第137話 異世界チームデスマッチ

「ヘイヘイ! ダンロワの後だってーのに、随分和んでくれやがりましたねぇ! こっちとしては、もーっとギスギスした感じなのを所望してたんですがぁー?」


 さきほど試合終了を告げた御遣いが頭上を八の字に飛び回りながら、ぷりぷり怒っていた。


「ちゃんと4人死んでるんだ。文句言うなっての」

「むぅー、なんというかあんまりにもサクッとし過ぎてて、盛り上がりに欠けますよぉ? 苦しみも嘆きも聞こえてくる暇なかったんですがぁー? てゆーか、ほとんどオメーのせいなんですよぉ! あんな強力な結界張って、肝心のクライマックスがぜんっぜん見えなかったんですからねぇー!! ああ、きっとシノカミ様に怒られるぅ~~~……★」


 案の定、主催者サイドは結界の中で起きたことを把握できていないらしく、御遣いもいつの間にか仲良くなっていた俺達に不満タラタラのようだ。

 俺の結界による観戦不能状態は、神の遊戯ゲームにとっていわば放送事故。

 観客神どもにも頭を下げて回る羽目になったことだろう。


 ……ま、そんなものが本当にいればの話だが。


「プレイ済みのゲームだったから攻略情報が役に立ったでござるよ!」

「ここにいない人達、みんな死んじゃったんだ……あたしたちは相当運がよかったんだね!」


 最初に脱出したコンビはヲタクと女子高生だったようだ。

 まあ、消去法でわかってたことだけど。

 それにしても語尾にござるって……いったいあのダンジョンで何があったらそんなキャラになるんだ。


「ほらほら、やろーども★ 小休憩はここまでですよぉ! 次のゲームに進みますからねぇ! はいはーい、お次は異世界チームデスマッチーぁーダメダャルキデネェ……」


 どんどんぱふぱふー………と、かなり投げやりな賑やかしをする御遣い。

 実際つまらなさそうだ。


「ほいほい、いいから解説はよ」

「ん……いっしょに戦うの……でもお面がない……」

「ううっ、まさか僕がキルマークをひとつもつけられないなんて……いや、次こそはリョウジに認められる殺しを魅せるんだ……!」

「ここまで来たんだもん。ゴローさん、絶対に生き残ろうね!」

「マリ殿だけは……拙者の命に代えても守護まもる…………!」

「むぅむぅ。本当だったらダンロワでギスギスした後のチーム戦だから、いろいろ面白いものが見られる場面なのにぃー!」 


 仲良しこよしの参加者たちの姿を見て、不愉快そうにパタパタと羽根をはばたかせる御遣い。

 

「ええーい、こうなったらネタバレしてやりますよぉー! いいですか、次のチーデスは『5 VS 5』のチームバトルですからねぇ!」

「ほえっ、『5 VS 5』なの? 残り5人なのに?」


 どうやら三崎も知らないゲーム形式のようで、首を傾げている。

 振り向いた御遣いが醜く顔を歪ませ、ひねくれた笑顔で下品に笑い転げた。


「フヒヒヒ、絶望しやがれぇー! おめーらと次に戦う5人は過去のナロンコンの優勝者たちが集まったドリームチームなんですよぉ!」


 ……ほう?

 これは、いよいよ『総取り』が始まるかな。

 実に好都合だ。


「優勝者……って! それってみんな、すごく強いってこと!?」


 女子高生――マリちゃんが驚いたように叫び声をあげる。


「もちろんですよぉ! 本当はそこんところ秘密の予定でしたが、まあ問題ない範囲ですよねー!」

「なんでござるかそれは……どこが公平なんでござる!?」

「さてさて、まず5人チームはお互いに1人ずつ交代で舞踏舞台に上がってもらって、そこでタイマンバトルですよぉ!」


 ヲタクのクレームを御遣いはガン無視して、ルール説明を続ける。


「勝負方法は対戦選手同士の話し合いで決めまぁす! ただし、双方の合意に至らない場合はシンプルにガチな殺し合いをやってもらいますからねぇ!」


 オッケーオッケー。

 何をどう考えても少年誌バトルマンガのパクリ展開です。

 本当にありがとうございました。


「『出場選手はランダム』で『先に5回勝利したチームの勝ち』になりますから、どんなに強くたって対戦に選ばれず他のメンツが雑魚だったら負けますからねぇ……いいですか、そこのマゼンタシャツのお前! お前に言ってるんですからねぇ★ あんまり調子に乗るんじゃないですよぉ!」


