第6話 相談
翌日昼頃、スマホにメールが届いた。惣一からだ。共有フォルダを作るにはパソコンのメールアドレスがいるらしく、伝えるとすぐさまパソコンにメールが届いた。本文に書かれていたアドレスをクリックすると、オカルト研究部と名前がつけられたフォルダに辿りつく。
「ここに画像をアップすればいいってことだね」
昨日は覚えていることを書き記すだけで終わってしまったけれど、やっとデジカメをパソコンに繋いでデータを取り込んだ。
自分が撮った画像は100枚を超えている。こういう場合、厳選して送った方がいいのか迷ってしまう。さすがに100枚も送り付けられたところでみんなも目を通せないだろう。ただ、共有フォルダということで、とくにメールに添付するわけじゃない。なにか言われたら後で削除するとしよう。
ひとまずフォルダの中にミコトデジカメフォルダを作成し、画像をアップしていく。スマホ用のフォルダも別で作成しておいた。
その日の夜、僕はメモを参考にレポートを書いてみた。中学生の頃に作った社会科見学の新聞のようなもので大した出来ではないけれど、一応、部の設立者として1番に出しておこうかなんて思う。
「ねぇ兄さん。印刷所に頼むなら、写真の解像度とか気にした方がいいよね?」
兄さんが僕の背後からパソコンを覗き込む。
「そうだね。でもプリンターで印刷して本みたいにしてもいいと思うし、とりあえず仮で、どういった冊子にするかはまたみんなで相談したらいいんじゃない?」
「そっか。じゃあとりあえず仮ってことで……」
手書きのレポートでもないし、後でいくらでも修正出来る。さっそく作ったレポートを共有フォルダに入れておく。惣一が作ってくれたメモ帳ファイルに、レポートの形式については仮だと残しておいた。
「……レポート提出は任意にしようかな。出来れば1回以上提出くらいにして。行くたびにレポートじゃ疲れちゃうかも」
「それくらいだと気楽でいいと思うよ。ミコトは部員想いだね」
「自分がラクしたいだけだよ。ちゃんと毎回書けるかわからないし……書くつもりではいるけど」
「うん、がんばって」
兄さんに励まされつつ、僕は共有フォルダ内のメモ帳に任意であることを書き足した。
それから週1回のペースで心霊スポットに向かう計画が立てられた。2回目は少し離れた河原。街灯も少なく結構怖い雰囲気が漂っていた。それでも1回目と同じように何事もなく終わる。
その翌日、僕がレポートを提出するとそこに惣一のレポートも追加されていた。1回目のものと2回目のもの。惣一のレポートは論文のような出来だった。心霊スポットと言われている理由や情報、ネットで調べたものからの引用もあるのだろうけれど、すごく読みごたえがある。
僕のレポートは、日記に近い文章だけど、どちらもタイプが違うため、部員勧誘の窓口も広がったかもしれない。
そして3回目の心霊スポット巡りの日。待ち合わせ場所の大学に着くといつものように惣一と楓がいた。ということはユウマもいることになる。
「そうだ、惣一。レポート読んだよ」
「あんな感じでよかったかな。引用してばっかりで……」
「なにも起きてないからなぁ。心霊スポットって言われてる理由なんかは、サイトの情報を参考にするほかないし。なにを参考にしたかも書いてくれてたよね。それでいいと思うよ」
「ボク……なかなかまとめられなくて」
楓が申し訳なさそうに僕達を見る。
「ううん。無理しなくていいよ。まあ出してくれたら嬉しいけど、なにか起きてからでもいいし」
正直なにも起きていないこの状況で、僕達4人がレポートを出してもあまり読みごたえはないかもしれない。
そんな話をしているとすぐに真吾が来てくれて、僕達はいつものように車に乗り込んだ。
今日、僕達がやってきたのは、とある神社だった。さすがにあまり騒ぐのは罰当たりだろうと、静かに境内を歩きながら写真を撮る。またいつものようにみんなで写真を撮ろうとしたときのこと。ふとあることに気付く。
「惣一がデジカメで撮った写真、いくつかフォルダにあげてくれてたけど……みんなで撮った写真ってあがってたっけ」
「あ……その、レポートに使えそうな画像と遊び用の画像、一緒に混ぜていいのかわからなくて……」
意図的にあげていなかったようだ。少し戸惑いがちに答える惣一の肩を真吾がぽんと叩く。
「一緒でいいんじゃねぇか? レポートには使わなくても、テレビでよく見る心霊写真って、こういう人が映った写真だったりするし」
