第2話 陽キャの友人は美少女になっているのかもしれない


「え!?もしかして俺のこと覚えてない!?」


俺は天音と名乗る少女に顔を近づけた。


天音と言えば、高校で染めた金髪に、猫のような釣り目に猫口、チラリと見える八重歯と全体的に猫のような印象のある男だった。


言われてみれば、面影が大いにある。そうだ、3年前中学の文化祭で、友達に乗せられて女装していた天音の姿そのものだ。


「(本当に天音なのか?俺がわかるのか?)」


声に出して尋ねたいが、生憎、俺は怪物になってしまったらしく口を開くことすらできない。


轟介ごうすけ…だよな?さすがに不安になってきたんだけど」


俺は壊れた赤べこのように精一杯うなずいた。


「ゴースケ~!!!お前と会えてよかった!!ありがとう!!本当にありがとう!!」


親指の感触がやけに暖かく、生々しい。生前の天音には無かったはずの物体が俺の硬い体にダイレクトに触れ、頭が沸騰しそうだ。


「いや~こんな面白い姿になっちゃっててウケルわ~!」


泣き笑いしてたと思ったら、爆笑しながら嬉しそうに天音は俺の親指をバンバンと叩きはじめた。

唯一出会えた前世の知り合いだとはいえ、これでも俺と天音はまともに話すのは数年ぶりである。こんなにフランクに会話できるものなのか。

俺は若干引き気味


「あっはっはっははは俺が美女になってるにもかかわらずお前ゴーレムって!」


なんなら文字通り腹を抱えて転げまわり始めた。


「めっちゃウケる!!!なんでゴーレムぶっははっははは!!!」


段々ムカついてきたな。


「よりによってゴーレムって、ゴーレムって!はっははははげほっげほっ」


そんな笑う?

さすがにムカついてきたので服をつまんでつるしあげてみた。


「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!」


面白いぐらいにジタバタしているので手のひらに戻してやった。


「何するんだよ!お前!!俺今美少女なんだぞ!?」


どうやら美少女であることを思う存分楽しんでいるようでなによりだ。


いきなり異世界に飛ばされた不安とか死んだ悲しみとかなんかそういうの一切無いのだろうかコイツは。やはり陽キャは俺とは違う人種としか思えない。


「ムッとしておられる!?」


ゴーレムでも表情はでるのだろうか、天音は笑いすぎてか、恐怖でかわからない涙を拭いながら笑った。


「ともあれマジでよかったぜ!こっちの世界でも知り合いに会えて!!」


天音は本当に嬉しそうに身を乗り出した。本当に能天気なやつだ。俺なんかに会えて一喜一憂するなんて。


「なぁなぁ冒険しようぜ?冒険!!」


数年ぶりに話す友人によくこの距離感でいられるな。


「もしかしてそのくそデカい体格のこと気にしてんのか?大丈夫大丈夫生前と変わんないって」


いやさすがに変わるだろ。そんなに俺のこと興味なかったのかよ。


「お前冒険したくねーの?せっかくこんな面白そうな世界に来たってのに」


この死後の世界のどこが面白そうなんだ。よくわからん魔物は襲ってくるし、お前の大好きなカラオケもないし、洋服も無い。そもそもお前美少女になってるんだぞ?


「ふむ、お前の言いたい事は手に取るようにわかるぞぉ」


明らかにわかっていなさそうなドヤ顔で奴は言った。


「俺が美少女になっちまったからドギマギしてんだろ?」


ほら


「いや~無理もない!実際俺も最初に湖に映った俺に思わず抱き着いてダイブしちまったもん」


そんな日本昔話みたいなことするやついるんだ


「お前見かけによらず、気に病みがちだから色々考えてるんだろうけど、だいじょーぶだって!」


さっきから失礼なことしか言わないなコイツ。


「今を楽しもうぜ♡」


天音は明らかに恣意的に俺の親指に軽いキスをした。

相手は天音だ。天音。


しかし俺の顔は一気に熱くなってフシュ――――――――と蒸気機関車のような音が頭上から聞こえた


「わっ!!!からかいすぎた~~!!」


俺の頭はショートしたのか地べたにダイブしていた。

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