第1話の補足

編者注:補足に収録されている文章は、原筆者のてんきょういんみつあき氏の生前、本編を執筆く過程でメモとして書かれていたものです。そのため

『中途半端な記述』

「本編と関係ない記述」

がありますが、氏の遺志を尊重して、原文のままで収録しています。ご了承ください。



 

 この大陸における、人語を理解しているという意味での人は、大きく4つのいわゆる『種族』にまとめられます。

 1つは我々がいうところの地球に住んでいた人類、この世界でいうところの『来訪者ビジター』。由来は、実際に様々な方法(いわゆる神隠しと呼ばれる現象は、この大陸に『呼ばれた』ことによると考えられますし、今では自力で時間や距離を越える手段もあります)で、来たことによります。チキュウという世界のヒューマンであることが多いです。文中だと天京院一族がこれにあたります。

 もう1つは、この大陸に元々住んでいた『獣人』で、頭が我々の知る動物であること、及び彼らが自ら名乗っていたことが名前の由来であります。

 基本的に猫であることだ多いが、理由は不明です。いわゆるコボルトや一般的なモンスターもこのカテゴリーに入ります。文中のルッグは犬頭であるがゆえに、2重に苦労することになるわけです。

 3つ目に、人と獣人が交わることで生まれた『耳付き』。彼らは頭にいわゆるけも耳が付いたり、目がいわゆる猫目になるといった特徴があります。いわゆるゴブリンもこのカテゴリーに入れられることがあります(彼ら本人は、後述する刻人の仲間を自称してますが)。

 その特性ゆえに、人と獣人双方から差別されていた歴史がありました。

 最後に『刻人タイマー』。人と獣人の子供の中で耳付き以外にまれに生まれる種族で、彼らがある一定の年齢に達すると、外見が年をとらないように見えることから、そう呼ばれるようになりました。いわゆるファンタジー世界でいうところのエルフとか魔族みたいなそういったものを想起するとよろしいでしょう。

とはいうものの、その一定の年齢は30後半から50代にかけてのことが多いです(中には10代で年をとらない例や、他の種族のように老いる例も確認されています)。

 やっかいなことに外見だけでは、刻人と普通の人や獣人、耳付きを区別することは難しいです。刻人は白髪になることが多く、それが彼らの特徴であるとはいえますが、別に白髪にならなくても刻人であることもあるため、それが絶対というわけではないです。

 さて、最近になって『第5の種族』が生まれたという、研究者の報告がありました。

 彼らは、外見こそ上記4種族であるが、超能力とも魔法ともつかない特殊な力を発現するといいます。

 まだ種族と呼べるほどの人数が確認されていないため、名前はなく上記4種族の中に彼らがいるという現状であります。




 ワカツは現皇帝の出身地うまれこきょうであり、そのため、ワカツ領主であるということは、はっきり言えばかなり重要なことで、天京院春見による侵攻はそれ自体が意味が生じる行為だったということなのです。

 この時にワカツ領主は、実際、現皇帝の擁立に功があった者の孫でしたので、いわゆるカンタール体制でも重鎮の1人だったわけでした。

 さて、初代ワカツ領主はトゥンといって、

『故郷の川、山のふもと

天はテントのように司法の草原を覆いつくし

天は蒼く、草原は果てしなく広がってる

風が吹き、草の穂が垂れると、ウシやヒツジを見るのである』

と、いう詩が知られる詩人でもある武将でした。

 彼は反皇帝派との戦いで3倍の敵を破る勇将でもありました。

 その娘であるコーディーは、いわゆる戦争から個人的な決闘にいたるまで不敗まけなしで、あまりの強さから剣星を超える剣星『剣聖』とよばれていました。




 皇帝の近臣たちはこのような役職おしごとの常で腐敗していたのですが、カンタールの改革によってそれは一層されました。1話に列挙した面々はその後、カンタールによって抜擢されたり、今まで不遇な地位にいた者たちでした。

 そうして腐敗は無くなったように思われましたが、その実内側に隠れてしまったのでした。

 たとえば、いわゆるゾドムの罪と呼ばれる同性愛をめぐるスキャンダルが発覚した時期でもあります。これは同性愛自体よりも、それが幼児虐待になってたことがとくに問題でした。これが皮肉であるのは、カンタール体制はこの種の問題に特に保守的ないわゆる同性嫌悪フォビアとしか思えない対応を取ってきたということです。

 これに対処するように命じられたのは、逢坂の一族である九條くじょうかえでという方で、部下てしたのコンシディーンというのと手を携えてこの問題に対処することになります。

 彼女たちは、どちらかと言えば今回の仕事にあまり気が進まない風でしたが、カンタールや後述するフライスラー氏を始めとした関係者の異様な熱気にあがなうこともできず、またコンシディーン個人は子供の親権のために働かなければいけませんでした。

