないかなー…コイツ全然チーム戦できねぇの」
ヒートの行き場の無い拳に、力がこもったのがわかった。
「なんでだ?バーンってなる奴メッチャ攻撃力高そうじゃん」
無邪気にアマネはトールに尋ねる。
「いやいや、コイツの魔法、みんなが思うような爆発を起こすんじゃなくて、大きい音と光と風圧だすだけなの!1回ずつしかできないしコスパも超悪いわけ。しかも、光と音に敏感の魔物がその爆発音聞きつけて無駄に集まってくるもんだから同じパーティーにいたら永遠に戦い終わらなくて超大変。まぁぶっちゃけ見た目だおし?」
「そんな言い方ないだろ」
さすがに俺もムッとくる言い方だった。
「ごめんごめん言いすぎた!これでも誰もパーティー組んでくれなくてかわいそうだから俺も気にかけてんのよ」
「心にもない事を…」
「アマネさん」
語気を強くしたアマネに、冷静なヒートの声がかぶさった。
「いいんスよ。その通りなんで」
今までの覇気が全く感じられない声でそう言った。
力強く握られた拳に感情を逃がしているのが一目でわかる。
「そうそう。こんなのより俺のパーティーこない?男ばっかだけど女の子大歓迎だよ♪俺の風魔法なら汎用性も高いしお姉さんの役に立てちゃう」
天音がヒートを振り返ると、ヒートは「どうぞお好きに」と言ったように力なく笑った。
天音はトールに一歩近づいて言った。
「いいや!!コイツの魔法はすごいね!!」
「「は?」」
場の空気が一気に白けた。
「なんならお前の魔法よりコイツの魔法の方が役に立ちそうだわ。さっきの話は無しってことで~」
しかし、全く空気を読まず天音は煽り続ける。一体何を考えているのだろうか。不相応な天音の言葉にヒートはむしろ迷惑そうな顔をしている。
「いやいやお姉さん後悔するよ?!確かに言い方は悪かったよ。謝るから俺のパーティーに入らない?」
「入らん。お前がどうしても俺のパーティーに入りたいなら考えてやらんこともない」
アマネはくるりとヒートの方に向き直った。
「だが、お前には俺から頼むよ。ヒート?俺のパーティーに入らない?」
アマネはヒートに手を差し伸べた。
ヒートはアマネの手に手をのばす。
しかし、音を立ててその手を払った。
「お世辞はいらねーっすよ」
「はぁ!?こっちから頼んで「同情なんていらないって言ってるんスよ!!!」
場が再び静まり返る。
「アンタも俺をかわいそうって言うんスね」
「は?そんな事言ってねぇだろ!」
「いや、いいッス俺は実際役に立たねぇ男っスから」
「大丈夫。俺は一人でやるっすから。」
ヒートはそう言って、酒場から走り去っていった
気づいたらこの場の目線が全てこちらに集まっていた。
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