人の後ろに、いないはずの誰かの手が……なんてよくあるパターンだ。合成しやすいだけかもしれないけれど。
「そうだ! これまでみんなで撮った写真以外は景色ばっかだったよね。これからはもっと人も撮らない? ほら、惣一と真吾、そのままくっついてて! 撮ろう」
2人に向かってデジカメを構える。撮影が終わると今度は僕の番。
「惣一、僕と楓も撮って」
「うん」
惣一がこっちに自分のデジカメを向けてくれる。
「ねぇミコト。なにか映るかな」
「ちょっと怖いけど楽しみだね。映らなくても、楓との写真なら嬉しいし」
2人ずつ撮った後、隣の楓が口を開いた。
「ユウマも一緒に撮ろう」
つい忘れてしまっていたが、楓はちゃんと覚えていたようだ。とはいえさすがにユウマ1人だけで撮るのは難しい。こういってはなんだだけどそれでは景色と変わらない。
僕は適当な場所に立つ楓と、目では確認することの出来ないユウマとの写真を撮影した。2人の写真を撮り終えると、それぞれ境内を観察するように歩き回る。
日も落ちて来たため、1人デジカメの設定を弄っていると、惣一が話しかけてきた。
「あの……さ……。ちょっといい?」
暗くてよくは見えないけど、惣一はなぜだか罰が悪そうに、僕から視線を逸らしているみたいだった。
「なに? なにかあった?」
「その……たまに、本当にユウマくんがいるみたいに思えるんだけど……」
少しとはいえ霊感がある惣一のその言葉に、一瞬背筋がゾクリと震え上がる。ここが心霊スポットで、意識しすぎてしまっているせいかもしれない。湿度が高く生ぬるい夏の夜の空気が、突然気持ち悪く感じた。
「そんな、いきなり深刻そうに言わないでよ」
「ご、ごめん……」
もっと冗談めかした口調だったら、僕だってさほど意識しなかっただろう。あえて2人になれるときを狙って、こっそり相談されたような気がして、心臓が早鐘を打ち始めていた。
僕は霊の存在を否定するタイプではないけれど、そもそもユウマは霊ではないし、これに関しては惣一の勘違いに違いない。ただ『ユウマがいるなんてことがあるはずない』と言っていいものか、よくわからなかった。惣一を否定してしまうような気もするし、そもそもユウマの存在を創り出したのは自分だ。自分に合わせてくれた惣一に申し訳ない。
「えっと……」
僕が返答に困っていた時だった。
「どうしたの?」
僕の後ろから声が聞こえ、突然のことに少しだけ体がビクつく。すぐに楓の声だと気付いたけれど、僕以上に惣一の方が驚いているみたいだった。
「な、なんでもないよ……まだ撮ってない場所あるかなって……」
惣一は慌てた様子でそう告げる。つい流されるように僕も頷いていた。
「賽銭箱の辺りは撮ってないけど、そういう場所は防犯カメラとかあったりしそうだよね」
「そう、だね……あんまり変な場所撮りすぎて、賽銭泥棒みたいな疑われ方したくないし……そういう場所は離れたところから撮るだけにしよう……撮ってくる」
そう言うと、惣一は僕と楓に背を向け賽銭箱が撮れそうな位置へと向かう。
「……楓は、なにかあった?」
「ううん。なにもないんだけど、惣一は霊感あるからさ。なにか見つけてミコトに話してるのかなって思って」
「そっか。僕達は霊感ないし、とりあえず写真撮っておこう」
「それじゃあボクもユウマと他の所見てくるね」
「うん」
僕に背を向け去っていく楓を見送る。楓は惣一みたいに変なことを言うこともなく、僕達で決めたルールに則ってユウマをいるもののように扱っていた。もしここで僕が楓にユウマの存在について聞いたとしても、いると言われて終わりだろう。存在を疑わないこと、そういうルールなのだから。
僕は1人境内を歩く。歩きながら惣一のことを考えていた。どうして楓に嘘をついたのか。本当にユウマがいるような気がするって、わざわざ隠すようなことでもない。存在を疑いルールを破っていることに後ろめたさでもあるんだろうか。
結局、惣一に合わせて話を切り上げてしまったため、まともな返事はしていない。けれどもし、惣一が本当に『ユウマがいる』ように思うなら、一体どういうことなのか詳しい事情を聞いてみたい。みんなの前で話せないのなら、また2人になったときにでも。
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