第5話 レベル!スキル!!ステータス!!!

 民衆にもてはやされるっていうのは、高揚感に溢れた最高の気分だ。誰も彼も俺の将来を有望視している。褒められることが少なかった前の人生とは比べものにならない。

 夜も近くなってきて、俺は宿屋に一晩泊まることにした。テオの買ってきた長細いコロッケみたいなものを食ってみる。


「うっ……!」

 ま、不味い! 不味すぎる!! なんだよこれ、辛くて舌がビリビリするだけで、ちっとも美味しくない。ひき肉を皮で包んで揚げただけのものだけど、肉の味が完全に死んでる。皮も厚すぎて脂っこい!


「どうされました? 包み揚げは好物だと覚えておりましたが」

 テオが不思議そうにこっちを見てくる。エルメスはこんな不味い飯を美味いと勘違いして食っていたのか、可哀想に。よし、俺がもっともっと美味い飯を教えてやろう。

「なんでもないよ。今日はご苦労だった、下がって」

「かしこまりました」


 ようやく一人になれた俺は、今後のことをぼんやり考えていた。どっかで土地を手に入れて農園でスローライフを送るもよし、追放された没落貴族の身分をフル活用して成り上がりものもいいなぁ。でもやっぱり異世界に来たからには、勇者になって魔王をぶっ倒してハーレム作って……。


「あ、そうだ! すっかり忘れてた! 俺のステータスを表示して」

 手をかざしても開けなかったので、非公開データだろうと考え像に願う。異世界といえばレベル、スキル、ステータスの三概念あってこそ。この身体はどれくらい能力高いんだろう、魔法はどれくらい使えるんだろう、しっかり覚えておかないと。


「この世界に存在しないものを表示することは出来ません」

 エラー音がした。は? 嘘だろ? 異世界の必須項目が無いっていうのか? まったくファンタジーの欠片もない世界だな。さて、どうしたもんかな……。下手に願い事をして世界を変えて、俺以外が得をするようなことがあると困る。ってなると、固有スキルとして持っておくほうが無難か。


「無いなら作ればいい。『上書き』のスキルを俺固有のものとして与えて」

 像が光り、特にメッセージも表示されたりはしないが俺は世界を上書きするスキルを手に入れた。

「ようやくこれでゲームが面白くなるな。精霊もチョロかったし、魔王も楽勝かもな」


 俺は部屋の窓を開け、右手を伸ばし「上書きオーバーライト」と唱えスキルを発動した。瞬く間に世界は俺の想像した通りに書き変わる。


 まずは世界、創造神は世界を作った後眠りについたことにしておく。精霊は……まぁ生かしておいていいか。その代わり信仰度合いを低くしておこう。あんなキツネが偉そうにしているのは許せない。それから、魔族と人間は五百年間争っていたことにしよう。この世界の言葉はなんかもしょもしょしてて、分かるけど聞き取りづらいから、日本語にしとく。文字も書きやすいようにひらがなに変更。そうそう、俺の知ってるアイテムのいくつかを存在していたことにするっと。


 次にレベル、スキル、ステータス制度を採用する。基準は最近読んだラノベを適当に混ぜていい感じにしとこう。人間は魔族を倒せば経験値が入ってレベルが上がる、魔王が強くないと面白くないから、魔族にも適用しておく。


 スキルは一人最大三つまで、俺は無制限。ランダムに生成して、成人の儀で授かるようにしておこう。ステータスはわかりやすくドラクエ風にしておくか。レベルが上がらないと上がらないようにしておく。


 忘れちゃいけない、食文化。日本と同じにしておこう。洋食中心だろうから、味付けはサイゼとかガストとか、あの辺のものに変更っと。


 最後に、俺は成人の儀で勇者に認められていたことにしておく。明日からは魔王討伐に出発して、町の人からは盛大に見送られる。よし、完璧出来上がり!


 世界の上書き保存が終わると、テオが持ってきたものはただのコロッケに変わっていた。サクサクでジューシーで美味しい。うん、これこそ人の食べるものだ。


「これで表示出来るな」

宙に手をかざすと、ステータス画面が出てきた。コロッケを食べながら、自分のステータスを確認する。


 エルメス・アラート:おとこ(15)

 職業:勇者Lv15

 HP:最強

 MP:最強

 攻撃:最強

 防御:最強

 魔法攻撃:最強

 魔法耐性:最強

 素早さ:最強


 スキル

 勇者Lv1:このスキルを持つものは勇者である。

 創造Lv1:材料を揃えればすぐ物が作れる。

 真実の眼Lv1:物の真贋を判別できる。

 世界改変:ありとあらゆる事象を「上書きオーバーライト」できる


 よっしゃあ! これでやっと異世界生活が始められる! 俺はコロッケを平らげた後、早く夜が終わらないかとワクワクしながら眠った。

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