第7話 海を渡り

 それから俺はアリカを連れて、港に向かった。この大陸でやれそうなことはなさそうだし、水の大陸には商人も多いと誰かから聞いたようなことを覚えていたので、興味本位だ。すぐにでも魔王を倒せるけどもったいない、ゆっくり楽しもう。


 ちょっと距離を開けられているのが気になって、チラチラ横目で見ると、アリカは目が合うだけで顔を真っ赤にして目を逸らす。恥ずかしいようだ。

 新スキル取得通知が出たのでステータスを見ると、俺は「魅了」のスキルを習得していた。


 魅了Lv1:自分に対して好意を抱いた相手を魅了する。

 発動した覚えはないから、アリカは俺に一目惚れしていたことになる。やれやれ、しょっぱなから惚れられる展開か。嫌いじゃないね。


 俺はからかうようにわざと顔を覗き込んだり、なんでもないことを話しかけたりした。その度に驚くもんだから、ニヤニヤが止まらない。気づけばあっという間に港に着いた。


「あの、勇者様……船のあてはあるのでしょうか」

「へっ?」

「貨物船は頻繁に運行していますが、人を乗せた連絡船は何日かに一度です。今日運行していれば良いのですが」

 すっかりその辺の知識を得るのを忘れてた。貨物を乗せていた男に聞いてみると、今日は運行していないとあしらわれた。


「まいったな、海を凍らせて歩いて行こうかな……でも遠いしなぁ」


 木材はそこらに落ちてるし、小さい船でも作ろうかと海を眺めていると、沖の方からデカいイカみたいな魔族がゴボゴボ泡と共に現れた。船を見境なく手当たり次第に攻撃して、乗っている人や荷物を落としていく。クラーケンやダイオウイカの類か、面白そうだ。


 商人や漁師が慌てふためく様子を少し見てから、俺は剣を構えてイカの前に立った。ここは剣使っておかないとそれっぽく見えないし、魔法は初陣のアリカに花を持たせてやりたい。実力も知りたいところだしな。


「俺が足を切って動きを止める。アリカは雷魔法でトドメを刺せ!」

「は、はいっ!」

 アリカはあわあわしながら、雷魔法の詠唱を始める。溜めてから放つ魔法は時間がかかるが威力が高い。戦いとなれば冷静にそれくらいは考えられるのか。優秀だ。


「ていっ! そりゃっ!」

 詠唱が終わるまでに俺はイカの足を一本一本切っていく。当たり前のことだが、攻撃力を最大にした刃が通らない相手はいない。どんなにナマクラな剣でも、俺の手にある限りはエクスカリバーだ。


「勇者様いきます! 雷連撃サンダーレイン!!」

 アリカの放った雷魔法で、足を全部切られた焼きイカが出来上がった。海に沈んで泡立った海が静かになると、漁師たちが俺のことを海の魔族を討ち払った英雄だと褒め称える。アリカは子供のように手を叩きすごいですと感動している。


 いやー、最高の気分だ。でも顔に出さず、あくまで平静を装っておく。勇者ですからこれくらいはと、謙遜&アピール。これが一番効く。

 思惑通り俺とアリカはゆったり広めの客船に乗せてもらい、次の大陸を目指した。



 その頃、神のいるべき場所に赤屍が到着した。死神は回収前にその世界の神(大抵は創造神)に挨拶をする決まりだ。神殿に神がいれば明るいはずだが、電気を消したように暗くなっている。

「おカミー? おカミ、いらっしゃいますかー?」


 呼びかけながら歩いて回るが、神殿内に神の姿はなく、嫌なくらいに静まり返っている。

「……まさか」

 手帳を開き、この世界で起きた事柄の記載されたページを開くと、苦虫を噛み潰した様な表情になる。


「罰当たりなことするっすね、今回の転生者は……。そいで、案の定天使も絡んでるっと。やってらんねぇー」

 事態を重く見た赤屍は、一度死神局に戻ることにした。

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