第7話 おせっかいな友人は証明したい


これは、後から知ったことであるが、この世界は、生まれつき適正魔法というものがある。


それは人によって千差万別。炎を操るといった単純な能力から、任意の場所から花を咲かせるといった扱いに困るものまであるらしい。その魔法を戦闘に利用するも、人の文明のために利用するも自分次第である。

そういう意味では、ヒートの魔法は戦いにしか役に立てない魔法だった。

木から降りられなくなった猫を助けることすらできない。

壊れたおもちゃを直すこともできない

怪我して泣く妹を慰めることもできない。

それでも戦闘でなら役に立つことができる。


そう思っていた。しかし現実はそううまくいかなかった。

指さした対象を爆発させるとは言っても派手な割に威力は石を砕く程度。

魔物相手には五発は与えないと倒せない。

しかも音も光も派手なものだから辺りから魔物が寄ってくる。

こうなるともうお手上げだ。ヒートの魔法は一発ずつしか打てないため、増える魔物に対応などできるはずない。

それでも役に立ちたくて、がむしゃらに魔法の練習なんかして、パーティーに同行してできるだけ多くの依頼にさんかして……


気づいたらヒートはたった一人になっていた。


「って何で家主の俺が外に出ちゃったんスかね…」


ギルドから飛び出した勢いでヒートはそのまま王都を出ていた。


「(…俺の力は夜では部が悪い…ここで大人しく帰ることが最善の選択か…自分の弱さが本当に嫌になるな…)」


ヒートは改めて深呼吸をする。


「(アマネさんも別に悪気があっていたわけじゃないんだ。寧ろ励ましてくれたのに…俺は…)」


アマネの無邪気な笑顔と手がヒートの頭の中に浮かんだ。

思えば、天音を魔物から守ったとき、間違いなくそれは、ヒートが初めて人の役に立ったと自信を持って言える出来事だった。

過剰な評価もアレはきっと本気で言っていたんだ、とヒートは実感する


「(ヤバい合わせる顔がないな…このまま実家に帰ってしまおうか。…どうせここで役に立てることはない。)」


「とはいえ、実家にも帰りたくねーなー!…帰っても役立たずだしなぁ俺」


「んーにゃ。マジでそんな卑下することないって」


ヒートの自暴自棄気味の叫びにやけに落ち着いた天音の声が呼応した。


「アマネさん!?」


ヒートがやたら大きな声で振り返った。


「なんで来たんすか!?アンタ帰りどうするつもりで…」


「そりゃあお前と帰るつもりで来たに決まってんだろ」


アマネは曇りなき眼であっけからんと言った。


「っていうか何なの急に!?飯二人分も置いてかれて食うの大変だったんだからな?!」


それに関しては俺が人間の食べ物より、皿のような陶器や石の方がメインの食べ物であるのが理由だ。申し訳ない。皿だけは完食しておいたぞ。


「慌てて飯食ってきたから脇腹痛ぇよ」


それから天音は笑いながら先ほどはらわれた手を臆面もなく差し出した。


「帰ろうぜ」


ヒートは思わずその手を取ってしまいたい衝動に駆られる。それでも、本当の自分の力の弱さを知られるのが怖かったのだろう。すぐに手を後ろにひっこめた。

それから少し考えるような仕草をしてから、天音に小さな巾着を投げつけた。


「…これ、受け取ってください」


「何これ?金?」


「俺の家の鍵ッス」


ヒートは困り眉のままうっすらと笑った。


「俺、この国から出ていくことに決めたっス」


「…なんで?」


「アマネさんのせいじゃねーから気に病まないでください。元から俺には向いて無かったんスよ、この国での生活が。」


「いや、なんで?」


「チーム戦ができないんじゃ、どのみちいつか追い出されてました。今日貴方たちに会って、部屋もそのまま譲れば面倒な手続きいらないしむしろラッキーっス。この勢いで実家に帰ってーーーー」


「轟介!!ぶん殴れ!」


「!?!?」


ヒートがシリアスな事を言っている途中にとんでもない指示をしてきた。


しかし、意図は察した。


俺は右手だけ、巨大化させ、ヒートにギリギリ当たらない地面に向かって拳を叩きつけた。


沈黙。


俺が殴った後にはクレーターのような穴ができていた。


「いや!?何するんスか!?人が話している途中に!!」


「お前こそ人の話を聞け!!」


とんでもなくブーメランである言葉をあまりにも堂々と言い放った。


さすがのヒートも言葉を無くす。


「あのなぁ!俺はお前をパーティーに入れたいの!この世界で超無双して楽しむために!!」


「そんなの勝手に一人でやってくださいよ…俺の代わりなんていくらでも…」


「じゃあ今すぐめっちゃ眩しくてめっちゃうるさいコスパの悪い魔法を使うやつ呼んで来い!!」


ごにょごにょと小さな声で紡ぎだされるネガティブな言葉を吹き飛ばすように天音は叫んだ。


「…いねーっすよ俺以外にそんな魔法のやつ」


「だからお前しかいないって言ってるんだ!!」


アマネはこの状況でもどうしようもないくらい明るく無邪気な笑顔で言った。


「それを今から証明してやる」


「はぁ…?」


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