ウチの家のヤバイやつ
入学式が終わり、やっとあの環境から解放された俺は家に向かって足を進める。
隣の席が吉瀬になった事は未だに奴の運を恨んでいるが今それをどうこう思ったところで仕方が無い。結局俺の要望はまた先生のプリチィースマイル(策士)の効果によって阻まれてしまったのだから。
そして肝心の吉瀬には『また明日、学校でな!』とか爽やかな笑顔で言われたがもう奴と関わる気なんて毛頭無い。今度はもっと手薄に対処するのだから。
学校を出て最寄り駅に向かって行くまでの間にある店などにも目も触れずそそくさと歩いていく。信号以外のあらゆるモノを無視して最寄り駅に到着するとちょうど来ていた電車の人の少ない車両に乗り、空いてる席に座って静かにスマホを弄り始めた。
これが現代人の在り方らしいので今になってこうして見ただけなのだがあんまり人に合わせるのは良い事って訳でもなさそうだ。特にこの今の現代人の在り方という奴も。
そんな奴等の事をよくスマホ中毒者とか言うらしいのだが自分の場合はもうスマホ信者レベルである。というかもう信者だ、正直スマホ抜きの世界とか死ねる。何せ暇潰しにゲームアプリをしているのにそのゲームアプリが余りにも忙しいのでそれの為に徹夜とかしてしまう馬鹿なのだ。
その為ゲームアプリ本来の暇潰しの役割が果たされてなく本末転倒なのである。
だが上には上がいる。これ以上のスマホ中毒者も普通に存在する。最も、そのレベルになるともう完全に家から出ないんだけど。
中学の時でも授業中とかにでもこっそりスマホを弄っている連中をよく見かけたが、ふと気になった事があった。
そこまでして彼等は何をしているのだろうか?と。
答えは人それぞれだ。
何と無くその時間が暇だと思ってしまうと連中はスマートフォンという代物を操作してしまうのだ。彼等は己が授業中にやってはいけない、弄ってはいけないと理解しても思わず弄りたくなってしまうのだ。
ちょうどゲームアプリのスタミナが溜まった時や偶然に時間制限のミッションが配信されてたり、偶々友達からSNSなどが来ていたりだ。
それはそうとして
「うっ、少し気持ち悪くなったな」
改めて周りの座ってる人達を確認してみると自分の居る電車の車両に居る人達のおよそ八割が自身のスマホを開いて弄っている。
たまにこの光景が怖くなる。まるでコイツらは別の生き物なんじゃないかと。老人だったり、年の離れた奴らが見たら尚更そう思うのではないか?
ついこの間で言えば生後まもない赤ちゃんがスマホを弄っていた光景を見た時には恐怖すら感じた。人類は既にもう自分の知らない何かに変わってしまったのではないか?と。
にしてもコイツらよく酔わないな、世の中に適応し過ぎだろ。変化が凄いと言えどもここまで適応してしまう人類って怖いわ。むしろこれは退化なのかも。
再びスマホの画面に視線を戻すと、そこには今までしてたゲームアプリの勝負が終わっていて既にゲームオーバーの文字が表示されていた。
「あっ、負けてら」
その後同じゲームアプリの遊びを何回かしていると電車はいつの間にか自分の降りる駅を過ぎている事に気付く。
「あっ、電車乗り過ごした」
俗に言うあるあるネタである。
駅に到着して電車から降りて改札口を出ると、自転車に乗って家に帰って行く。別に駅から物凄く遠いわけではないのだが、なんとなくここから歩いて家に帰るのが面倒なだけで自転車を使っている。
外の空気が澄んでいるなんて事は無く、あるのは道路沿いから蒸し暑い自動車の排気ガスが顔を思いっきり気持ち悪い程にボワボワと包むだけ。
身体に悪い事この上ないのでここを通る時はいつも出来るだけ息を止めながら帰っている。
「だが、今日はチャリだ!存分に駆け抜けてやる!」
とか調子に乗ってるとすぐに事故になりそうな気がするので自重して安全運転を行って通過しました。
★
俺の家は一軒家だ。三階建てからなるその家は一軒家としては普通より少し大きいくらいの家で立地としては悪くはない。両向かいに同じ一軒家があるものの、困っている事はあまりなく、暮らしにも満足している。
自分の地元に関しては普通で田舎という事はなくて決して都会過ぎる事もない。それが住んでる街のイメージだった。
「ただいま〜」
鍵を開けて家に帰るといつもの見慣れた光景が目に入ってくる。
「おかえりふーくん」
「ただいま」
いつも一番最初に話すのは心優しい小さな母さんからだ。大体いつも家事をしている事が多くてそうじゃない時はリビングにあるソファに座ってクッションを抱きしめながらホクホクとテレビを見ている。可愛らしい母さんだ。
「なんか失礼な事を思ってない?」
「小さいのに頑張ってるなーって」
「もうー!小さいって言わないで!でもそうよ、ママは頑張ってるんだから!」
「偉い偉い」
「えへへ〜」
頭を撫でるのには弱いのか、いつもこうすると母さんは笑顔になる。かわいい。ハッ!
