第11話 期待

 少し遅い時間だけれど、僕は文芸部の佐々木先輩にメッセージを送った。内容はオカルトに興味がありそうな人と、話せないかということだ。強引に勧誘する気はないし、どうせなら自らオカルト部に入りたいって思ってくれるようなタイプがいいけれど。優先すべきは、早く5人揃えること。背に腹はかえられない。

 佐々木先輩は、明後日、月曜日に大学で文芸部の集まりがあると教えてくれた。集まりといっても会議などではなく、集まって文化祭に向けた作業を各々するといったもののようで、部外者が紛れても問題ないらしい。

 佐々木先輩の厚意に甘え、覗かせてもらうことにする。ついでに冊子作りについても聞いておこうか。どうせなら1人ではなく誰かに一緒に聞いて欲しい。

 いつもなら楓に付き添いを頼んでいたけれど、なぜそんなにも慌てて5人目の部員を探すのかと指摘されそうだ。部員集めのためではなく、あくまで冊子作りの方がメインだと言うことも出来るけど。惣一は家も遠いし、デザイン的なことに関して真吾に任せたいと思う部分もある。今回は真吾で決まりだ。

 さっそく真吾に連絡を取ると、問題ないと返事が返っていた。真吾とはユウマの話を詳しくしていないけれど、いったいどう考えているのだろう。


 月曜日、メモが取れるノートなどを鞄の中に入れ、出掛ける準備を整える。

「ミコト、どっか行くの?」

「うん。ちょっと大学まで。文芸部の人と話してくるんだ」

「他の部と交流? 楽しそうだね」

「交流っていうか、冊子の作り方とかいろいろ教えてもらうんだ。出来れば部員の勧誘とかしたいけど」

「増えるといいね、部員」

「うん」


 兄さんに見送られ大学へと向かう。待ち合わせしていた中庭にたどり着くと、5分も経たないうちに真吾がやって来た。

「真吾! 急に呼び出してごめん」

「いや、全然急じゃないし。構わないって。にしても……今日はもしかして俺達だけか?」

「あ……そうなんだ、そういえば言ってなかったね」

 僕が伝えたのは文芸部に話を聞きに行くことだけで、みんなも一緒とか、2人だけだとか、そういうことは伝えていなかった。部活動の一環で、惣一や楓も一緒だと思うのも当然だ。

「1人じゃ行きづらいから誰かについてきて欲しいなって思って。それに説明聞いて僕で理解できるかも不安だったし。真吾はパソコン使ったデザインとか慣れてそうだから、僕より理解力ありそうだなって」

「はは、どうだろうな。まあ解像度とかそういう知識はあるし、力にはなれると思うぜ」

 真吾の言葉に安堵し、僕達はさっそく文芸部の部室を尋ねた。


「久しぶり、ミコトくん。部員は増えたかな」

 部室に招き入れてくれた佐々木先輩に尋ねられる。

「そんな急には……」

「でも隣の彼は、先日の子と違うよね?」

「お邪魔します、遠藤真吾っていいます」

「真吾も、もともとうちの数少ない部員の1人です」

「そっかそっか。部員を奪われるのは寂しいけど、掛け持ちとかそういうのなら全然問題ないから。あそこで固まってるグループがホラー系好きなメンバーだよ」

 佐々木先輩が示した場所には、3人の学生が座っていた。1人は女子で2人は男子。男がいることにほっとしながら、佐々木先輩に会釈し、ホラー好きグループの方へと向かう。

 なにか作業をしているわけではなく、談笑していたため気軽に声をかけられそうな雰囲気だ。

「真吾、話聞いてみよう。冊子の作り方も後で確認するけど、ホラー好きの子なら、オカルト研究部に興味に持ってくれるかも」

「おう。勧誘だな。誰か興味持ってくれるといいな」

 少し緊張しながら、3人に声をかける。

「あ、あの……ちょっといいですか?」

「あれ、見ない顔だけど、新入部員?」

 一番先に僕の言葉に反応したのは、眼鏡をかけた女子。眼鏡というのも本当に目が悪いのか疑いたくなるようなおしゃれ眼鏡で、なんていうかイマドキといった感じの子だ。正直なことを言ってしまうと、苦手なタイプ。入ってくれる部員を選べるような立場ではないけれど、一応、男子のみとしている。ただ、あなたには用はないとも言えず、さりげなく男子2人へと視線を向けながら、言葉を続けた。

「オカルト研究部の者です。そういうのに、興味ある人いないかなって思って……」

 男2人は顔を見合わせた後、僕と真吾に視線を向けてくれた。

「そんな部あったんだ?」

 男にしては珍しく肩まで伸ばした髪が特徴的な学生が、自分の記憶を確認するみたいに首をかしげる。

「作ったんです。ただ4人しか部員がいなくて、部としては認められてないんですけど」

「いはままだ同好会だな」

 そう真吾が補足してくれる。たったそれだけで少しだけ気が楽になるから不思議だ。

「どんなことする部なんですか?」

 別の真面目そうな男子が興味を持ったのか、尋ねてくれた。

「いまは心霊スポット巡りとかしてます。でもなにも心霊だけがオカルトじゃないんで、UFOとか、そっち系もいずれは行きたいんですけど……。出来たばかりの部なんで、活動方針もまだちょっとあいまいで」

