第2話 二度目の人生は文字通り神アイテムと共に
「な、なんと! その願いは……!」
俺の願いが叶って神様の体はみるみる縮まり、木彫りの像に変わって俺の手に収まった。神の真名を使った願い事には拒否権がないらしい。
「はーいよくできました! これであなたの人生は、誰にも邪魔出来ないですよ」
天使はにこやかに笑って撫でてくれた。笑顔を向けてくれた最初の女の子が天使だなんて、しかも撫でてもらえたなんて、俺は最高に運がいい。
もっと一緒にいたかったけど、天使は人に幸せを運ぶのが仕事。他の人のところへ行かなければと別れを告げられた。側にいてもらうように願おうと思ったけど、そんな束縛めいたことはしたくなかった。せめて名前だけでもと食い下がったけど、天使は笑顔を向けたまま飛び去ってしまった。
ここからは俺一人で行かなきゃいけない。やってやる! なんだって好き放題願いが叶うアイテムがあるんだ、現実で不幸だった分、異世界で最高に幸せになるぞ!
俺は、神様の立っていた場所から立ち昇る光に触れる。体が包み込まれると、すーっと意識を失い、見知らぬ屋敷のベッドで目を覚ました。
「ここは……?」
立ち上がると、服が元々着ていたものと違うことに気づいた。姿見まで歩いていくと、顔立ちのいい青年が立っていた。
「おおー! 本当に異世界転生出来てる! これがエルメス、今からの俺……」
よくラノベは赤ちゃんから始まるから、目を覚ましてゆりかごの中だったらどうしようかと思った。幼少期はすっ飛ばして、体を自由に動かせる青年期になっているようだ。木彫りの像は机の上に置いてあり、手にとって早速願いを言う。
「エルメスについて教えて」
像が光ると、頭の中にぶわっと記憶の波が押し寄せてきた。エルメスは明日十五歳の誕生日、この世界での成人を迎える。心身共に健康で、剣術はそこそこ腕に覚えがある。将来は騎士になって、家の再興をする夢があった。
アラート家は貴族だったが父の代で没落、ボロい屋敷に三人家族で暮らしている。母は産まれてすぐに死去、今いるのは再婚した継母で、子供がいるとは聞いていなかった為かエルメスには冷たく当たっている。自身はなかなか子供を授かれずヒステリックを起こしがち。
なるほど、いくらでも出て行く口実があるパターンか。俺がなんかやらかしたか、誤解されるタイプの初動といったところか。悪くない。よし、今度はこの世界について知ろう。
「この世界について教えて」
再び像が光る。四つの大陸から形成されており、文化レベルは中世ヨーロッパと同じくらい。魔法が存在する世界で、四つの大陸にはそれぞれ守護を任された精霊がいる。魔族と呼ばれるモンスター的な存在もいて、魔王が君臨しているが、人間とはここ五百年近く友好的な関係を築いている。
なんだそりゃ。人間と魔族が仲良しこよしなんて全然ラノベっぽくないぞ。つまんねーの。
魔法が使えるか試そうと次の願いを口にしようとしたら、急に部屋のドアを乱暴に開ける音がした。継母がヒステリックな顔つきでズカズカ部屋に入ってきた。
「エルメス! まったくお前という子は! 今日という今日は許しませんからね! お父様にもキツく叱っていただきますから!!」
継母は俺の首根っこを掴んで、ズルズル引きずって書斎に向かう。もう既に事が起きてるっぽい。ラッキー、自分から起こす必要は無くなったな。
その後の展開は予想通り。俺は意地悪な近所の悪ガキ達と早めの成人の儀をやるぞと入ってはいけない森に置き去りにされた。それで俺だけが入ったとチクられ、出てきたところを大人たちに見られていた。言い訳もできず、家に帰って寝ているところだったらしい。
「……エルメス、お前ももう十五歳。確かに成人だが、それは明日からの話だ。儀式を終えるまでは、私を困らせることはあまりして欲しくない」
「もっと言ってやってください! いつもこの子は、私の手を煩わせることばかり! 子供だからと今まで我慢していましたが……」
「わかりました父上、母上。ボクは明日この家を出て行きます」
あまりにも潔すぎる俺の言葉に、二人は閉口した。父親はいやそこまではと言ったが、継母はこれ幸いとばかりに必死に説得していた。
そんな二人に背を向けて、俺は一人部屋で出発の準備をしていた。といってもカバンに物を詰め込むような古臭いファンタジーじゃなくて、収納魔法を覚えて後は寝るだけだったけど。
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