第9話 冒険者申請とランク査定

「あ、あの、お名前は……」

 背を向けた俺は弱気な方に名を聞かれたが、あえて答えずに外に出た。アリカと合流し、仲間が増えるとだけ伝えた。ドキッとして、オロオロしている。

 もし女の子が仲間になったらどうしようと思っているみたいだ。嫉妬で足を引っ張るようなことがなければ良いのだが。魅了スキルも考えものだな……あ、レベルが上っていたな、確認しよう。


 魅了Lv3:何かしらの接点があった相手を魅了する


 一気にレベルが2上がっていた。スキルレベルは最大Lv5で、到達するとMAXと表示されるようにしておいた。職業のレベルよりも上がりにくいようにしておいたのだが、アリカは余程俺に惚れ込んでいるらしい。やれやれ、モテるのも大変だな。


 のんびり噴水広場のベンチに座っていると、二人組の女の子が追いかけてきた。全ては予定調和だ。

「あ、さっきの人」

「単刀直入に言うわ! あたしたち、どうしても星降り山にいかなきゃいけないの、お願いパーティを組んで!」

 女の子が二人揃って頭を下げて頼み事をしてくるなんて、前世の俺に伝えたら嘘だと思われそうだ。もちろん断る理由はない。


「ボクは別に構わないけど」

「え、と、勇者様が組むというなら私は……」

「じゃあ決まりね! これに名前と職業を書いて」

 渡された申請書に俺はサラッと名前を書いた。アリカはためらっていたが、俺が微笑みかけると気持ちが収まったようで名前を書いた。チョロいもんだ。


「よ、よかった。これで申請出来るね」

「そうと決まれば、ギルドに急ぐわよ!」

 自己紹介もなしに、まくしたてられるようにギルドへ走らされる。何故急いでいるのかを聞いたが、後でちゃんと説明するからと言い切られた。弱気な方から紹介があり彼女は治癒師のシオン、強気な方は剣士のカリンという。姉妹ではなく友達同士らしい。


 ギルドは冒険者たちの集まる場所で、危険を顧みず宝を探すものや金儲けから人助けに精を出しているような変わり者まで、たくさんやってくる。炎の大陸では宿屋が兼業していたが、こっちは独立しているようだ。人が多いだけあって、掲示板にはクエストがベタベタ貼り付けてある。魔族からドロップしたアイテムの交換も頻繁に行われている。


「はい、確かに四人いますね。ではこれからランク審査を……って、勇者!?」

 申請書を受け取った受付嬢は驚いて飛び上がった。冒険者にはランク審査というものがあり、四人のステータスを参考にギルドが決定する。大体がF~Dランク、腕が立つと言われてやっとBランクだ。AやSは滅多に現れないことになっている。


「嘘でしょ!? し、失礼だけど、ステータスを見せてもらえるかしら?」

「はい、どうぞ」

 俺は素直にステータスを表示した。


「全能力最強!? こんなの見たこと無い……。ギルドマスターに相談してきますので、少々お待ちを!」

 受付嬢は奥に引っ込んでしまった。設定上、勇者が冒険者登録しても問題ないはずだが、何かあったのだろうか。

「ゆ、勇者!? あんたが?」

「だ、だから職業ちゃんと見てから申請しようって言ったのに……」

 カリンは唖然とし、シオンは怖いものに出会ったかのようにその後ろにくっついた。アリカは俺の能力が驚かれていることが嬉しいのか少し笑っていた。


「ほう、君が勇者か。まだ成人したばかり、といったところかな」

 しばらくして偉そうな人が出てきた。変な冷やかしならお断りだとしかめっ面をして睨んでやると、後ずさる。

「いやなに、水の大陸のギルドマスターとして勇者がどんなものか一目見ておきたかっただけだ。失礼」

 ギルドマスターは俺のステータスと顔を交互に見て、ブツブツ何かつぶやいている。

「ふむ、その歳にしては力をひけらかすこともなく落ち着きがある。肝が座っているようだ。勇者、魔法使い、剣士、治癒師とパーティのバランスも良い。査定するまでもない、ランクSSで決定だ」


 ギルドマスター直々にスタンプが押され、ピンバッチをもらった。これが通行証で、つけていれば危険なところにも行けるようになる。俺としてはもう少し余裕のある旅がしたかったが、少しくらい緊張感があっても悪くはない。星降り山へ行こう。

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