魔王のいない異世界
第12話 5人目の魔王
「そんなバカなああああああッ!!?」
俺の適当な攻撃で魔王が消滅していく!
「おっしゃあ!」
今日も絶好調だぜ!
「サカハギさぁぁん……」
おや? イツナが今にも死にそうな声で俺を呼んでいるぞ!
「おう、どうした!」
元気よく振り返ると、何故かゾンビのように項垂れたイツナが!
「どうした!? 魔王にやられたのか!!」
「休もうよー。今日だけで一体何人の魔王を倒してると思ってるのー」
んー?
えーと、ひーふーみー。
「まだ4人だろ」
「もう、だよ! もう4人っ!」
何故かイツナが三つ編みをビリビリさせながら猛抗議してくる。
実を言うと、ある異世界で偉大なる一歩を進めた俺は超ゴキゲンモードとなり、魔王を倒して倒して倒しまくっている!
普段なら半殺しか全殺しにするような態度を取った召喚者も鉄板焼き土下座で寛大に許し、魔王退治の誓約をこなしているのだ!
うんうん、俺が海の如く広い心を持つことができたのも、田中店長のおかげです!
クソ神なんかと違って、あの御方こそ真なる神である!
しっかし、1日で4つの異世界を股に掛けたかー。
我ながら飛ばしてるな!
「だが、俺はまだまだいけるぞ!」
ガッツポーズを取った俺の胸に、イツナが力尽きたように寄りかかってきた。
「お、おい?」
「わたし、もう眠……」
あー、そういやイツナは睡眠不要チートを持ってないんだっけか。
「悪い悪い、1ヶ月のんびりしてたもんだから、ちょっとペースを戻したかったんだよ」
「ううー……」
目にクマができてるじゃないか。
どうも限界っぽい。
「しばらく寝てるか?」
「うん、そうする……」
どーれ、お姫様抱っこしてやろう。
ん、元気なイツナだったら赤面しそうなのに、意識がぼうっとしてるのか何も反応なしだ。
ちょっと寂しい。
「じゃ、おやすみサカハギさん……ごめんなさい」
「おやすみ」
くうくうと寝息を立てながら、眠りの世界へ旅立ってしまった。
うんうん、謝るのは俺の方だよ。気づいてやれなくて、ごめんな。
とりあえず、今さっき倒した魔王の玉座にイツナを寝かせた。
ほとんど無意識に封印珠を取り出して、イツナのおでこにくっつける。
「封印開始」
スルッとイツナが封印珠に吸い込まれた。
この作業も手慣れたもんである。
ちなみに封印珠は俺の嫁のひとりが開発したアーティファクトで、睡眠・気絶・石化・死亡などで無力化した対象を封印しておくことができる。
もともと不死の魔王を排除するためのアイテムだったが、量産に成功。今では嫁を手軽に持ち運べる寝室として活用している。
眠っている間はぐっすり眠れて、目覚める直前になると封印されし者の時を止めるという超便利アイテムだ。
いやー、これなしの夫婦生活なんて、もう考えられない!
「そういや、イツナを封印珠に入れるのって初めてか?」
召喚奴隷の世界からだから、結構長いこと引っ張りまわしてる気がする。
「というか、1ヶ月以上も一緒にいるのにまだセックスしてないのか……」
イツナってかわいいんだけど、癒しオーラが強すぎて逆にエッチな雰囲気にならないんだよな。
性欲の権化である俺に手を出させないとか、もはやチートの域ではないかと。
まあ、シアンヌがほとんど解消してくれるのも大きいか。
実を言うとイツナが寝た隙に別の部屋に結界を張って、シアンヌに夜の相手をしてもらってるのだ。
「よし、次の世界から、しばらくシアンヌと旅するか」
イツナといると気楽でいいんだけど、どうしても悪寄りの動きがしづらくなる。
あの子を嫁にしてから滅ぼした異世界がないのが、何よりの証拠だ。
シアンヌとふたりっきりで旅というのも、なかなか陰惨な殺し愛が堪能できそう。
「お?」
早速シアンヌの封印珠を出そうとしたところで、足元に召喚陣が浮かぶ。
フッ、少し前の俺なら陰鬱になることもあったがチキンの加護を得た俺は無類無敵!
「さあ、俺にスカッと気持ちよく倒されてくれる5人目の魔王はだれだー!」
光の先に見えた世界。そこには――
「お待ちしておりました、我らが魔王よ」
俺の周囲にひざまずく異形ども。
そして、足元には禍々しい文様の魔法陣。
「……は?」
混乱する俺に美丈夫の魔族がススッと近づいて、こう囁いた。
「どうか、我ら魔界貴族をお導きください」
「……え?」
5人目の魔王は、俺でした。
「……なるほど、話はだいたいわかった」
「ありがとうございます、魔王様」
前の世界でイツナを寝かせたのより数段豪華な玉座に腰かけ、美丈夫の長話を聞き流し終わった。
「要するに先代が勇者にやられ、代わりが必要になったと」
「さすが魔王様。見事な見識にございます」
まあ、それだけ聞けばよくある話だ。
実際同じようなケースで過去にも何度か、魔王として召喚されたことがある。
細部にいろいろ違いはあっても、魔王を異世界から召喚しようなんてことになるパターンはだいたい同じだ。
しかし魔王ねえ……。
気持ちよく魔王を倒したい気分だったのに、俺が魔王とか。おもっくそ水を差された気分だ。
んー、代理誓約の目処が立ったら全員殺して終わりでいいかな?
