第5話

 同じころ、ジュノバの動きに疑惑を感じた猪之助というダインの部下が、ジュノバの家臣の胸倉をつかみ上げ

「戦いはとっくのまえに始まって、今が勝負どころであるのに、裏切らぬのはおかしい。もしダインさまにウソを申されたのであれば、この場で差し違えるつもりだ」

と、言いました。それに対してジュノバの家臣は

「その時の見極めはわれらにお任せくださりませにゃ。いまはそのきかいを待ってるのですにゃ」

と、返します。

 さて、春見の催促というか脅迫は即反応がありました。ジュノバは腹を決めて

「敵は西帝国軍、テモワンの陣地に攻め込むぞ!!!」

と、命じました。時間は正午くらい。

 この命令はとうのジュノバの手勢ぐんだんにも突然いきなりだったようで、部下の1人であるたちばなという隊長が

「この後におよんで東帝国軍に寝返るのは間違っています。わたしは逆に東帝国軍に突撃して潔く死にます」

と、言って命令に従いませんでした。そこで伝令の龍崎というものが

「ジュノバさまの内応は決められていたことですにゃ。いまあなたが主命に背けば、あなたがジュノバさまを裏切るということですにゃ」

と、諭したので、橘もしかたなく動くます。しかし、戦闘に加わる気にもなれず、静観することにしました。

 そうして、ジュノバ率いる部隊はテモワンの部隊に突撃していきます。


 ジュノバが動いたのを見た春見はときの声を、自分の手勢にあげさせました。

「「「エイエイオウー!!、エイエイオウー!!!、エイエイオウー!!!!」」」

 いよいよ天京院旗下3万くらいも動き出しました。

 一方、ジュノバとテモワン両部隊の死闘デスマッチが始まりました。テモワンはあらかじめジュノバの裏切りを警戒していたので、それ用に用意された精鋭600くらいが迎え撃っています。

 その中のある勇士が

「わたしはここを任されているものだにゃ、だれかわたしに挑もうとするものはいにゃいか!!!」

と、大声で叫びました。それに答えて

「挑もう!!!」

と、老戦士が進み出て戦いを挑みましたが、5度ほど打ち合った末に、体力の差で敗れ、勇士に首を取られてしまいました。

 彼らはジュノバの部隊を500メートルほど退かせる活躍をみせ、370くらいを打ち取ったといいます。しかし、東帝国軍が横から攻めると、さしもの精鋭も止まりました。


 こうして双方に数百もの死者がでるほどの死闘が繰り広げているそのとき、テモワンがまったく予期そうぞうもしていなかった、意外な事態がおこりました。

 テモワンの指揮下にあった早乙女、神速のミュールらが、ホコ先を転じて、テモワンの部隊に攻撃をしかけたのです。

 このうちミュールにかんしては、かれがかねてから東帝国軍と打ち合わせていた筋書き通りであったといわれます。かれの部隊は東帝国軍の兵が振る旗に呼応して行動アクションをおこしたのでした。

 とはいえ、しょせんはテモワン旗下の1隊なので、単体で裏切ると多勢に無勢となってしまいます。うかつに行動はおこせません。そこにジュノバの裏切りがおこり、ミュールは歴戦の将としてのでこの好機を逃しませんでした。

「テモワン隊の側面に突っ込むにゃ!!!」

と、叫んで自ら先頭におどりでました。

 この裏切りにより、テモワン隊は壊滅していきます。あるものは激戦のすえ、疲労したところを討たれ、あるものはテモワンに

「名前のために惜しむ命などありません、とくにこんなつまらぬ浮世なら」

という手紙を送り、すのまま敵陣に突撃しました。

 テモワンはこの手紙を持ってきた使者に

「ありがとう。わたしもそのうち、そちらに行く」

と、伝えました。その後、家臣に

「わたしの首を敵に渡すなよ」

と、言うやいなや、服を脱ぎ、腹を十文字にかき切りました。家臣は、その首を近くに埋め、それは実際今でも見つかっていません。


 ジュノバの裏切りから始まる混乱は、たちまち戦況を一変させました。猫ヶ原の決戦にあつまったのは、通説にしたがえば東帝国軍約75000、西帝国軍約95000と西帝国軍が多いものの、互角で戦っていましたが、小早川の部隊が動かず、いまジュノバや神速のミュールが裏切ったことにより、西帝国軍が37000くらいに減り、逆に東帝国軍の兵力は97000くらいと西帝国軍との兵力差が2倍3倍になってしまいました。

「それ、進めや進め!!」

と、東帝国軍は総攻撃を開始し、戦意モラルは高揚しています。

 一方、西帝国軍は

「裏切りにゃ!!」

「謀反にゃ!!」

と、浮足立ってしまいました。

「退くな、下がるな!!」

  指揮官の1員だったグリッサの叱咤の叫びも兵士の動揺をおさえることはできませんでした。

 こうして裏切りによって浮足立っていたグリッサ隊は、ジュノバたち背反した連中に壊滅させられてしまいました。そして、裏切り者たちは次にとなりのカシュルール隊へ攻撃しました。

