第8話 二人組の女の子

 俺とアリカは炎の大陸から船に乗って、水の大陸へやってきた。船着場の時点で炎の大陸よりも広く、アリカは新しい景色に胸を躍らせる。

 船内で話していたが、アリカはあの村のこと以外は世界をほとんど知らなかった。海がこんなに青いことも、海の水が辛いってことも。


「村を出たときは怖かったですが、今は楽しいです」

 屈託のない笑顔を浮かべる。当たり前だ、俺が連れ出す際に「この村の民は、俺のやることを否定しないようにして」と願ったんだから。


 マップに表示された町までは、船着き場から遠く川二つ超えた先とかなり距離があった。案内してくれそうな人もいないし、移動手段もなさそうだ。移動魔法使っちゃおうかな。

「いくよアリカ。しっかり掴まってて」

「えっ? あ、はい」

 俺が何をするのかわかっていなかったアリカは、言われるがままに腕にしがみつく。女の子とこれほど肌が近いなんて人生初だ。惜しむらくはアリカがベタ惚れで、俺からは恋愛感情が無いってことかな。なんかこう、運命的な出会いをして、自分が好きになった女の子じゃないとそういう気持ちにならないっぽい。可愛いとは思うんだけどな。


 マップを見ながら町の場所を把握して、俺は「移動魔法ワープ」と唱えた。瞬きする間に、パッと景色が変わって町の入口に着いた。

「すごいです勇者様! 長距離移動魔法なんて、私初めて見ました!」

「コツさえ掴めれば、アリカにも出来るようになるよ」


 俺はアリカの手を包み込むように握って、魔法を分け与えた。正直気まぐれだ。願い事が叶うアイテムがあるのにわざわざ彼女にお使いを頼むようなこともないが、ぶっちゃけ手を包んだときに彼女がどういう表情をするのかを試したかっただけだ。期待通り耳まで真っ赤になって、うつむいてしまった。

 ピロンと通知音がして、魅了スキルのレベルが上った表示が出た。


 そうそう、木の像は普段収納魔法で異次元にしまっといて、願い事を叶えるときは誰も見ていないところで使っている。誰かがいるときは時間停止魔法を使っているから、アリカはこのアイテムのことを知らない。教える気もない。


 町に入って今日の宿をでも探そうと歩いていると、二人組の女の子と門番が押し問答になっている。

「ここを通してよ、星降り山にどうしてもいかなきゃいけないの!」

「だめだだめだ。ギルドの通行証が無いやつは、たとえ勇者だって通すわけにはいかない。ほら帰った帰った」

「だったら力づくで……!」

 片方の強気な女の子が剣に手をかけた。

「や、やめなよ! こんなところで問題を起こしたら、冒険者どころかお尋ね者になっちゃうよ!」

 もう片方の弱気な女の子が引き止めて、勝ち気な方はやむなく剣から手を離しむくれた顔で去っていった。


 そういや、ギルドの冒険者登録は四人以上でパーティを組んでいないと申請出来ないようにしておいたんだっけ。冒険者が一人じゃ危ないもんな。うん、我ながらいい書き換えだったと思う。あんな可愛い子二人じゃすぐやられ……。


 そうだ! 俺が組んで冒険者にしてあげよう。できればかっこいい登場と鮮やかな見せ場が欲しいところだな。アリカに待つように指示をして追いかけていくと、二人組は酒場に入っていった。いいところに入ってくれた、血の気の多い男がいる場所で俺が助けてやれば、コロッと落ちそうだ。


「酔った男に、あの子たちを襲わせて」

 願いが叶い大酒飲みの男が、肩がぶつかっただの女が足を踏んだだのと因縁をつけて襲いかかるタイミングを見計らって俺が颯爽と登場、殴ってきた拳を躱して眉間に一発デコピンを喰らわせれば、壁まで吹っ飛んで気絶した。


「す、すごい……! 一発で吹っ飛んだ」

「ふん、あんたなんかが助けてくれなくたって、あたし一人でどうにか出来たわよ! 余計なことしないで!」

 ほら、思い通り。偉大なるラノベ先人たちの知恵「暴漢に襲われる女の子を助ければ確実に落ちる」の実践だ。勝ち気な方はツンデレのテンプレのような台詞を放った。絶対これは俺に感謝している、そうに決まっているんだ。

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