「もう一度確認させろ。俺を召喚したのはお前ら魔界貴族の総意で、俺が魔王として君臨することがお前たちの望みということでいいんだな?」
「左様でございます」
「へーえ」
雁首揃えた魔界貴族どもを睥睨する。
如何にも魔王軍の幹部というツラをした連中が揃っている。
揃ってはいるが……。
「魔界貴族はこれだけなのか?」
「……此度の召喚に反対した貴族は参じておりません」
そりゃそうだろう。
我こそは魔王ってやつが現れるのが魔界の常というもの。
強大な先代がいなくなったとなれば、元幹部なんぞ分裂するに決まってる。
「つまり総意ではないということだな」
「それは……」
「構わん、それだけ確認したかった」
冷静に俺の詭弁を訂正しようとする美丈夫を手で制する。
もちろん、今のは誓約の範囲を確認するための行為だ。
「こちらが、魔王様に忠誠を誓った者たちの血判状にございます」
お、いい感じに名簿がもらえた。
これを排除リストとして利用しよう。
さて、誓約者はひとりとは限らない。目の前にいる連中全員が俺と誓約を結んでいる可能性がある。
俺が召喚された以上、誓約自体は「魔王として君臨する」だと考えていいだろう。
もし代理誓約を立てるとしたら、「血判状に名を連ねた魔界貴族郎党皆殺し」か「魔界を滅ぼす」あたりが妥当か。
どうっしよっかなー。
現状、ほとんどノープランである。
イツナがここにいたら正直、誓約破棄一択だったろうけど……。
シアンヌと一緒に動くなら、むしろ魔界でしばらく魔王ライフをするのも悪くない気がする。
「人間を侵攻する予定はあるのか?」
「現状、我らにその余裕はないと考えています」
じゃ、戦うにしても、離反したっていう魔界貴族だけか。
とりあえず「魔王として君臨する」に期限が指定されてない以上、しばらく魔王やれば次の異世界へ行けるはず。
適当なタイミングで魔王を他のヤツに譲れば、誓約は果たせるんじゃないかと思う。
次代の魔王を指定してから死んだフリして身を隠すのが最短ルートと見た。
「いいだろう、魔王になろう」
「ありがとうございます、では――」
「ただし条件がある」
美丈夫の言葉を遮り、堂々と宣言した。
「俺に対する絶対服従だ」
魔界貴族どもがざわめいた。
フン……当然の反応ではあるが、やっぱりね。
「魔王様、それは……」
「どうした? できないのか?」
美丈夫が初めて焦りのような気配を見せ、俺は邪悪めいた笑みを作る。
「当然だ!」
牛頭の魔界貴族が立ち上がり、俺を嘲るように鼻息を鳴らした。
「わかっていないなら言わせてもらうが、お前はお飾りなのだ!」
他の魔界貴族も目に見えて同調こそしないものの、牛頭を咎めない。
「それならば、何故ここにいる。お前も反対派に回ればよかっただろう」
俺の指摘に牛頭は悪びれもしないどころか、俺を罵りにかかる。
「フン、魔界の政治も分らぬくせに。小僧、お前はその玉座を尻で温めていればいいのだ」
「つまり、この血判状は忠誠の証ではなく、魔王召喚に同意したに過ぎんと……お前はそう言うわけだな?」
あ、そういえばイツナと一緒だったからカリスマチート起動してなかったな。
オンにしとこ。
「そ、それは……」
目に見えて効果があった。
牛頭が威勢を欠く。
「魔王様、お戯れもそのくらいに」
美丈夫が仲裁しようと宥めにかかるが、せっかくだ。
一人ぐらい生贄になってもらおう。
「そういえば言い忘れていたな。条件は俺に対する絶対の忠誠。逆らう者には、死あるのみ」
「なんだと? 小僧、いい加減に――」
「お前は死ね」
俺がパチンとデコピンの要領で指を鳴らすと、牛頭の頭がパーンと弾け飛んだ。
突然の粛清劇に顔面蒼白になる魔界貴族一同。
「そのゴミを片づけて、血判状のリストから消しておけ」
唖然とする美丈夫に、俺はわざとらしくデコピンポーズをチラつかせる。
「んー? どうした。聞こえなかったのか?」
「は、はい! ただちに!!」
俺の脅しで、魔界貴族どもが突然機敏に動き出した。
さー、あかるく楽しい恐怖政治、はっじまっるよー!
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