第10話 盗賊討伐クエスト

「ところで、なんで星降り山に行くんだ?」

 道すがら、そろそろ本題に入ってほしくて聞いてみた。

「あの山には盗賊団のアジトがあるの。あたしたち、大事な物を盗まれて」

「で、でも、ステータス強くないしレベルも低いから、だ、誰もパーティを組んでくれなくて……」

「ふうん」


 なるほどこれは盗賊討伐クエストか。大事な物なんて、どうせ大したことない親の形見とか、思い出の品だろうな。見るからに金持ちではなさそうだし。一応二人のステータス見とくか。


 シオン・トリコロール:おんな(15)

 職業:治癒師Lv7

 HP:まあまあ

 MP:それなり

 攻撃:ないよ

 防御:まあまあ

 魔法攻撃:まあまあ

 魔法耐性:それなり

 素早さ:まあまあ


 スキル

 治癒士Lv1:擦り傷の治癒ができる。


 カリン・ブランジェ:おんな(15)

 職業:剣士Lv9

 HP:そこそこ

 MP:まあまあ

 攻撃:それなり

 防御:それなり

 魔法攻撃:ないよ

 魔法耐性:ないよ

 素早さ:それなり


 スキル

 剣士Lv3:剣技「連続斬り」が使用できる。剣を装備していると攻撃力が上がる。


 確かにこんなんじゃ誰もパーティを組んではくれないだろうな。正直もうちょっとレベルを上げてからじゃないと、まともに取り合ってくれなさそう。


「ゆ、勇者様と組んでいただけてよかったです……」

 シオンがちょっと頬を赤らめた。

「なに言ってんのよ、こいつらと組むのは盗賊団を倒してあれを取り戻すまでの間だけよ」

 カリンはツンツンして言った。まるで自分に言い聞かせているようだ。


 山道を進んでいくと、地面に線が引いていあった。立て看板には「この先命の保証はない」と大層自信のある言葉で書いてある。

「それじゃ、行こうか」

 すっと線を超えた瞬間、視線、視線、視線。痛いほど飛んでくる。


「ひっ……」「い、い、嫌な気配がする……」

「しっかりしなさいよ、まだ何も出てきてないじゃない」

 アリカとシオンはすっかり怯えてしまい、カリンは二人を奮い立たせている。なんとも微笑ましい光景だ。うん、冒険パーティって感じだ。


 俺は視線をあえて気にしない素振りで、道端に落ちている石とか枝とか、蔓を拾い集める。ある程度集まったら、時間魔法で時を止めて「盗賊団に俺たちを襲わせて」と願う。使っているうちに気づいたのだが、時間を指定せず願った場合即時叶うようになっているようだ。


「おい、こんだけ見られてんのに無視すんじゃねーよ」

 俺は後ろから襲いかかってきた盗賊を振り向きざまに文字通りワンパンで沈めた。まあどっから来るか事前にわかっていたからな。

「今何が起きた!?」

「落ち着け、魔法かなんかだ」

「でもお頭、瞬時に後ろを見る魔法なんてありましたっけ?」

 ざわつく茂み、外れていく視線。ご丁寧にノコノコ奥の方から頭だろう髭面のおっさんが出てきた。体と同じくらいでかい剣を手に持ってる、ぶっさいくで似合わねぇ。


「へぇ、子供が四人。お宝取り戻しに来たってか、かわいそうになぁ」

 見るからに腕っぷしが強そうなので石を材料に盾を創って、振り下ろしてきた攻撃を受け流したら木の棒から創った粗削りの剣で軽く小突いてやる。え、うそだろ気絶しちまった。


「お、お頭ー!!」

 気絶している間に蔓で創った縄で縛り上げて引きずる。その間に残党を締め上げて、盗んだものがある場所へ案内させた。盗賊団は長いこと栄えていたのか、食べ物から宝石から武器、金貨まであった。アリカに二人の捜し物を手伝うように言って、俺は盗賊の処遇をどうしたものかなと考えていた。


「あ、カリンあったよ!」

シオンが小汚い本を持ち上げて嬉しそうな声で言った。

「よかった……傷の一つもないわ」

思っていたとおり、彼女たちの探しものは両親の形見だった。古代の魔法について書かれた本で、原本だから価値があるらしい。アリカも古代魔法と聞いて興味があるようで、ふむふむと真剣に読んでいる。


「よし決まった、盗賊団のメンバーを魔族に変えて」

 三人が見ていないからいいやと、そのまま願いを叶えた。面白いくらい簡単に残党たちは人間でなくなっていく。その脳筋具合が体現したかのような、大猿のような魔族に変わって、言葉すら喋れなくなっていくのが堪らなく愉快だ。お頭は市中引きずり回して、噴水にでも飛び込ませればいいか。



「貴方、なんて酷いことをするの」

 残りの宝を収納魔法でしまっていると、長い青髪の女の子が息を切らせてやってきた。胸が平たいからパスだな。ってか見られてたのか、ちょっとまずいな。


「さあ? ボクにはなんのことだか。盗賊たちが目の前で急に魔族に……」

「いいえ、その像に願い事をする瞬間を、私は見ていました。貴方がエルメスね? 勇者ともあろうものが、何故そのようなことをするのですか」

 な、なんだ? 女の子だと思っていたのに、めちゃくちゃ威圧感がすごい。ペチャパイなのに圧がある! すごまれるってこういうことなのか……いや、感心してる場合じゃない、この状況をなんとかしないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る