第十八話:約束されし劣勢
『掛かれ!
静かなる廃村に響く
「我らを護り咲き乱れよ!
同時に、可憐な花達を
「ふん!!」
対抗するように、彼は左の
刹那、そこに生み出されたもの。それは亀の甲羅を模したような、
それこそが
ゴインッ
衝撃を感じ取った瞬間。今度は右腕を強く突き出すと。
シャァァァァァァッ!!
突如。拳から生み出されし黒き巨大な蛇が、未だ
喰われた
それを見届ける間もなく迫る、新たな
再び現れた大蛇がまるで鞭のようにしなると、長き胴で次々に
瞬間。その力に屈した物達が次々に吹き飛び。弾け飛んだ。
一方。別の
刀による素早い三連突。その刃は寸分違わず相手の頭、胸、腹をほぼ同時に貫くと。次の瞬間、
と。そんな御影の背後を突くように。新たな
だが。
「遅い!」
相手の攻めを
素早い転身で敵の
二人を掻い潜り前に出た
その行為が、踏み荒らされし花々の怒りを買ったのか。
同時に生まれし激しい衝撃に
三人が
気づけば残されし敵は、
劣勢を予感させる状況に、
──だからお主らは、能がないというのだ。
心でほくそ笑む理由。
それは
敵をその力で押し切っていた
敵を
敵を圧倒したはずの二人は顔面蒼白となり、苦悶の表情でその場に膝を突いていた。
『怖いよぉ!』
『助けてくれぇぇ!』
『許さぬ。許さぬぞ!』
脳内に響く、重くのし掛かる多くの哀しみ。悲鳴。恨みの声。
心を覆い尽くさんとする負の感情が、二人の心を責めたて、苦しめ続ける。
「お
咄嗟に叫んだ
そこから生まれし淡き白い光が光里をゆっくりと包むと、彼女の中で渦巻いていた恨み辛みの声達が、少しずつ遠ざかり、消えていく。
彼女は娘を救うべく、必死にその力を向ける。
「お
『
苦しげな
距離はかなりあったのだが。そんなものは関係ないと、狙った二人相手に闇の剛腕が伸び、勢いよく迫る。
「御影! 師匠!」
雅騎の叫び声にはっとした二人は、咄嗟に後方に大きく跳躍する。刹那。彼女達がいた場所に叩きつけられた
空で大きく弧を描き一回転し、何とか光里の隣に着地した二人。
間一髪で間に合ったことに、御影は安堵のため息を漏らす。
「すまん……」
「気になさらないでください」
荒い呼吸をする苦しげな
仕切り直すように集まりし、
その慌ただしさを悠々と見ながら。
──
早くも過去と同じ勝ち戦だけを思い描き、
そんな中。
──まさか、ここまで……。
驚くしかなかった。
──お前はここまで読んでいたというのか!?
そう。
御影が心でそう叫び、視線を向けた
* * * * *
「この戦い。ただ戦ったら多分、負けるはずです」
「何故そんな事が言える?」
だが。戦うために
「
彼はあの日、
その時のことを思い返し、彼女は僅かに表情に影を落としつつ、
「……ええ」
そう、弱々しく返事をした。
「俺は
「それは
光里が素直にそう問いかけるが、
「それもあるかもしれない。けど、それだけじゃない気がするんだ」
彼はそう、神妙な顔で言葉を返した。
「相手を
「どういうことだ?」
要領を得ない御影が、雅騎の言葉に思わず首を傾げる。
「俺が
「ああ。それが何か関係あるのか?」
「俺が心の声を聞けるのは、本来相手に触れている必要がある。だけど
朱雀の熱を思い出したのか。雅騎は包帯を巻かれた、火傷した左手をじっと見る。
「神の力に触れて、相手の心を感じたって事は。多分、
一度も話したことのない
「確かにそうだが、それの何処が相性が悪い理由となるのだ?」
しかし、御影はそれでも未だ、納得がいかなかった。
彼の言った通り、
浮かんだ困惑に、雅騎は真剣な目で応える。
「あくまで推測だけど。神の力を介して、直接心に異常きたすような何かを
「心に異常をきたす?」
「ああ」
不安げに疑問の声を上げる光里に、雅騎ははっきりと頷き返す。
「例えば、
「心に恐怖を宿す、とな」
にわかに信じがたい話に、
「ええ。神は強い存在だからこそ、そんなもの
「私達の力が、仇になる……と?」
己の信じる力が諸刃の剣となるなど、思ってもいなかったのだから。
* * * * *
──だからこその、この布陣……。