 彼女たちのについては、多岐にわたりますが、その中でよく知られているのが『オスカー・ワオ事件』です。

 これは著名な作家オスカー・ワオが未成年者とそういう関係になったこととそれを罪として裁くことになってしまった裁判をまとめてそう呼称したものです。

 オスカー・ワオは『サロメ』の翻案、『不幸な王女』『奇怪な肖像画』で知られる作家でした。そうして同時に同性愛者であり、それを隠しもしていませんでした。

 つまるところこれは、懲罰的な意味あいの裁判でした。『出る杭は打たれる』

というヤツです。

 オスカー・ワオについてあることないこと調査する役回りだったコンシディーンは

「なんで、戦時にこんなくだらないことをやらされているんにゃ」

と、愚痴っていたといいます。

 それに対して上司だった九條楓は

「つくづく因果な商売しごとだね」

と、返していました。

 結局、オスカー・ワオは牢につながれ、数年をそこですごすことになります。このの事件の影響を大きく、いわゆる『クローゼット』つまりは、自分の性的志向を隠して生きていけない時代になってしまいます。その傾向はこうしてこの文章が書かれている時代ときも続いているのです。

 話を元に戻すとして、このオスカー・ワオ事件が典型的なように、その種の性的逸脱に対して、帝国はてとも厳しい対応をしていくことになります。



 カンタールが帝国の主導権を握った20年間と、その前後5年を足した30年間をいわゆる「摂政リージェント期」と呼ばれました。なぜそう呼ばれたかというと、カンタール自体は無位無官の皇帝一家の家宰でしかなく、表向きは皇帝の甥が摂政リージェントとして国政を担っていたからです。

 そして、その特徴は、外は結局失敗しる外征、内は政治的、道徳的腐敗と報われぬ闘い(しかも最終的に敗北する)の時代でした。

 この時代を代表する人物として知られているのが、フライスラー氏でした。彼は帝都最高裁判所の裁判官でしたが、この時代の厳しい綱紀えっちのことは粛正いけないとおもいますのために作られた、かの悪名高い人民法廷に大きな関わりがあった人物です。

 人民法廷という名前ではありますが、実際は国家を健全化するために異分子と認定された人々を裁くために作られた、それ専用の裁判所でした。その中にはいわゆるLGBTの人々やお酒の場でちょっと愚痴ったくらいの人も含まれていました。

 そして、フライスラー氏はその人民裁判で一番仕事をした方です。

 結局、フライスラー氏は摂政期の終わりごろにあった、敵国の空襲で落盤に潰され亡くなりました。

 しかし、そのような強制は、下からの反発を招くこととなり、天京院春見の台頭を許してしまうことになります。




 ここで自害した武将の妻は、摂政期前半の混乱のキッカケであるナルベコフ家出身の娘でした。名前は最初カレーシアでしたが、嫁ぎ先でカリンと改名します。

 彼女が嫁いだ先は、イルハムの息子で九條家に養子の出されていた忠利ただとしでした。2人とも美男美女のほまれ高く、このとき16歳。仲は良く、嫁いだ翌年には1男1女ともうけます。しかし、それから3年後、実家であるナルベコフ家は帝国に対しはんらんを起こし、宰相を暗殺。反乱は結局カンタールによって鎮圧し、カリンの父も逃亡途中に落命してしまいます。忠利イルハム父子はカリンを愛していましたが、自分たちの生き残りのため、カリンを幽閉します。

 お家のためにと自害を進めるものもいましたが、カリンは

「父への孝行もありますが、夫のいうことも聞かずそういうことをするのは、妻の道をたがえてしまうことになります」

と、忠利への愛をつらぬきます。

 やがてカンタールに許されて、忠利のもとに帰った彼女は、つらい暮らしが待っていました。九條家と交流があった共和国の外交官は、こういう記述を残しています。

「忠利どのの妻に対する過度の嫉妬ヤンデレのための、な幽閉と監禁は、それは信じられぬほどであった」

 こんなエピソードがあります。

 たまたま九條家の庭を整えているときに、カリンを見かけた庭師がいました。それを見た忠利はいきなり庭師の首をカタナで切り捨ててしまいました。そしてその首をカリンの前に置きましたが、カリンは動じません。たまりかねた忠利は

「おまえは蛇なのか!?」

と、怒鳴りますが、カリンは

「鬼の妻には蛇がお似合いでしょう」

と、返しました。

 やがて、天京院のもとに従軍していた忠利は

「もし、敵に攻められて追いつめられたときに、生きて辱しめをうけてはならぬ、よいな」

と、カリンと部下たちに言い含めていました。

 その後に起こったことは、本編で記述した通りです。

 すべてが終わったのち、忠利はカレンの墓所を造り、毎日そこに手を合わせるのが習慣になったそうです。




 マラテダラン川の戦いは結局のところ局地戦でしかありませんでしたが、それでも勝利は勝利です。

 この戦いのMVPは戦闘を常に主導していたサコンでしょう。かれはこの戦いで、不穏な空気を少しでも晴らすことを目的としていて、それに成功したのです。




 ここで、ルッグの出自について書いてみましょう。ルッグは帝国の国家内国家である秋月国の出身です。かれの父の代に、帝国本土に渡ったようです。なぜ『ようです』と書いたかというと、ルッグは獣人の中でも希少なために差別されてた犬頭であること、そしてルッグの歴史における立ち位置のために、記録が少ないため推測が多分に入ってしまうためです。




 オレの顔を気の毒そうに見ながら、医者はこう言った。

「うーん、胃のあたりに腫瘍がありますねえ」

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