 へいへい、わかりましたって。


「むきーっ! その余裕のニヤニヤ笑いが崩れる瞬間を絶対に見てやりますからねぇー!」

「キャピエルしつもーん。三つ目のゲーム内容を勝ち抜いたら、またいつか遊戯ゲームに召喚される代わりに生存確約ってところはおんなじ?」


 あー、やっぱりあるのか、そういうルール。

 でなきゃ、リピーターなんてもんがいるわけないもんな。


「ハッハァ! そーんな甘いルールは今回なしですよぉ! 生き残るのはたったひとり! チーデスのあとは最後のひとりになるまで異世界タイマンデスマッチ……タイデスが待ってますからねぇ! せいぜい生き残りを賭けて争い合うがいいで――」

「そんな話、聞いてなかったけど?」


 真っ白な空間、御遣いを挟んで俺たちの反対側から魔法陣が出現し、ひとりの男が現れる。

 さらりとした金髪。白い学ラン。そして怜悧なまなざしが印象的な若者だ。


「だって、聞かれませんでしたからぁー★」

「フン……相変わらずだね、君は」


 生意気なことを言う御遣いに呆れながら、白ランは前髪をかきあげた。


「ま、いいけどね。どうせ最後に勝利するのはボクに決まってるから」


 ほうほう、自信満々じゃないの。


「あっ、あいつ……!」

「知ってるのか三崎」

「前々回優勝者……っていうより、あいつの話を信じるなら三連覇中のチャンピオン、帝星墜夜みかぼしおちやだよ」


 へえ……そりゃ大したもんだ。

 どれどれ、鑑定眼で……なるほど、こいつは確かに大物だな。

 チートコンボの完成度が高くて、いわゆる一芸特化型って感じ。


「あいつとは決勝で当たったんだけど、いつの間にか殺されてたんだよね。本人曰く『自動勝利』の能力者だそうだけど……どう、鑑定は?」

「まあ、あながち嘘とも言い切れない感じではあるな。とはいえ、ネタはなんとなく視えた」


 まあ、それでも俺以外がぶつかったらヤバそうだけど。

 さらに帝星の後ろに魔法陣が次々と出現して、なかなか個性的な面子が続々と現れた。


「…………」


 黒い喪服のようなデザインのセーラー服を着ている、盲目なのか両目を瞑ったままの少女、野上シノ。


「フフッ……あの白いマントの子、いいですねぇ。なかなかそそりますよ~」


 顎髭を生やしボサボサ頭の気怠げな無限魔力のアラフォー大賢者、ロリーノ・スイカンスキー。


「トン、ファー!」


 頭をツルツルに剃り上げた武道家のような服を着た謎のトンファー使い、シャア東風トンファ


「われナロンコンに降臨っ! 気軽にママって呼んでね! アンケートとレビュー、よろしくお願いするンゴ!!」


 激運バ美肉VRメイドママ……本名、佐伯萬二郎。


「よし、メモメモ」


 死神手帖に真名を全員分書き込むと、野上シノと萬二郎を除いた3人が倒れた。


「…………」

「グエーッ!? みんな死んだンゴ!!」


 なるほど。

 野上シノは即死耐性で無効、萬二郎は運だけで回避か。

 そして死んだけど、あの男は……。


「ちょ……おまっ……!!? 試合中じゃないのにいきなり殺すんじゃねーですよ!!」


 御遣いが慌てて3人を生き返らせる。

 箱庭世界ならではの完全蘇生だ。


「クッ、なんだ? 永遠の勝利者たるボクが倒れるとは……ふむ、どうやら少し疲れていたようだ」

「はえ? 私、寝てましたか?」

「トンファー……?」


 3人ともボケたことを言っている。

 自分が死んでいたことには微塵も気づいていないようだ。


 御遣いが俺の方にヒューッと飛んできて唾を飛ばしてくる。


「次やったらマジで失格にしてやりますからねぇ! 試合中に介入するのも反則ですからぁ!!」

「うぃー」


 まあ、俺としちゃ別に自分が負けようが死のうがどうでもいいのだ。

 最終的にかわいいかわいいマスちゃんの目的が達成できれば、それでいい。

 そのためには……うん、『あいつ』以外には退場してもらうとしようか。


「生き返らせられるなら僕がみんな殺したときもそうすればよかったのにー」

「オメーはオメーであんとき魂魄破壊短剣ソウル・ブレイカー使ってたくせに、なーに言ってやがるですかねぇ……★」

「うん、復活する相手をもう一回殺すのは億劫だからね!」


 屈託のない笑みを浮かべる三崎と、ピキピキと青筋立てながら頬をひくつかせる御遣い。

 エネルギー回収を目的とした箱庭世界で魂魄破壊……あっ、察し。


「いいですかー? わかってねーようだから言っておきますけど、魂が残ってる間は優勝者が参加者全員の蘇生を願えば生き返らせてやることもできますからねぇ? くれぐれも、そういう不埒な真似はやめやがれですよぉ★」


 へへへ……どんどんメッキが剥がれていくなぁ、この御遣い。

 この調子なら、もうちょっち挑発し続ければ完全に馬脚を現してくれそうだぜ。

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