第138話 強敵! 蔓二郎!!

「さあ、対戦はこの賽子さいころで決めますからねぇー! 一面ごとに参加者の名前が書いてあって一面が自由枠……って、あれ? なんでここだけ白いままですかー?」

「あー、そこは俺だな。書いといてやる」


 俺がペンを空中に走らせると、空白面にカタカナでサカハギと書き加えられた。

 自動で真名読み取るアイテムなんだろうけど、俺のは無理だろうからな。しゃーなし。


「むぅ……? まあ、いいでぇす! ささっ、それぞれのチームは誰でもいいから運命のダイスロールをしやがれですよぉー★」


 御遣いがぽいっと放り投げた握り拳大の賽子が、俺たちと相手チームの目の前に浮かんだ。


「えっと……これ、誰が振るの?」

「誰でも同じじゃないでござるか?」


 ヲタクとマリちゃんがお互いに顔を見合わせて「だよねー」「ござるよねー」とかやってるが……もちろん、そんなこたーない。

 念動能力者なら好きな面を出せるだろうし、確率操作系能力者がいれば誰が振っても都合のいい目が出ることだろう。


「はいはーい! チーム代表のわれが振るンゴ!」


 ほれ、やっぱり相手さんは『激運チート』持ちのバ美肉メイドが振るみたいだ。

 チーム代表ってところで帝星みかぼしが不満そうに目を細めたけど、何も言わない。

 マリちゃんが「いいかな?」と俺を含めてみんなに確認すると、全員が頷いた。


 こっちの出目はマリちゃんで、相手の目は萬二郎。

 振った者同士の対決だ。


「えっ、嘘、あたしだ! 6分の1の確率なのに!」

「ファッ!? はからずも美少女同士の対決~、よろしく!!!」

「えっ、はい! よ、よろしくお願いします」


 うーん、勝負内容はどうなるか。


「あ、われ暴力反対なのでジャンケンで一発勝負するンゴ!!」

「そ、そうですね。あたしも暴力はちょっと……」


 これは負けたわ。


「それじゃあ、試合形式も決まりましたし、とっととはじめてくださいねー★」


 御遣いが試合開始の笛を吹いた。


「「最初はグー! ジャ~ン……ケーン……」」


 勝負は一瞬。

 マリちゃんパー。萬二郎チョキ。


「われ勝ったンゴ~ッ!」

「あう、負けちゃった……」


 さすがに神の遊戯ゲームの優勝者。

 自分の能力の使い方よくわかってんなぁ……こいつは手ごわいぞ。


「フッヒッヒー! これで早速黒星ですねぇ、サ・カ・ハ・ギ★」


 うーん、ベロベロバーしてくる御遣いを見てると誰かを思い出すんだよなぁ。誰だっけ。

 まあいいや、とりあえずイラッっとしたから3回殺しとくね?


