第15話 魔王に最も近い男
「なんだ? 何か落ちてくるぞ!!」
「ひ、火の玉みたく光ってる! 退避ー!」
目ざとく気づいた斥候のせいで、落下地点の敵モンスターはいなくなってしまった。
しゃーなし、ちょっち軌道修正。
「なんでだッ、不自然な軌道を描いてるぞ!?」
「うわあああッ!!」
はい、ドーン!
隕石が落下したようなクレーターを形成しつつ、モンスターどもを巻き込んで大爆発してみた。
だがしかし、その爆炎の中から飛び出す俺自身はまったくの無傷である。
そのまま空に飛びあがった俺に、自然と注目の視線が集まった。
「俺が新魔王だ。こんにちは死ね!」
『死』のパワーワードを放つと同時に、俺の声を聞いた無数のモンスターが一斉に死に絶える。
チート能力ではなく、一定以上の強さに達していない生命を殺すという、こことは違う異世界で習得した魔法だ。
まあ、単体対象を複数化するアレンジを加えてあるけど。
さて、あとは実験も兼ねて最近手に入れたチート能力をいくつかアクティブにしよう。
右目に石化の視線、オン。
左目に恐慌の視線、オン。
あとは適当に肉体強化系を重複発動させる。
「ま、魔王! こいつを倒せば大手柄だー!」
「お、おおおお!」
パワーワードを耐えきったモンスターが、一斉に襲い掛かってくる。
しかし、そのほとんどが石化の視線で石となり、運よく耐えたモンスターも恐慌の視線で逃げ出していく有様だ。
石像の間をゆっくり縫うように進みつつ、邪魔な石像は分解魔法で灰に変え、混乱して襲ってきたモンスターを手刀で真っ二つにする。
「ああ、この手応え。剣とはまた違う殺しの触感……俺に生きる実感をくれる。やはりたまらんな!」
「ひ、ひいいい! イカれてる!」
「化け物だー!」
視線とパワーワードの射程外で遠巻きに見ていた連中が一斉に逃げ始めた。
「化け物? 違う、俺は魔王だ」
ていうか、もう逃げるのかよ。
まあいいよ、逃げる相手を追い詰めるのも好きだから。
「自己領域展開」
はい、いつものです。
アリンコ一匹逃がしませんです、はい。
さて、結界に捕らえた軍の残り総数おおよそ100ってところか。
ならばここは百人斬りをしなくてはなるまい。
「アイテムボックス」
毎度おなじみアイテムボックスから、二振りの愛剣を取り出す。
右に魔を絶つ黄金の聖剣。左に魂を喰う漆黒の魔剣。
共に無銘。自作の逸品にございます。
「光翼疾走」
恐怖に逃げ惑う連中の正面に回り込み、無造作に聖剣を振るった。
黄金の一閃を受けた先頭集団がバシュッと消滅したのを見て、後ろの連中がたたらを踏む。
「足掻け! あらがえ! 立ち向かえ! この俺に最期の輝きを見せろ!」
俺の喝破になけなしの勇気を振り絞った集団が、今度は残らず俺の目を見て石化する。
尚も反対方向へ逃げるモンスター軍に苛立ちながら、今度は魂を喰う魔剣を背に振り下ろしていく。
魔剣を受けたモンスターたちは血を噴き出すことなく傷一つない躯と化し、大地に転がった。
「ああクソ、逃げるな! かかってこいよ!」
どうやら今まで倒したヤツの中に指揮官が混じっていたらしく、残りは団体行動もできない有様だ。
もう期待できそうもないので、ここは文字通りサクサクッと終わらせていくことにした。
「た、助けてくれ。命だけは!」
結界内の最後の魔界貴族を追い詰めつつ、視線を合わせる。
「いやー、ここ最近……無双っていうの? 魔王討伐RTAばっかりしてたから、やってなかったんだ。時々、無性にしたくなるんだよ」
「い、一体何を言って――」
あ、また石化しちゃった。
うーん、魔眼チートってあんま使わないから使ってみたけど。
コレ無双したいときは逆につまんないな、切ろう。
石化した魔界貴族を適当に蹴り砕いてから結界を解除した。
周囲ではシアンヌの軍が押し始めている。
主力の一部を俺が捉えてしまったため、趨勢が大きく傾いているみたいだ。
そんな中、味方と思しき魔界貴族が急ぎ足で近づいてくる。
「魔王様、ご無事で……ひいいッ!!」
かと思いきや、恐怖に表情を引きつらせ、ほうほうの体で逃げ出していった。
「あ、やべ、恐慌の視線も切らないと」
魔眼系チートは敵味方識別できないから、さっきみたいな結界内での虐殺ぐらいでしか使い道がないな。
ていうか、ほとんど誰も立ち向かってこなかったのって、これのせい?
気のせい気のせい、そういうことにしよう。
「うーん、このあとどうすっかな」
シアンヌと合流してもいいんだけど、できれば好き勝手に暴れたいし。
おおよその敵味方は判別できるけど、乱戦になるとどっちがどっちか全然わからん。
いつもなら別に両軍皆殺しにしてもいいんだけど、片方はシアンヌが率いちゃってるからなー……。
まあいいか。殺しちゃったら、そんときはそんとき。
シアンヌも別に魔界貴族軍に対して思い入れもないだろうし。
「よーし! 考えるのをやめよう!」
面倒くさい面倒くさい、息をするのも面倒くさい!
