7『もう一人のサトコ』
秋物語り・7『もう一人のサトコ』
主な人物:サトコ(水沢亜紀=わたし) シホ(杉井麗) サキ(高階美花=呉美花)
完ぺきなプロポーションには威圧感があることを初めて知った。
そして、その上に完ぺきな小顔のモテカワの首が乗っかってる。でもって、手を腰に当てて、小首傾げて、口を少し斜めに歪めてんだから勝負にならない。
「あんたたちね、うちと紛らわしい名前の店のバーテンダーは?」
「あ、あの、失礼ですが、あなたは?」
「新顔から名乗るのが、この街のしきたりよ……」
「あ、あたしたち『リュウ』の……わたしがサトコで、この子がサキ、横のがシホです……あの、よろしくお願いします」
「ああ、あんたがサトコか」
「でも三文字は長いんで、三日ほど前からは、トコになっちゃいましたけど……」
「ハハ、長すぎるか。で、トコ。よしよし、ま、いいだろ。あたし『リョウ』のサトコ。よろしくね」
小顔のナイスバディーが手を差し出してきた。AKBの握手会みたいに、短い握手を交わした。
「あんたたち、東都短大の現役なんだって?」
「え、ええ。夏休み利用して、えと、体験学習です」
「体験学習!?」
「は、はい」
三人の声が揃って、盛大に笑われた。
「おっちゃん、双左右衛門町に体験学習ってのは、笑っちゃうわよね?」
店のオッチャンが、どっちつかずの笑い声を返してきた。
「あたしも東都短大なんだ、二年前に卒業しちゃったけどね」
「え~ そうなんだ!」
正直ヤバイと思った、なんたって、わたしたちは立派なガセなんだから。
「いやあ、学生時代は、あんましいい思いでないから、あたしが話題にしないかぎり、あんまし言わないでね」
YAHOOで覚えた東都短大の話をすると、意外にも向こうの方から話を打ち切ってくれた。
「あたし、フェリペから東都、なんか力抜けちゃってさ。渋谷うろついてたらスカウトされちゃって、この道に入っちゃって、もう学校の倍くらいは、この仕事に身い入れちゃってる。去年『リョウ』に移籍して、AKBにとっての乃木坂みたいなもんでね、最初むくれてたけど、任せられちゃってさ。自分で仕切るっておもしろいよ」
「仕切ってるんですか!?」
「うん、マネージャーはいるんだけどね、若い人相手には、若い感覚がいいってことでね。新人の面接とか、シフト考えたり、この春は、店の改装までやっちゃった」
「すごいんですね!」
「ずっと、この道でやっていこうと思ってるんですか?」
ガールズバーに一番関心が高いシホが身を乗り出した。
「まだ分かんない。今は、面白いからやってるけど、ガールズバーって業態がいつまで持つか分かんないしね」
「でも、考えてはいるんですよね?」
「あんた、はまりそうな顔してるけど、こういうオミズは、先を読む力がなきゃ、一生の仕事にはならないわよ。あ、ブタタマ焼きすぎ、かえさなくっちゃ。ちょっとテコ貸して……ヨッ!」
かけ声と共に、器用に三枚のお好み焼きを返していった。
「あたしはね、こういうの経験して、将来は別の仕事やろうかなって、思うわけよ……あ、かえしたら、あんまり触んない。もんじゃ焼きじゃないんだからね」
「別の仕事って?」
サキが聞いた。仕事に興味があるんじゃなくて、サトコって人に興味を持ったようだ。
「それは、ナイショ。言ったら夢が逃げていきそうでさ。ま、女の盛りは長くなってきちゃったからさ、昔みたいにハカナムこともないんだけどね、その盛り盛りに合ったことしてゴールにつきたいわけ」
「ひょっとして、玉の輿?」
アハハハハハハハハハ
サトコさんが、大笑いした。店のオッチャンと、店の仲間らしい女の子たちまで笑い出した。
「サキちゃんて、かわいいね。シホちゃんの背伸びもいいし、トコちゃんのつかみ所のないとこもいい」
短時間だけど、サトコさんは三人の個性をよくつかんでいる。学校の先生にも、こういうところがあればと思った。
「最初はね、ちょっと警戒したんだ。似た名前でリュウさんてのがガールズバー出すって聞いてさ、スパイも送ったんだよ。で、真っ当な店で、そこそこのとこでさ、双左右衛門町のガールズバー全体の集客に役立ってるって、今のとこ判断してる。共存共栄でいきましょう。さ、焼けたわよ。久々に東京弁同士で話できて嬉しかった。じゃ、またね」
サトコさんは、お仲間を連れて店を出て行った。なんか迫力負け。あとは、モソモソ三人で食べた。
「オッチャン、お勘定!」
「あ、サトコちゃんにもろてるよ」
これが、サトコさんからの、最初の借りになった……。
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