 かれらの攻撃で支離滅裂てんわわんやとなるなか、カシュルールは裏切りをしって怒り逆上し

「おのれ!!やつらと刺し違えて、この憤りをはらす!!」

と、取り乱しました。それを家臣であるカンドウというものが

「憤りはさることながら、あなたは隊長です。粗忽なおふるまいはどうでしょう」

と、押しとどめながら、いさめました。激昂するカシュルールは

「おまえの意見はもっともだ。しかし、ジュノバの裏切りに怒るは粗忽ではない。小早川も出馬せず、代わりのものも動かん。どいつもこいつも自分の都合ばかり。かくなるうえは今日討ち死にして、カンタールさまの恩を報ずる」

と、言い放ちました。しかし、カンドウはなおも必死に押しとどめながら

「たとえ皆が降伏しても、それが天下、ひいてはカンタールさまの跡継ぎであるリファイアさまの行く末を救うことにもなるのです」

と、ことばを尽くしていさめたので、カシュルールもようやく納得し

「それなら、あとはおまえにたくす」

と、言い残し、そのまま数人の部下を連れて逃亡しました。

 カンドウは主君カシュルールを逃がすために、20ばかりの兵と奮戦しましたが、間もなく全滅します。午後1時くらいのことでした。

 そしていままで戦っていた相手に加えて裏切り者たちと戦うことになったルッグ隊も疲弊し、戦意を失っていきました。

「うむむ、なんとか反撃しなければ」

っと、ルッグは140くらいの決死隊をつくり、反撃を試みましたが、皆枕をならべて討ち死にしました。そのうちレオンという猫の働きはめざましく、奮戦しているうちに、皇室の1員であるげんという武将を見かけました。

「わたしは、ルッグの家臣レオンであるにゃ」

と、声をかけました。子元は

「レオンという名前は聞いたことがある。わたしに会ったことが幸い、天京院どのに助命をかけあおう。わたしについてまいれ」

と、返しました。すると、レオンは大爆笑して

「ははは、皇室のすえとも思われにゃい方にゃ。いまさらあなたの哀れみなどいらないにゃ!!」

といいざまに、走り寄って子元めがけて斬りかかりました。子元はとっさに身を引き、かれの従者が代わってレオンを取り巻きました。そしてレオンは大立ち回りのはてに、前後左右から突き殺されました。

 それらを目の当たりにしたルッグは

「もはやこれまで、撤退!!」

と、自分の兵たちに命じました。午後2時くらいのことです。

 残るは井之原隊だけです。


 井之原隊は戦前の混乱で兵数は1500くらいでしたが、押しよせる東帝国軍の猛攻で、それも半数近くになっていました。

 この隊を指揮していたのは維新というものでしたが、この惨状をみておもむろに

「いし、敵陣を突破するにゃ、行くぞ!!!」

と、めいじると、井之原隊はなんと、天京院春見隊へ突進しました。春見があまりのことに唖然とする中、あるものが反撃しようとしました。しかし、近くにいたレイモンはそのものに

「死を覚悟したものに、ちょっかいをかけてはならぬ」

と、さとしました。

 一方、井之原隊を興秋と直弼の部隊が追撃しています。維新は覚悟を定め、自ら突撃しようとしましたが、部下が

「一軍の将がそんなことをしてはいけません。例え最後の1兵になろうと、あなたは生きなければいけないのです。わたしが、身代わりになりましょう」

と、言うないなや、敵陣のかけだし

「われこそは、井之原維新なり!!」

と、大声で叫び、勇戦して討ち死にしました。

 興秋と直弼はなおも追撃したが、決死の反撃をうけて、直弼は銃撃を肩にうけ、興秋も負傷しました。

 こうして、井之原隊は辛うじて戦線離脱しましたが、兵数は数10くらいになっていました。

 そのころ、ダインのもとに、小早川の家臣から

「今はそちらに行けませんので、帝都にてお会いしましょう」

という書状はとどき、またタケゾウとその友人は

「あわわ、ど、どうしよう?」

「追いはぎにかられたくなきゃ、ついてくるにゃ!!」

と、隠れながら逃げています。かように西帝国軍は、崩壊したのです。


 雨が降り出す中、天京院春見は諸将に面会しました。例えば直弼が

「今回の戦、わたしより先にいる兵はいませんでした」

という強がりに

「キミの功績はわかってる」

と、労をねぎらいます。

 また

「もう敵はいません、凱歌をあげましょう」

という諸将の声に

「まだ、みなさんの妻子が人質になっています。帝都に行ってからでよいでしょう」

と、和ませたり、あるいは

「わたしに追撃のチャンスを!!」

という、流れで神速のミュールと一緒に裏切ったものに

「あなたは小身なので、そう言うこともあるでしょう。そんなことをしなくてよろしい、安心しなさい」

と、いってかれを安堵させました。実際は、皮肉と軽蔑が混じった発言でしたが、言われた側は保身に必死で、気づきません。

 ともあれ、東帝国軍は長戦がおわり、おもいおもいにご飯を食べたり、寝たり休憩し、西帝国軍は敗残者狩りから必死に逃げるしかありませんでした

 夜になっても雨は降り続け、無常の風も吹き荒れていました。


 


 

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