こういうときは、何も考えず闘争本能に身を任せるのが一番なのだ。
モンスター同士が衝突してるところはピョーンと乗り越えて、その先の敵陣へ飛び込む。
するとちょうど斬りやすい位置に鳥頭の魔界貴族。
「あら、こんなところに鶏肉がー」
「なっ、貴様、何者――」
「食材ゲーット!」
魔剣で鳥頭の胸を串刺しにする。
魂を滅ぼし、封印珠に体だけ回収した。
不便だけど、こうしないとアイテムボックスに死体を入れられないからな。
「ああっ、フェリーダ様がやられたっ!」
「馬鹿な、七魔将がこうもあっけなく!?」
副官と思しき魔界貴族達が実にわかりやすいリアクションしている。
「餞別に地獄の特急券をくれてやる!」
そいつらを瞬殺しつつ、その後もなんとなーく目についた敵を斬って斬って斬り捨てる。
「なんなんだあいつは!」
「束になってかかれ!」
おおっ、今回は魔眼を起動してないから迎撃がたくさん来る♪
「そりゃ無抵抗よりはなぁ!」
いいに決まってる!
しかも今回は数に任せて俺に勝てると思い込んでいる頭お花畑の連中だ。死地へ赴く悲壮感など欠片もない。
むしろ絶対的有利を確信し、弱者を嬲ろうという残虐な笑みを浮かべていた。
「こういう連中をねじ伏せて初めて、俺TUEEEって言えるんだよな」
だいたい無双するときは攻撃も防御も己の闘争本能の滾りに任せ、すべてのストレスを発散する。
つまり、手加減しないということだ。
「喰らいやがれ!」
俺の気合いの一閃が、文字通り爆ぜる。
音速の壁を突き破った聖なる斬撃が有象無象をまとめて消し飛ばしたのだ。
続いて肉体から飛び出した不可視の魂を魔剣の薙ぎ払いで食らい尽くす。
落命による魂の嘆きをまとめてむさぼった魔剣がゴキゲンになり、俺にさらなる力を与える。
「ひ、ひぃ!」
「なんて奴だ、勝てるわけねえ!」
なんだとー!
なんなんだよお前ら、諦めるの早すぎだろ! 諦めんなよ!
「逃げるな! 足を竦ませてんじゃねえ!」
早くもたたらを踏んで様子見を始める連中に発破をかける。
「さあ俺を喰い殺せ! 羽交い絞めにして嬲り殺しにしてみろ! それがお前らモンスターの存在意義だろうが!
牙を! 爪を! 角を血肉に突き立てろ! さもないと、俺が死ぬより恐ろしい最期をくれてやるぞッ!」
半ば無意識に狂乱の視線を起動する。
こいつは恐慌の視線とは全く逆の効果を対象に及ぼすはず。
すなわち――
「――さあ、命燃やして立ち向かってきやがれ!」
モンスターが一斉に咆哮した。
死を恐れず、怯えず、逃げず、血に飢え、破壊の狂気にとりつかれた怪物たちが目を真っ赤に血走らせる。
まさしくバーサーカーと化したモンスターたちは敵も味方もなく、互いに殺し合いを始めた。
「はーっはっはっは! いいぞぉ、お前ら、それでこそモンスターだ! 人の敵の在り方はこうでなくっちゃな!」
もちろん俺も饗宴の舞台に嬉々として躍り出る。
噛み付かれ、鉤爪に裂かれ、触手を首に巻き付けられ。
そのすべてを力ずくで振り払い、斬り捨て、あるいは踏み砕きながら……久方ぶりに戦闘と言える戦闘を堪能していた。
「なにをしているのよ、お前たち! 静まりなさい!」
そんな血なまぐさい戦場に不釣り合いな甲高い女の声が朗々と響く。
魔界貴族と思しき年増の女悪魔が狂ったモンスターに魔法をかけていた。
魅了魔法か何かか? どうやら元からここにいたんじゃなくて、どこかから異常を知ってきたようだ。
「なんでよ! なんで思い通りにならないのよ!」
俺の狂乱を魔法で上書きできなかったのか、苛立ちに髪を振り乱す年増。
その瞳の奥には隠しようもない闇が見える。
これまで何度も見てきた、自分以外の存在を道具としか思ってないヤツ特有の目。
そう、クソ神と同じ目だ。
なら、俺がそいつをどうするかなんて決まっている。
「よう、美人が台無しだぞ」
光翼疾走で年増の背後に回り込み、耳元で囁いた。
「……え?」
「化粧直しでもしてもらえ」
トン、と軽い調子で背中を押す。
その先には、猛り狂うモンスターども。
「ギ――」
年増の断末魔の悲鳴はあっという間に途切れてしまった。
裂かれたか、食われたか、押し潰されたか。
年増の死体がどうなったかなんて、もうわからんけど。
「おー、よかったな。綺麗になったぞー」
俺だって世辞ぐらいは言うさね。
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