第3話 幽霊部員
「いることに……?」
いったいどういう意味か、兄さんに聞き返す。
「幽霊部員を作るんだ。ちょっとした遊びだよ」
幽霊部員を作る。すぐには兄さんの言っている意味がよく理解できなかった。すると兄さんが補足で説明してくれる。
「部を作るための申請書とかあるんでしょ。入部希望者の名前を5人書かなきゃいけないみたいな」
「うん」
「それにいまいる4人のメンバーと、もう1人架空の名前を書く。でもバレちゃいけないからね。その子がいるように部活動するってこと」
兄さんの言わんとしていることをやっと理解する。ただそれを実行していいとすぐには思えなかった。
「それって大学をだますってこと……? さすがにまずいんじゃ……」
「そうだなぁ、部費は厳しいか。でも部に昇格して部室をもらうくらいなら、いいんじゃない? 例えば入部届けが掲示板に貼られてて、会ったことはないけどメンバーとして受け入れた……とか。どうにでも言い訳出来るよ? その場合、仮にバレたとしても、自分達じゃなく誰かの悪戯だったみたいって言い張ることもできるし」
「うーん……」
戸惑う僕に気付いてか、兄さんは笑いながら僕の髪を指で梳く。
「ミコトはいい子だから、そんなことは出来ないか」
「別に、いい子ってわけじゃないけど……」
「ごめんね。変なこと言って」
「う、ううん。僕がメンバーが集まらなくて愚痴っちゃったから……」
「でも、遊びとしてはおもしろいと思うよ。オカルト的でさ」
「オカルト的?」
「いない人をいるものとする遊び。大学側に提出はしないにしても、部活動……同好会の活動として、楽しめるんじゃないかな。そういうの、ミコト好きでしょ」
確かに兄さんの言う通り、それはちょっと楽しそうだと思った。
「明日、みんなに提案してみようかな」
「うん、そうしなよ。それと……今日は少し久しぶりに遊ぼうか」
「遊ぶって……」
僕の髪を弄んでいた指先が、僕に触れたままゆっくりと下降していく。僕は頷いて、兄さんと一緒にベッドへと向かった。
翌日放課後、いつものように空き教室でオカルト同好会のメンバーと集まる。そこで、僕は昨日兄さんに提案された遊びをみんなに伝えることにした。
「いない人をいるものとする遊び……か。うん、結構おもしろそうだな」
真吾が一番初めに食いついてくれる。おもしろそうだという言葉に嘘はないようで、表情からもやる気が見てとれた。
「でしょ。5人集まるまでの期間限定でさ。そんなに難しく考える必要ないんだけど」
「いつかその架空の存在に、なにかが宿るかも……」
惣一は、この何気ない遊びをオカルトチックに捉えてくれていた。
「あ……そういうの怖かったりする?」
惣一は、ぶんぶんと首を横に振ってくれる。どうやら乗り気のようだ。
「すごくオカルト部の活動っぽい」
「よかった、そう言ってくれて」
最後に、みんなでいるときは比較的口数の少ない楓の方へと視線を向ける。
「ボクも、みんながいいならしたいな。ボク達で魂を宿らせられたら……」
「魂を宿らせることが目的なのか?」
真吾に問いかけられ返答に迷う。
「えーっと、そういうつもりはなかったんだけど……そう思って取り組むのも悪くないかも」
「それもそうだな」
真吾の柔軟な対応に内心ほっとする。後ろ向きなメンバーは誰一人いなかった。
「それじゃあ、どんな子にするか決めよう! 新しく部員になって欲しいメンバー像とかあるかな」
僕はルーズリーフを取り出し、メモを取る準備をする。
「まず男ってのは決まってるだろ。それと……先輩よりは1年か」
「先輩だと少し気使うもんね……。あ、そうだ! 真吾、絵描ける?」
「おう、任せとけ!」
ルーズリーフとシャーペンを真吾に手渡す。
「どんな男が好みだ?」
何気ない真吾の発言を耳にした瞬間、体が強張る。深い意味なんてないと解かっているはずなのに、過剰に意識してしまい、僕は逃げるように惣一に質問を振った。
「惣一は、なにかある?」
「いざ考えるとなると難しいね……。みんなの平均値……とか」
なにも疑うことなく答えをくれた惣一にすぐさま乗っかる。
「それいいよ、惣一! 僕と楓はちっちゃいけど、真吾は大きいし……惣一も、結構身長あるよね。平均は……170くらいかな」
身長、体格、見た目など、僕達の平均を出していき、1人の人物が出来上がっていく。
「平均だけあって、あんまり特徴ないな……」
「でも想像しやすいね。真吾がこうして絵にしてくれたし」
真吾の絵のクオリティはなかなかのものだった。ルーズリーフに、好奇心旺盛でオカルト好きな性格であると書き足しておく。これは、平均を取るまでもなく、おそらく僕ら全員が持ち合わせている性質だ。
「最後に名前……どうしようか。楓はなにかいい名前思いつきそう?」
「うーん……幽霊部員だからユウ……とか。未確認生物ってことでユウマなんてのもありかな」
「ユウマっての、いいんじゃねぇか?」
楓の提案に真吾が乗っかる。
「そうだね。僕もそれでいいと思う。惣一は?」
「うん、オカルトらしくていいんじゃないかな」
さっそく紙にユウマの名前を付け足す。
「それじゃあ今日から、オカルト研究同好会はメンバー5人でオカルト部に昇格! あ、僕達の中でだけだけど……部室は……いつも空いてるし、ここってことで」
夕方以降使われているのを見たことがない西校舎の隅の教室。少し古くモニターなどもないため、そもそもこの教室が使われる講義自体少なそうだ。
「なんかオカルト部らしくなってきたな……」
惣一の言葉に、真吾が大きく頷く。僕が望んでいたオカルト研究部が、徐々に理想の形へと近づいていくのだった。
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