第5話 無邪気な友人はちゃっかり王都に忍び込む

「何が起こったのか全くわかんなかったがサンキュー!」


無邪気で能天気な天音の言葉に男は大げさな溜息をついた。


あの後、俺達はこの男の家に匿ってもらっていた。


どうやらこの国は入国制限があるらしく、途中布にくるまれて荷物だなんだと門番を騙くらかして、強行突破してきた。


「明日の昼になったら出て行ってくださいね…」


見た目によらずドライな人だ。

いや当たり前か。誰だってこんな怪しい女を匿うリスクを背負いたくはない。


「この世界の人間は冷たいなー」


「いやいやだってアンタ入国許可証もってないッスよね?」


「あ、そういうのいるのね」


そりゃあ駄目だな。前の世界だったら密入国みたいなもんってことか。


「そういえば、お前名前は?」


「ヒートっす」


「俺アマネ」


この世界に合わせてか、天音はファーストネームのみを言いながら、ズカズカとヒートと名乗る男のベットに入っていった。


「え!?何!?何っすか!?やっぱ売女っすか俺お金は……はっ!まさか美人局!?」


「いや、休むだけだが?」


「怪しいっス!!!」


ヒートは大声で騒ぎながら、先ほどの魔物に向けたような構えをした。思い込みが激しい奴だ。

いや、天音の行動の方が大分問題あるけど。

友達の家に遊びに行った態度じゃん。それ


「まぁ待て待て」


やたら悠然とした態度…というか最早テレビを見る親父のリラックススタイルで天音は言った。


「俺らは…そう!別の世界からやってきたんだよ」


「怪しいっす!!」


説明へたくそか。そういうのって隠すのが定式じゃないか。


「そもそもこんな美女がこんなエリアにいること自体おかしいっす」


「そういえば、王都?とか言ってたよな?ここ、どういうところなんだ?」


「マジで知らねーんだ…その名の通り王がいる都ッスよ。王を守るため、魔力が高い騎士が集められてるんス」


「お前もそれなの?」


「……それを夢見てきたんスけどね…俺はその魔力に寄せられて集まった魔物を討伐する下級騎士っす」


「なるほどな~確かに王に仕えるってツラじゃねーもんな」


「ぶん殴りますよ!?匿ってもらってる自覚あるっスか!?」


「あ、そうそう、ここに合法的に居座ってもいい…なんだっけ?入国許可証?ってどこでもらえんの?戸籍とかいる?いるなら困るな…」


「いや居座るつもりっすか!?」


図々しさに歯車をかけるな。ヒートも若干引き気味で言う。


「そもそも頼んで発行してもらえるもんじゃないっすよ…実力が認められた人間にしか招待状は届かないんスから…」


「そーなの?じゃあお前すげーじゃん」


「いや、俺はそうでも……いや、それよりどうするんすか?!下手したら王の暗殺者を疑われて死刑っすよ!?はっ!そしたら俺も共謀罪を疑われて死刑…?!」


「あははは意外とネガティブなやつだな!よくわからないけど俺らが実力を示せば入国許可証もらえるってわけね!」


「俺ら?」


「あ、紹介忘れてた。コイツはゴーレムの轟介。俺の親友」


手のりサイズの俺を両手にのっけて差し出した。親友とはこれまた大きくでたな。ノリで生きているとしか思えない。


「え!?ゴーレム!?!?」


「え、何何?ゴーレム怖いの?」


「いや、俺、もともと突如現れた巨大ゴーレムの討伐を依頼されてたんス…」


それで俺のところに現れてくれたのだな。


……俺、天音に会えてなかったら討伐されるところだったのか!?危なかった、マジで危なかった。


「マジ?なんかゴーレム捕獲したら懸賞金とかもらえんの?」


「!?」


天音がとんでもない事を言いだしたので慌てて天音の手のひらから降りてペン立ての裏に隠れた。


「冗談だって轟介~!」


いや、目がマジだったし。俺はペン立ての後ろから天音を睨む。ゴーレムなので、見つめているだけに見えるとは思うが。

するとひょいっと体が浮いた。ヒートに摘み上げられたらしい。


「へぇアンタ、ゴーレム使いなんスか?めっちゃ意思あるじゃないッスかこのゴーレム」


「ま、そんな感じかな!」


そんな感じじゃないだろ。半紙みたいな軽薄さだな。


「まぁ、ゴーレムを無力化しました…みたいな感じだったらもしかしたら討伐として認めてもらえるかもしれねぇっス」


「お、マジで!?行くべ行くべ!」


「いやいやいやさっき言いましたよね?!できるだけ目立たずに脱出した方がいいって!」


「だいじょーぶだって!コイツ俺がいないと獰猛になるんだ!」


勝手な設定を付け足すな。


「…まぁ普通に生活してて許可証を求められることはほぼ無いので大丈夫だとは思うっすけど…」


「じゃあ大丈夫じゃん!!行こ行こ!」


天音はリラックススタイルから一転。散歩に行く前の犬のように玄関に駆けていった。

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