第十七話:怨念を統べる物
森を抜けた瞬間。
目の前に広がったのは、古き廃村だった。
何時頃造られたものかは分からない、朽ちかけし木造の建物達。
ある家は跡形もなく。ある家は焼き跡となり。そしてある家は、今にも倒れそうになりながらも、何とかその原型を留めている。
「結構、家が残っているんだな」
暗闇の中、より不気味さを際立たせる世界に、雅騎は中枢誰に言うとでもなくそう零す。
「
ここまで来ると、御影や光里、
肌に刺さる程の、悪しき気配を。
彼女達の表情がより険しいものに変わる、そんな中。村の中央にありし広場に、彼等の身の丈の倍はあるであろう、大きな石塚が見えた。
石塚には太き
それは神霊を
石塚を前に、五人は足を止める。
はっきりと感じる
そこにある気配が既に、普段とは異なることに。
ドラゴンと対峙した際に感じた不安。
あの時と同じ感情が
「手筈通りでお願いします。それと……」
すっと振り返った彼は、四人を順に見つめる。
「約束を、忘れないでください」
彼の言葉に、御影、光里、
唯一
──本当に、いい顔をしよる。
彼の凛とした表情。
そこには気負いも、恐怖もなく。ただ感じるのは、強い決意のみ。
「はっはっはっ」
間も無く戦いであろうというのに。
突然、快活な笑い声を上げた
──よほど我らより肝が据わっておる。流石、儂が認めた男よ。
満足そうに白い髭を弄る姿に、
と、その時。
『ほほぅ。双子が揃っておるという事は、ここで
突然。
心に響くかのような、重々しく、
雅騎はゆっくり向き直り、御影達四人もまた表情から笑みを消すと、それぞれ石塚に目をやった。
石塚に貼られた札が。
そして。石塚を覆う
襲い来る風と
ただ一人。雅騎だけは立ち姿を変える事なく。じっと一点を見つめ続けている。
石塚が消し飛び、そこに残りし物。
それは、ゆらゆらと蠢く、巨大な液状の何かだった。
漆黒の闇のように真っ暗な物体。
と、そこにびっしり浮かびあがったのは、奇異を強く感じる、無数の鋭く光りし瞳。
そして、塊が突如大きくなったかと思うと、先程あった石塚より遥かに巨大な、何かの姿を成した。
短く太い力強い脚に、歪に上半身が大きい
それに見合うごつごつしい両腕に、頭を象る箇所に映える、厳つい
周囲の民家をも超える巨体。その姿はまるで、鬼。
だが。肉体は相変わらず液状の闇で形どられ、全身により多くの、悪意ある光る瞳を宿している。
その奇異なる姿が、鬼とはまた違う、この世の物成らざる存在だと強く感じさせる。
『二百年ぶりにまた、
嬉しそうに話すこの物こそ。
『その瞳。二百年前と同じ轍を踏む気か。
無数の瞳が、彼等を
『とはいえ。無駄に
「何だと!?」
どういう事だと言わんばかりに食って掛かる御影に、
『何時でも滅せる
「千年、待った!?」
『かっかっかっかっ!!』
光里の戸惑いに、
『そうだ! 我がより強い力を得るべく、千年待っってやったのだ。この世の者全てを絶望に陥れる力を得るためにな!
強く叫んだ
瞬間。
頭に
──「敵が強すぎるから敵に従う!? 仲間の命を求める相手がそんなに信用できる相手なのかよ!」
全くもって、その通りだった。
強い敵意を持ち、
それはただ、より
現実を目の当たりにし、強い後悔に唇を噛む
彼女の気持ちを察した
不甲斐なさと悔しさに、すぐにでも襲いかからん勢いの
そんな
「随分自慢気に話してるけどさ」
放たれた呆れたような声に、
視線を受けし雅騎は、ただ一人緊張感もなく、呆れた顔を見せ立っていた。
「そんなのどうせ、お前に力がなくて、千年待つしかなかっただけだろ。だから
『何ぃ?』
全身に響く声と共に、
一気に強くなった殺意に、
だが。雅騎だけは何故か、変わらない。
「いいか? 倒せる時に敵を倒す。それができなって事は……」
彼は、左半身を前に構えたまま、すっと左腕を前に突き出すと。刹那。
『ぐおっ!?』
突然。激しい突風が
咄嗟に身を屈め、その風から踏みとどまろうとする御影達。
その威力に体勢を維持しながらも、大地を滑るように、身体毎後方に流されてしまう。
そしてそれは
御影達を襲った突風。それは、雅騎が
その激しき風撃が
そのまま遥か後方にあった廃屋まで吹き飛ばされた
あれだけ強い突風の中にあったにも関わらず、何事もなかったようにその場に立つ雅騎は、
「お前がただ、弱いだけの臆病者だってことだ」
伸ばした腕と冷たき眼差しを相手に向けたまま、静かにそう告げた。
宣戦布告ともいうべき雅騎の術に、ただ唖然とする御影達。
両腕でゆっくりと上半身を起こした
一人、
──先程まで、あれほど苦しげでしたたのに……。
そう。
未だ傷は痛々しく。何より、歩くのすら苦しげだったはずの彼が。今はまるで平然と、
何故そんな事が可能なのか。それが彼女には不思議でならなかった。
「雅騎……」
同じく彼の後ろ姿を見つめていた御影は、思わず険しい表情を見せる。
心が強く痛む程の、嫌な予感。
──まさか、またお前は……。
そんな不安が
今はそれを見せる訳には、いかなかった。
『かっかっかっかっか!!』
彼女達の不安を
──あの一撃を受け、傷一つなし、か。
──この戦い、やはり一筋縄では……。
『この程度の力で、我に歯向かうというか。
冴えない表情の御影達を横目に。またも
だが。
「この程度の力を全力に感じるって事は、あんた、相当弱いんだな」
彼は表情を変えず、同じく
どちらの言葉に真実があるか。
今は誰も分からない。
ただ、人間ごときに
『はっ!
激しい
瞬間。強い地響きと共に、その足元の周囲に一気に亀裂が走る。
『ならば見せてみろ!
怒りが籠もりし叫びと共に、
それはみるみる姿を変え、またも多くの瞳を持った
生まれし物達。それは
瞬間、
「雅騎。ここは我々が」
一気に緊張する空気。
周囲に強く走る、殺意と決意。
そして、
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