第4話 泣く天使 動く死神
その頃、天使の住まう花園で。
「あらリリィ、おかえりなさい。お仕事はどうでしたか?」
背丈の大きな天使が、ピンクポニーテールの天使に優しく微笑みかける。
「はい、大天使ファルス様! 今回も現代日本で苦しむ人を一人お救いしました!」
「それはいいことをしましたね、これであなたが救った人間は十五人。役職を与え、天国の門を守る仕事を任せましょう」
「わあい! ありがとうございます~!」
天使は、不幸な人間を幸せにすることで評価される。病気を治したり子供を授けたり恋仲を取り持つなど様々あるが、特に不慮の事故で死んだ人間に新しい人生を歩ませることは最上の幸せとされ、天使たちはこぞって人間の異世界転生に協力し、出世ポイント稼ぎに奔走する。
人間が人間を殺した方が不幸になると、運転手の邪魔をしてトラックで轢かせるのが定番だったが、近年は異世界側の神の手違いを引き起こさせるよう裏で画策し、より不幸な「ポイントの高い」人間を作り出して行き先も確定させる、一石二鳥のやり方が流行りだ。
これに薄々感づいている大天使もいるが、ポイントを稼げる天使を多く従えることは彼らのステータスでもあるので、誰も咎めようとはしないし、報復を恐れ密告もしない。天界の神々には、今日も世界は平和ですと報告している。
「お疲れ! 天国の門行きおめでとー!!」
「うん。ありがとマリィ」
宿舎に戻ったリリィは、金髪の天使に生返事を返して浴室でシャワーを浴び、腕を入念に擦って洗い続ける。いつまで経っても戻ってこないことを心配したマリィがやってきて、扉越しに声をかける。
「リリィ? どしたのそんなゴシゴシ洗って。ヤバい人間でも引いたの?」
「引いたも引いた、性格クズで童顔デブのおっさんだったよ。こっちニヤニヤ舐め回すように見てくるし、しつこく名前聞いてくるし、腕掴まれちゃって最悪……。日本人本当に頭おかしい、天使に敬意なんてなくて、性の対象として見てくるんだよ! 気持ち悪いっ……!」
しくしくと泣き声が聞こえて、マリィは扉を開けて濡れたままのリリィを抱きしめる。
「あーあー、泣かない泣かない。リリィは偉かったよ、心まで汚いおっさんを十五人も異世界送りにしてちゃんとポイント稼げたじゃん。アタシはおっさん相手とかマジ無理だから出来ないもん」
「うっ……うっ……」
リリィは抱きしめられた腕の中で、ボロボロ泣いた。
他方、死神局回収課にて。
「あーダルっ。今日は仕事サボって寝てよ」
赤いスーツを着た死神が、飴を口に放り込んでダルそうにしている。彼の名は赤屍、魂を回収する死神の中で、唯一異世界転生者の魂回収を命じられている。だが仕事に対するモチベーションは低く、今日もこうしてデスクに突っ伏している。
そこへふよふよと魂が浮かんできた。
「俺疲れてんな……こんなとこに魂が流れ着くわけねーもん」
まぶたを閉じて寝ようとすると、魂が光り輝いて眩しさに飛び起きた。
「うわ現実かよ最悪」
赤屍は魂を引っ掴み、手帳を開いて情報を見る。
「回収番号無し、寿命日付は大分先。出身世界は……ああ、アンタも日本人に身体を奪われたクチっすか。かわいそうに」
コルク瓶に魂をしまって、ため息をつく。
「来ちゃったものは仕方ないっすね。まーた面倒なことが始まるっす……」
赤屍はパソコンで必要事項を入力すると、プリントした紙をロッカーに貼り付ける。
「向こうがウチのこと知らなきゃいいんすけどね……」
ロッカーを開けた赤屍は、魂がやってきた世界に飛び込んでいった。
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