第144話 ナロンコン終了のお知らせ
野上シノが拘束していた全参加者の魂は無事に回収。
全員を蘇生させた後、子供向けの異世界でデータを記録しておいた帰還魔法陣で送り返すことに成功した。
樋口やヲタク、マリちゃん、残りの参加者たちもまた、もといた地球に帰還できたはず。
今回戦った帝星もアンス=バアル軍に返品し、性犯罪者予備軍とおぼしきロリーノだけはすべてのチート能力を没収してから放逐した。
なにはともあれ野上シノが主催していた
あとは俺のタイミングで世界を自壊させるだけである。
「いやあ、野上シノは強敵だったんンゴねぇ……♪」
「いやアンタ、なんであの状況で蘇生もされず普通に生きてたの? ちょっとさすがに怖いんだけど……」
「それはもちろん……われだから!!!」
バ美肉アバターはニチャッと笑った後、何事もなかったように魔法陣に乗って帰っていった。
佐伯萬二郎……一体、何者だったんだ……?
「うーん、ナロンコンはなくなっちゃうのかぁ……」
三崎が残念そうに体育座りしている。
「もう殺しができなくて残念か?」
「それもあるけど、願い事が叶わなくなっちゃうからねぇ……」
この箱庭世界で催されていた神の
おそらく集まった魂エネルギーを使うのでなく、野上シノが権能を使って叶えていたのだろう。
あるいは、参加者が召喚される際に魂にくっついた源理に指向性を与え、チート能力として覚醒させていたか。
三崎も何度か挑戦してたけど、それでも優勝まではできなかったのだという。
「どんな願いを叶えるつもりだったんだ?」
「うん。力が欲しかったんだ……僕のいる世界に攻めてきた奴らを皆殺しにできるだけの力が」
ふむ……異世界侵略者の打倒か。
少し意外だな。
「でも、ないものねだりしてもしょうがないし。僕も元の世界に帰るよ」
「そうか」
立ち上がって埃をはらう三崎に、俺は頷き返した。
「ねえ、リョウジ……また会えるかな?」
「さあ、どうだろうなぁ」
できれば金輪際会わない方がいいと思うのだが……。
「きっと会える。なんかそんな気がするんだ。だからお別れは言わない」
「あ、おい」
魔法陣の中に飛び込んでいった三崎が、最後にこちらを振り返る。
「またね!」
俺が最後に見た三崎はとても殺人鬼とは思えない、まるで夢と希望に溢れた少女のような笑顔を浮かべていた――。
「……ボス。『T.F.』には戻らない?」
「ああ、戻るつもりはないよ」
俺の意志を伝えると、マスちゃんは少し寂しそうな顔をした。
「だったら、ビジネスパートナーとしてよろしくする……」
マスちゃんが仮面を被ってから俺に差し出してきたのはスマホだった。
「これは?」
「こっちのチートスマホには、互いの世界時間を揃える効果と、次元座標GPSがついてる……異世界間でも普通に連絡できるの……」
「へー、そいつはすごいな」
「ん……! 次元座標は次元転移の転移ポイントに設定できるし、すっごく便利なの……」
なるほどね。確かにこれは便利だ。
敵に位置バレするのが面倒だから、俺はこういう装備は持ってない。
「使わないときはアイテムボックスにしまっておけば効果はなくなるから……」
俺が渋い顔をしてたからか、マスちゃんが不安点を払拭をしてくれた。
「連絡先入れてあるから……!」
「オッケーだ」
「お仕事、手伝い、ありがとう……」
マスちゃんが俺の足にぎゅっとしがみついてきた。
よしよし、と頭を撫でてやる。
「仕事があったら、俺を喚んでくれていいぞ」
「ん……あっ……お話しもお仕事に含むの……だから、電話待ってるから……!」
小さく手を振りながら、マスちゃんが帰還魔法陣の輝きの中に消えていった。
マスちゃんは誓約者ではなかった。
達成になるようだったらクソ神呼んで野上シノを封印した時点で召喚陣が出てきてもおかしくなかったんだし。
やっぱり、俺を召喚したのは野上シノだったんだろうか。
「で、お前これからどうするん?」
「きぃーっ! キャピちゃんはシノカミ様がいなくなったらお仕事なくなっちまうんですよぉー! うぅぅっ、ここもなくなっちゃうっていうし、これからいったいどーすればいいんですかぁーーーっ!!」
泣いて、喚いて、そして死ねばいいんじゃないかな。
「フッフーン♪ そうかぁ、キミも今回の事件の真相を知っている生き証人ってワケなんだねぇ……?」
「はっ。ナウロン様ぁっ!?!」
「つまり、キミにもシノちゃん同様消えてもらわなくっちゃいけないわけだ。もう、それしか……キミに道はないってわけだね。さあ、これまで犯してきた罪を数えたまえ! さあ、お立合い……うまく消えたら拍手喝采を! 5、4、3――」
「待ってくださいいいいいいいっ!! キャピちゃんはこれっぽっちもぉ! なーんも見てませぇん! なんなら記憶操作していただいちゃって全然かまいませんのでぇ……! あっ、そうですよ★ シノカミ様ももういなくなっちゃいましたしぃ、ナウロン様がよろしかったらキャピちゃんを使ってやってくださいっ!!」
え、マジで?
