レンパリアの千人槍 4
敵の陣営に現れたそれは、投石機などではなく、
「二騎って、
「一騎は、敵将ガンスクラル公の末家、ブンミヤルの当主アウゴウセル公……無色のバルサルクゆえ、大した事はない。だが……」
説明する伝令官の表情が変わった。
「だが、もう一騎は……武器術全般から徒手空拳(格闘術)、法術まで赤色持ちの獣王公だ……」
「そりゃまた……
「お前たちの槍で、止められるか?」
レンパリアの隊長ライリィは、片手を雨粒にかざした。
「この雨じゃ……足元が踏ん張れねえ」
「我らが王は、
レンパリアの隊長、レイツの
少し前に、命を捨てるのは自分たちの仕事じゃないとレイツに言ったばかりだ。荷車を動かすには、命という名の車輪が必要だと。
だが、
「契約書には、そんな項目はねえ……」
「やってくれるか?!」
「やるも何も、俺たちは契約通りに仕事させてもらうだけですぜ……」
雨脚が激しさを増す中、伝令官は謝意を述べて、王の下に馬首を返した。
「
レイツは、初めて見る
「
驚くレイツの言葉に、
「ああ、荷車を動かすには、車輪がねえとな……」
「だがな、車輪ってのは、二つ付いてるもんだ。片方が『命』って名の車輪なら、もう片方は『信用』って名の車輪だ……」
雨音に交じって、どこからか雷鳴が聞こえた。
「雇い主の言葉に甘えて契約破棄しちまったら、レンパリアの千人槍は「契約を守らない」って世間から言われちまう。乞食傭兵って言われても困らねえが、契約を守らねえと思われちまうと……俺たちの後、これから先、千人槍になる連中が困る事になるんだ……。車輪は片方だけじゃ進めねえんだ……」
いつの間にか、周りにはレンパリアの男たちが集まっていた。
「聞いたからオメーら……午後からの相手は
「槍が滑らねえように、柄に縄巻いとけ!
「お、
「
「そんな……」
レイツは、だかえていた自分の剣を差し出した。
「剣は置いてくから、俺も!」
だが、
「車輪は、二つだ。俺たちが信用の車輪を回すんだ。命の車輪を回すのはお前らの仕事だ。俺がもしやられちまったら、死に様を兄貴に教えてやってくれ……」
また合図の音が響いた。
「テメーら、時間がねえ!縄巻いたら、歩きながら編成組み直すぞ!」
雨は一向に止む様子が無かった。
丘の上に残った者たちが見守る中、水飛沫を上げて、二騎の
待ち構えるレンパリア千人槍は、もはや
「いいかオメーら、俺たちの槍は絶対に折れねえ!だか、それ以上に折れちゃならねえのが、俺たちの根性だ。絶対に手え離すな!」
「おお!」
最前線で散会していた
飛び道具を持っていた
レンパリア千人槍の前と後ろで、隊列が崩れ出した。
だが、千人槍……実際には600人と300本の槍は、一本たりとも揺らがなかった。彼らだけが、押し寄せる波に対する唯一の堤防となって立ち塞がった。
「来るぞ!」
丘の上に残った者たちは、眼下の光景に息を
「あ……」
その光をレイツは知っていた。昔、剣術を教えてくれたバルサルクが見せてくれた事があった。手甲や得物に仕込んだ宝玉。ルジアナ地方でのみ産出され、かの国の聖霊使いが魔法石と読んでいるそれは、人体の不可視の力を増幅する
「法術だ!」
レイツが声を上げた時、突撃する
「ダメだ……」
離れた丘の上で、雨に
丘の上の仲間たちは悲痛な声を上げた。だが、彼らは、平原の有様に気付いても、直ぐ横にいた仲間が一人、姿を消している事には気付かなかった。
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