第3話 調子に乗りやすい友人をいい気にさせてはならない
天音とは数年間まともに喋った記憶がなかった。
転生したてで記憶の混濁を起こしている可能性も高いが、それでも最後にいつ喋ったかすら思い出せない。
俺は天音の動向を気にしていたし、変わっていく天音に寂しさのようなものを感じていたが、恐らく天音は何も考えていない。
たまたま近くにいたのが俺だったから、かまっているだけだろう。
俺も美少女に生まれ変わったら童貞男をからかってみたいという気持ちはわからなくもない。
あ、そういえば俺童貞のまま死んだんだ。この姿ではこの世界でも留年確定だ。
来世に期待だな。
色々と考えていたところで、ふっと目が覚めた。
「お、起きたか。目覚めはどうだ?!」
目の前には、日曜日に父をたたき起こす男児のように、俺の腹にのっかっている金髪巨乳美女がいた。
もしかして、俺、頭がショートして気絶のような状態だったのか?カッコ悪すぎるだろ。
「なぁなぁなんか知らない世界に来てたけどこれ死後の世界ってやつかね?」
しかし、天音は特に気にする様子も無く一方的に話しを始めた。
「よくわかんないけど、俺の方がちょっとだけ先に起きてたし知ってる情報共有してやるよ!」
なんて偉そうな奴なんだ。
まぁでも情報共有はありがたい。異世界転生ものの創作などいくつも読んできたがそう思い通りに行くものでもなさそうだ。
なにせスタートがゴーレムの姿で尚且つ最初に出会ったのは前世からの親友でもこの世界のヒロインでもない。苦手な陽キャの男だったのだから。
「この世界の人はどうやら魔法が使えるらしいんだよ!お前も何か使えるはず!」
やはり先ほど受けた攻撃は魔法だったのか。
「もしかしたらゴーレムになる魔法かもな~お前も中身は美少女だったりしねぇ?」
なるほど。無意識に魔法を使っていたという線はあり得るのかもしれない。しかし、使い方がわからん。せめて、小さくなることができれば移動も会話も楽そうなのだが。
なんならあまり目立ちたくないから手のりサイズとかでいいな…
コイツの肩にのれるぐらいの
なんとなく頭でそんな光景を思い浮かべた時、体が宙に浮いていた。
「お?」
驚く暇もなく重力に従って真っ逆さまに落ちていく。
声が出せないため叫んで恐怖を分散することもできないので心の中で叫ぶ
が、柔らかい地面に包まれるよう着地した。
「なんだ!小さくなれるんじゃん!!」
そしてそのクッションは天音の手の中でもあった。
「立場逆転だな~ウケる」
ウケねぇよ。
あぁ、俺は正真正銘ゴーレムであるらしい。
「とりあえず、それがお前の魔法かな?自分のサイズを変えられる的な」
じゃあ逆にもっと大きくなることも可能なのだろうか。使い道が多そうだが使い勝手は悪そうな魔法だ。
「魔法ってなんかワクワクしねぇ?絵本の世界に入ったみたいだよなー」
コイツのファンタジーは絵本レベルで終わっているらしい。不安だ。
俺が目覚めた場所は森の中の開けた場所だったらしく、天音が「町に案内する」と言って手のリサイズの俺を肩に乗せて闊歩していた。
「なんか、この辺りめっちゃ魔物でるんだよ。俺は残念ながら戦闘力ないからさ!お前がいてくれると心強いよ!」
本心から言ってるのか、俺に気を使って言っているのか。
……前者な気がするな。コイツ昔から空気読めないし。
「あ、ほら、あぁいうやつ」
天音が指をさした方角には、見るからに魔物といったような巨大な猪のような禍々しい生物がいた。
数秒前までの呑気な俺を殴りたい。エンカウントが早すぎる。
というかコイツなんでそんな堂々としてるんだ?戦う術はあるのか?
今戦闘能力が無いとかなんとか言ってなかったか??
……嫌な予感がする
「お前の出番だ轟介!行ってこ~い!!」
天音は信じられない事を言って、小学生野球チームの投手のように無神経に、俺を猪に向かってぶん投げた。
本当に信じられない。
やはり俺は利用されるだけ利用される存在なんだ。
いや、今はそんなに悲観的になっている場合じゃない。どうすればいい?大きくなる魔法でできる攻撃ってなんだ?のしかかり?
俺は慌てふためきながら先ほどのように自分が大きくなるイメージをする。
できれば拳で叩きつけられればいい。
そんな事を考えた瞬間。俺の腕から拳にかけてのみが巨大化した。その重みで真っ逆さまに体が落ちる。
メキメキと拳に嫌な感触がした。
その時走馬灯のように、生前台所で出会ったゴキブリ相手にパニックになり素手で殺してしまった時の記憶がよみがえった。
――――――――――――――――――――――――
「いやーこれで安心だなー!俺にボディーガードができた!」
誰がお前のボディーガードをするなんて言った
よくわからないまま魔物を倒した俺は文句の一つでも言ってやろうと天音のところに戻ると何とも腹の立つ事を言う天音が待っていた。
「いやー!!お前最強だよ!!すげぇ!」
なんだかこの男…いや、今は女か。この女に過剰に褒められると何か裏の考えがあるのかと勘繰ってしまう。
俺を馬鹿にしてるのかはたまた利用しようとしているのか…
しかし、コイツと行動を共にしないと俺はまともにコミュニケーションすらとることができない。
第一コイツを放っておいて死なれでもしたらさすがに目覚めが悪い。かなり気まずいし、腹が立つがこの考えなしの人間と行動を共にするしかないらしい。
「なんか拳汚くなっちゃったな。ここの湖で洗ってやるよ~」
そんな事を考えていると突如そんな言葉と共に水に沈められた。
慌てて顎に頭突きをした。
「なんだその地味に痛い攻撃!!危ないだろ!」
危ないのはどっちだ。よし。今度からはこれで抗議の意思を示そう
「悪ぃ悪ぃ雑に扱いすぎたよなぁ」
天音は抗議の表情から一変。急に笑顔でそんなことを言い出した。
「…胸の谷間とか入れてやろうか?」
いたずらっぽく天音が笑ったので顎に軽く頭突きをした。
コイツはすぐ調子にのるので良い気にさせてはならない。これから上手くやっていけるのだろうか
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