正気かこいつ。
「……ふむぅ。そういえばちょうど前の小道具が壊れ――じゃなかった。アシスタントが一身上の都合でやめちゃったんだよねぇ……」
あっ……。
「オッケー、採用ね。ただし、今回の出来事をしゃべっちゃったりしたらその瞬間、キミは――」
「もももももももちろんですよぉナウロン様ぁぁぁっ!!」
笑顔で揉み手をしていた御遣いがグルンと振り向いて、こちらに下品なファッ〇サインを繰り出してきた。
「へっへっへー★ ほれ見たことですかぁ! ぜってぇ出世して見返してやるですよぉ、サカハギリョウジィィッッ!!」
バイタリティあんなぁ、この御遣い。
記憶の中の誰かに似てるのは間違いないんだけど、マジで誰だっけ?
「じゃあ、お前の新たな門出を祝って……俺からも餞別をやろう」
「……へ? な、なんだぁ、サカハギリョウジィもいいところがあるんで――」
「今回お前を殺した全記憶だ。リピート再生で受け取れ」
「あばばばばばばばばばばばばばばっ……★★★」
なんか電気椅子に座らされた死刑囚みたく全身痙攣し始める御遣い。
「あーっはっはっはっはっは!!!」
……なんかクソ神が地面転げながら大爆笑してるんですけど。
「いやー、笑った笑った。だいぶセンスを磨いてきたねぇ、サカハギくん」
「テメーに褒められても、なんも嬉しく……って、そうだ! お前に言いたいことあったんだった!」
「んー、なにかなぁ?」
まったく心当たりのなさそうな顔にイラっとした俺は、クソ神の胸倉を掴んだ。
「アディのことだよ! お前、よくも俺のかわいい娘に無限輪廻転生なんてもんをつけやがったな! ちょっと何回か殺させろ!」
「……あー、そうなんだ。ついに彼女に会えたんだね?」
俺の怒りもどこ吹く風といったふうに、クソ神が微笑みを浮かべた。
「よかったじゃないか、サカハギくん」
「え……? いや、まあ。そうなんだけどよ……」
俺が気勢を削がれかけると、クソ神がシルクハットを深くかぶり直した。
「彼女の運命はこれ以上、僕にだってどうにもしてあげることはできないからね。出会えたっていうなら……それは本当によかった」
「どういうことだ?」
「フフッ……」
胸倉を掴まれたまま意味ありげに笑って、首を横に振るクソ神。
一発ぶん殴って対消滅させてから、俺の手で復活させる。
「言え」
「ち、ちょっと待とうよサカハギくん!」
ドーン!
「僕、ちょっとシリアス目に演出してるんだからさ!」
ドドーン!
「あー、待って待ってもう殴らないでごめんごめん僕が悪かったから!!」
ドドドーン!
「ふー、ちょっとは気が晴れた。で、話の続きは?」
「い、いいかい? もう話すからね? これ以上、僕の顔を消し飛ばして中断しないでね?」
解放してやると、クソ神はひとつ息をついてから襟を正した。
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