 こんな状態では話にならないかもしれない。それでも、1人の学生が食いついてくれた。

「私、ちょっと気になるなー」

「あ……」

 食いついてくれたのは女子学生。女子はダメだと言いづらく、どうすればいいものか迷っていると、僕の代わりに真吾が説明してくれた。

「すみません。実は男子だけの部なんすよ」

「えー、そうなの? 残念」

「また活動方針変わったときには、よろしくッス」

 男子だけということに関して、とくに突っ込まれることもなく、僕は心の中で真吾に感謝する。

 男子2人は少し考えているみたいだった。

「実際スポット行くのはちょっと怖いけど、オカルトには興味あるな」

「うん、超常現象とか、ホラーの題材にもなるし」

 ホラー好きだけあって食いつきは悪くない。

「ゆるい活動なんで、もし興味があれば掛け持ちでも……。あ、もちろんいますぐ答えを出せとは言わないんですけど。これ、よろしくお願いします」

 掲示板に貼っておいたチラシのコピーを手渡す。そこには僕の連絡先が載っていた。あまりしつこい勧誘は逆効果だろう。今日はこの辺にして、後は冊子作りについての話を聞きに行こうと、真吾に目を向ける。

「それじゃあ、行くか」

 真吾も僕の意図を察してくれたようで、僕達はホラーのグループに会釈をすると、佐々木先輩のもとへと向かった。

「どう? 勧誘出来た?」

「ひとまずチラシ渡させて頂きました」

 本当ならすぐにでも部員が欲しい。ただ焦りは禁物だ。2人から連絡が来ることを願う。

 その後、冊子の作り方について真吾と一緒に話を聞いたけど、正直、わからないことだらけだった。ただ、僕と違って真吾は理解していそうだ。

 部室を後にし、僕達は近くのカフェで一緒に昼ご飯を食べることにした。


 大学から歩いてすぐの店で、いつもは学生でにぎわっている。ただ、夏休みということもあってか、今日は比較的すいていた。

 僕はオムライスを、真吾はカレーと注文し、一息つく。

「真吾、さっきはありがとう」

「さっき?」

「冊子のこともだけど。男子だけの部だって、僕、言い損ねちゃって」

 真吾はとくに気にしていないみたいだけれど、僕は真吾の一言に救われていた。

「男だけの方が気楽……って、わかるけどさ。ミコト、もしかして女苦手だったりする?」

 何気なく真吾に尋ねられ、心臓の鼓動が速くなる。

「えっと……まあ……」

 女が苦手な男なんていくらでもいる。女が苦手ってだけで同性愛者に結び付けるのは軽率すぎるし偏見だ。バレるはずがない。自分にそう言い聞かせ、なんとか平静を装う。

「女いると気使うよなぁ。俺の友達でもそういうやつ多いよ」

「そうなんだ? そういえば真吾は男子校出身だっけ。女子に接し慣れてない人も結構いるってこと?」

「そうだな。俺も慣れてるってわけじゃないし。友達の中には、女が嫌いで男が好きってやつもいるな」

 なんら不思議なことではない様子で真吾が言う。

 それでも、もちろんカミングアウトする気はないけど。

「それって、友達の話?」

 少し冗談めかして聞いてみる。

「なんだよ、俺がそうじゃないかって疑ってる?」

 真吾は本当に冗談だと思っているのか、笑いながら僕に聞き返した。これ以上、この話を続けるのは危険だ。けど、もしかしたら理解者なんじゃないかって期待してしまう。

「ま、別に真吾がそうでもいいけど」

 話を収束へと向かわせつつ、僕はまたひとつ探りをいれる。

「俺も、別にミコトがそうでもいいけど」

「え……」

 思いがけない返しに、つい反応してしまった。この反応は間違いだ。してはいけない反応だと自分でもわかる。冗談としてのやりとりではなく本気だと言っているようなものだ。

「……マジで俺の話じゃないけどさ。友達がそうだっつったろ。最初は驚いたけど、なんか慣れたな」

「ふぅん……」

 冗談ではないとおそらく伝わってしまった上で、真吾は僕の不安を軽減してくれた。

「そういうのに抵抗あるってやつの言い分もわかるけど。あんま変な目でそいつのこと見ないでやってくれって思うよ」

 真吾は、普段なにも気にしてないようで気遣える男なのかもしれない。いや、そもそもいい意味で、いろんなことを気にしていないのかもしれない。

 だからといって、やっぱりいきなりカミングアウトは無理だけど、真吾なら理解してくれるんじゃないか。そういった期待を抱かずにはいられなかった。

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