第2話

 さて、ここで天京院春見の動向を見ていきましょう。

 春見の本営はクラ城の西北4キロほどの地点にありました。

 時刻は午前2時くらい。天京院のパイと東帝国軍の将軍の一人からの使者が、ほぼ時をおなじくして、春見の寝所にかけこんできました。

「西帝国軍に動きあり」

「おそらくこちらの動きに対しての反応の模様」

 それに対して、春見は歓喜を隠そうともせず、力強く命じました。

「よし、ただちに出撃せよ、出陣じゃ!!!」




 マラテダラン川の戦いの衝突の後の軍事会議で

「兵を進めてクラ城を攻めましょう」

という意見と

「先に帝都に進軍し、妻子を救出しましょう」

という意見が出ました。

 春見は

「クラ城を攻めるのも良いですが、反撃で敗れる可能性があります。むしろ敵の領土を叩き、帝都を占領しましょう」

と決め、出撃は翌日になりました。

 種々の記録に記載されることからみて、これは、西帝国軍を誘い出す戦略とおもわれます。

 春見はかつて敵将に誘い出されて大敗した苦い記憶があります。また、城攻めは古今むかしから攻める側が不利です。春見としてはなんとしても誘い出さなればいけないのでした。


 かくて、東帝国軍も動き出しました。

 さて、東西両帝国軍はなぜ決戦を目指していたかというと、たまたま両軍の主力が、別動隊によって立ち往生させられていたというのもあります。

 春見の謀略は、そのためでもありました。ルッグの方でもワナだとしても対応せざるえなかったというわけです。


 西帝国軍の動きを知った東帝国軍の諸将は、野戦で決着ケリをつけようと考えました。

 そうと決まれば、あとはどこを決戦の地にするかです。それを問われた春見は、1つの場所を指しました。そこは、小さい山脈の間にある平野で、両軍のちょうど中間地点でした。

「なるほど、たしかにここが決戦にふさわしい」

「それで、この地はなんというのです?」

 当時は、この地に名前がありませんでしたので、この問いに通称、のちに正式のこの地の名前になる名称を答えました。

ねこはらというそうです」


 さて、話を少しもどして、この戦いは、天京院春見の率いるワカツ討伐がキッカケですが、カンのいい方はお分かりのように、これは西帝国軍への誘導作戦でした。

 その途上で、春見は待ちに待った、しかし聞きたくない凶報を聞きます。

「帝都からの連絡です、帝都の春見さまの屋敷が襲撃にあい、留守役のバディージョさま戦死とのこと」

 バディージョは春見を少年ガキのころから支えていたいわゆる股肱ここうの臣でした。

 この報告を聞いた春見は、なにか悟った顔で

「そうか……」

と、つぶやいたまま黙っていました。


 こうして決戦への道を進んでいく東帝国軍ですが、進軍自体はゆっくりで、先行していた本隊に春見が合流したのは、決戦当日でした。その間春見が何をしていたかというと、背後をかためていたのです。

 たとえば、ワカツへの抑えとして、剣星隻眼のウェイブ、戸沢とざわはるきよ、剣星白狐のティアナ、大田原政盛、村上某といった北方に駐屯していた武将たちえのお手紙攻撃です。

 とくにウェイブには、かつてカンタールに没収され、ワカツ領となっていた土地を返還するという約束までしていました。

 その一方で、カンタール晩年の対外政策の後処理をしていたフクロウ男爵にも手紙をだし、その対価にフクロウ男爵は自分の子どもを東帝国軍の幕僚に加入させてくれました。

 その手紙には

『わたしは、しばらく手紙を書いたことがありませんが、非常事態であるため、自筆でしたためました』

と、すべての手紙に書いたといいます。

 さらに、同行した武将たちに向かって

「わたしは、ホントは戦いたくないのです。しかし、敵対するヤカラがわたしを倒そうとしているので、こういう事態ことになってしまいました。皆さんも助けてくだされますでしょうか?」

と、切々と訴えると、居並ぶ諸将は

「悪辣なルッグらを返り討ちにしましょうぞ」

と、戦意モチベーション高く、打倒西帝国軍を誓いました。

 


 さて、春見が来るのが遅いのに業を煮やした、勇将として知られるレイモンという武将が

「われらを捨て石になさる気か!!」

と、怒っていました。

 それに対して春見の使者として諸将の前にあらわれたモスケというものが

「本当は春見さまも戦場に出馬なされたいのですにゃ。でも、皆さんが敵に手出しなされないので、お出ましにならないのです」

と、返しました。

 レイモンは、手元にあったうちわでモスケの顔をあおぎながら

「ごもっとも、やがて手出しをして、ご注進することもあるだろう」

と、勇み立ちました。

 モスケの一言は軽率であるという非難もありましたが、心あるものはモスケの愚直さを見抜いて、使者にたてた春見の慧眼に関心したそうです。


 こうして自分でできることをすべてやった春見は、東帝国軍の最後尾に自らの手勢とともにいました。

 息子のあきただがいまだ合流していないこと以外は、おおむね彼の計画通りにすすんでいます。

 馬上の春見は白髪であること以外は、孫までいるとはとても思えぬ子どもっほい風貌に

(わが策は成ったな)

という笑みがあふれ、とても死地キルゾーンにいくものには見えなかったでしょう。

 こうして東西両帝国軍の決戦の時がいよいよ近づいています。

 

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