「さて、次の勝負もわれが振るンゴ~! あ、また同じ目!」

「えっ、なんでまたあたしなの……?」


 うっわ、露骨過ぎるな。


「そっか。これ、勝負の内容によっては対戦者が死なないから弱い相手を殺さない方が有利になるんだね」


 三崎が冷静に分析しているが、なるほどね……チーム全体の敗北が決まらない限り試合で死ぬとは限らないのか。

 つまり、このままだと同じ出目が続いてジャンケンだけで勝負がついてしまう。

 ジャンケン勝負を受け入れなくても、別の運ゲーに持ち込まれるだけか。

 勝負の結果はどうでもいいとはいえ、このままやられっぱなしってのはさすがに面白くないので挙手する。


「ちょっと作戦タイムいいか?」

「ハァ~? 不利になったからって時間稼ぎですかぁ? 対戦相手が同意すればいいですけど、そんなのもちろん――」

「別にいいンゴ!」


 萬二郎がニチャッとした笑顔で頷くと、御遣いが「チッ、こいつ空気読みやがれですよぉ……★」と小声で呟いた。


「マリちゃんだったよな。これ食べて」

「え? あ、はい! ありがとうございます。ちょうどお腹すいてたんです」


 マリちゃんは何の疑いもなく俺の差し出したフェアチキを食った。


「はふはふ……うん、おいしかったです! ごちそうさまでした」

「いやいや、いいんだ」


 無論、チート能力を付与するためだが……与えるのは萬二郎と同じ激運チートじゃない。

 おそらく付け焼き刃の幸運じゃ、あいつには勝てないだろうし。


「さて……腹ごしらえしてもらったところで、確実に勝つ方法を教えたい。ジャンケンする前に、あいつと両手で握手してもらえないか?」

「握手ですか? 別にいいですけど……してもらえるかなぁ」

「それは大丈夫。で、勝負では必ずパーを出すんだ」

「えっと、はいっ。それで勝てるなら……」


 よくわかってなさそうだったが、マリちゃんは素直に俺の指示に頷いてくれた。

 あとは、限定した発動条件を満たせれば……。


「握手!? もちろん大歓迎! ファンは大事にするのがわれの主義っっ!!」


 萬二郎は握手をあっさり受け入れた。

 うん、中身オッサンで相手が女子高生なら断るわけがないよな。


「それじゃあ、試合開始~♪」


 御遣いが笛を吹く。

 さて、勝負の行方は――


「「最初はグー! ジャ~ン……ケーン……」」

「えいっ!」

「ファァーッ! 指がくっついて開かないンゴ!」


 マリちゃんはパーで、萬二郎は最初のグーのまま。

 マリちゃんの勝利だ。


「わ、本当に勝った!」

「こ、これは……接着剤ーっ!? これではチョキもパーも出せないっ!!」


 うん、ただの接着チートです。

 接着したい部分に触れる必要があるけど、くっついたものは能力を解除するまで絶対に離れない。

 今回の設定した発動条件は『手の触れたところから離した後に効果発動』だ。

 最初はグーの時点で指がくっつくので、蔓次郎はグーしか出せなくなる。

 古典的な手だけど、運要素を排除しないと無理ゲーだからな。


「ちょっ、これは反則――★」

「試合中に介入、はしてねぇぜ?」

「くぅーっ!!」


 俺が肩を竦めてみせると御遣いが握り拳を作って悔しがった。


「両手ともグーにしかできないとなると、もうわれ戦力外……!!」


 え、嘘でしょ。

 ジャンケン以外だって運勝負はあるだろうに。


「トン、ファー――」


 突如……そこをどけ、といわんばかりに東花トンファが舞台へ乱入した。


「キーック!!」

「グエーッ!! われ死んだンゴーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

 東花に凄まじい勢いで蹴り飛ばされた萬二郎がはるか彼方へと消えていく。

 東花が何事もなかったかのようにトンファーを掴む手で器用にダイスを拾い上げ、宙に放り投げた。

 出た目は……自由。


「トン……ファー!!」


 どうやら次の相手はこいつのようだ。


「ええっと。ふ、振りますっ! あ、あれ?」


 マリちゃんがそそくさと舞台から降りて賽子を振ったが、ピタッと舞台にくっついてしまった。

 接着チートは回収しとこう。これで効果も解除される。

 出目は……お、三崎か。


「えっへへー。ようやく見せ場だね!!」


 三崎がいっちにーっと準備体操をしてから舞台にあがり、アイテムボックスから短剣を抜く。


 トンファー使いことシャア東花トンファの能力は蹴りチート。

 トンファーで敵の攻撃を防御しながら 一撃必殺の蹴りをお見舞いするというスタイルのようだ。


 いきなり三崎が東風の回し蹴りを喰らい五体をバラバラに吹き飛ばされてあわや敗北かと思いきや、なんと粉々になった肉体を念動力で操り東花を十二指腸でがんじがらめに拘束……折れた肋骨の先端を心臓に突き立てて勝利した。

 ……というか、いくらなんでも戦い方がグロすぎる。

 マリちゃんはゲーゲー吐いてるし、ヲタクも泡吹いて気絶しちまった。

 完全にR18指定の試合だ。さしもの俺も詳細を省かざるを得ない。


「ハァ……ハァ……どう、リョウジ! 僕めっちゃ頑張ったよ!!」


 バラバラになった肉体を念動力で合体させ、ところどころの流血もやはり念動力で強引に止血してから……全身血塗れの三崎が壮絶な笑顔を浮かべてきた。


「……お、おう。お疲れさん」

「すごくおざなり!?」

「うん。だって、見ててすごく気持ち悪かったから」


 何故か三崎がヘコんだ。

 うん、とりあえず全身モザイクかけとこうね。

 ま、何はともあれこれで2勝1敗だな。


「うっ……真面目にきついや、これ……ちょっと休むね」


 顔を青くした三崎がばったりと倒れた。

 凄まじい勢いで再生が始まっているが……いくらなんでも血を流し過ぎだっての。

 ま、こいつなりに頑張ったのは確かか。


「増血くらいはしといてやるよ」


 そう言って、俺は三崎の口にフェアチキを食わえさせてやるのだった。

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