御影は、その後に語られた雅騎の戦術を思い返していた。
破邪の力を持っている
何もなければ御の字。
だがもし、誰かに推測通りの事態が起こった時には、その者はすぐさま
悲しいかな。ここまでは彼の予想の範疇。
だが同時に。起こりし結果はまだ、予測の範囲を超えてはいない。
となれば、次の一手は……。
「御影、行けるか?」
ゆっくりと雅騎が御影の脇を抜け、皆の前に立つ。
それは影響を受けず戦える者だけで、
彼女も
「無論だ」
そう強気に口にする御影……だったが。
他の仲間を
目の前であざけるような無数の瞳を御影達二人を向ける
その恐ろしさを早くも見せられ。それでも、今まで誰も
この状況が生みし緊張と不安が冷や汗を浮かばせ、彼女の心を
ちらりと横目に彼女を見た雅騎は、その色に気づくと、こう声を掛けた。
「その割に、随分びびってるんじゃないか?」
はっとし彼を見ると、まるで
「ふ、ふざけるな! 私を誰だと思っているのだ!!」
御影が思わずかっとなり、声を荒げると。
『カッカッカッカッ!』
瞬間。二人のやりとりを見ていた
『いやいや、愉快愉快。そんな
「なっ!?」
仲間割れに見えたのか。
満足げな瞳を見せる人でない物に、思わず彼女は食ってかかろうとする。
だが。その叫びをぶつけようとしたその時。
「はっ。
『何ぃ?』
彼女を腕で制し、雅騎はそう笑い飛ばした。自身を睨む無数の瞳を、思いきり
「俺が言いたかったのはな。『こいつなんか、びびるような相手じゃない』って事さ。分かるだろ? 御影」
答えた彼から向けられたのは、自信しか感じぬ、勇猛なる笑み。
それは御影の心から、いともあっさり怒りと恐怖を奪い去り。
──お前という奴は……。
瞬間。
彼女は武者震いした。
確かに、ここまでに雅騎の実力の一端は見た。
だが。彼と共に妖魔を相手に戦ったことなどなく、
何より、既に満身創痍しか感じない身体の怪我は、不安しか
にも関わらず。
御影は今、彼に背中を預けてよいと思える程の頼もしさを感じていた。
まるで、長きに渡り歴戦を戦い抜いた、
「……確かに。小物はよく喋るというからな!」
彼女が釣られるように強気な笑みを返し、自信満々に頷く。
御影の態度は確かに
だがそれ以上に、この状況でも未だ余裕を見せる雅騎が気に食わなかった。
彼の一撃を受けた時。
相手が苦しむ素振りがなかった事から、
だがその力は、自身の身体に傷をつけることすら出来ていない。
そして目に見えてわかる、痛々しい傷の数々こそ、弱者の証。
それらが。どんなに強がろうとも、この男が
そんな下等な人間による、ここまでの
『ふ、
天を仰ぎ、より強い怒りの雄叫びをあげた
両腕は地面を割るようなことはない。
が。そのまま腕から大地に粘液のように身体が流れ落ち、腕を中心に闇の目を持つ溜まり場が少しずつ広がっていく。
瘴気を強く感じる溜まり場より、新たに
それは、今までの倍以上の数の
この数を止めるのに、
しかも。今、戦える者はたったの二人。
それが三人に、己の不甲斐なさと力の無さを痛感させ、より心の不安を大きくさせる。
『我が力は人の恨み、哀しみでできておる。より人の憎悪や哀しみが満ち溢れるこの世において、我は幾らでも力を振るう事ができるが。お
体を起こし両腕を溜まり場より離すと、脅すような低い声で、
だが……。
「御影。お前は
「後はお前に任せて良いのか?」
「ああ。いけるな?」
「無論だ。お前こそ足を引っ張るでないぞ」
「言っただろ? あんなの余裕だって」
敵の口上など聞いていなかったのか。
彼等は劣勢を感じる光景に動じることもなく。互いに視線を交わしたまま、笑みを浮かべている。
──こ、この!? 人間風情が!!
あまりに威風堂々とする二人に、
『はっ! 貴様等など、さっさと死ね!』
強く放たれし怒号と共に、再び
それを見て、雅騎と御影は表情を変え、真剣な顔で互いに頷き身構えると。一歩間違えれば、墓場となるやもしれぬ死地へ、迷う事なく駆け出した。
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