「事案が発生しそうな気がした」
「何言ってるの?オヤツあるからこーちゃん達呼んできて」
「分かった」
言われた通り、リビングを移動しようとするとそれを止める他の家族がいた。
「あ、颯太!頼むよ〜俺の先輩との飲み会断る良い方法教えてくれないか?」
隼徒お兄様だ。この言動通り、流石に“さすおに”とは呼べないが。
「ニート候補生って言われるぐらいの暇人集団(大学生)なんだからそれは流石に断れないな」
いつもならすぐにツッコミが帰ってくる筈なのだが、どうやら本気で悩んでいるらしくて俺に手を合わせて頭を下げてくる。しかし俺が協力するつもりは全くない。
「そこを何とか!」
「大学を辞める?」
「それはダメだろう。というか、そこまでしなくてもいいし」
「サークル辞める?」
「行っては無いけど、就職の為だしな〜」
此奴め、そんな誰もがやってるようなズルイ戦法を。おのれ、姑息な手を………
「とは言っても俺まだ高校生だしなー」
俺は何となく答えるのが面倒だったから高校生という理由を盾に言い逃れをしようとするが、それに対してお兄様は立ち上がってグッジョブを俺に向けてくる。
「大丈夫!颯太はいつも人から避けられるのは一流だから!」
「お前張っ倒すぞ」
つか理由になってねぇだろそれ。今ので完全に協力する気失せたわ。
「なー頼むよー。オナシャス!」
「ん?今なんでもするって言ったよね?」
「言ってないなー」
ここはソワソワしてる兄に対して変な期待をさせないようにやんわりと断っておこう。
「じゃあ考えるのを考えとく」
「オイ、それってYO!」
「悪いが力になれん」
「(´・ω・`)そんなー」
結局兄とネットスラングを言い合っただけで会話を終えるとそのまま階段で上の階に登っていくが上がった先にはこれまた他の家族が、まあ目的の人物だったんだけども。
「あっ、フウ兄だ!おかえり〜!じゃあ今すぐ一緒にゲームしようよ」
弟の広太である。最近になってからよく構って来ている。
「いきなりかよ、せめて準備くらいさせてくれよ。あとお母さんがおやつだから来るようにってさ」
「うん分かった!じゃあ食べ終わって準備したら部屋でね」
別に了承はしていないんだよなー。
「あ、オイ!ちょっと待て、お母さんが下でおやつ用意してるぞ!」
「え、ホント!?じゃあ行くー!」
おやつに影響された広太は部屋から勢いよく出て下に降りて行ってしまった。
うちの家族には兄弟姉妹が居る。ちゃんと文字通りの意味で少しばかり人数は多いのだけれども。
順に説明していくとまず俺の親は父親は血が繋がっている。だが母親は俺と血が繋がっていない。
つまりは二人目の母親という奴なのだ。
一人目の母親は俺が四歳くらいの頃に病気で亡くなったのだが、おとっつぁんは俺がとても傷付いているのではないかと思って新しい母親を作ったのだ。別にそうとは思ってはいなかったのだけど。
だから再婚した後から少したった時の夜中に夫婦の寝室ベットの上で『君を一番愛している』とか言いながら腰を激しく振ってセクロスしていたのは記憶に新しい。かなり衝撃的だったのを覚えている。トイレに行く途中だったのが仇になった。
オイ親父、前妻はどうした?前妻は?
ちなみにこれは余談ではあるが、この"自主規制''によって俺の弟が産まれた。
その兄弟関係だが兄と姉は義理の家族にながそんな事も気にせず二人は優しく俺に接してくれる。実に面倒見の良い優しい人達だ。
だが敢えて言わせてもらうと兄はもうただの友人で、姉は幼馴染のような感覚である。向こうからするとそれは違うらしいのだが。
妹、今は居ないが最後に弟、先程に説明した父親と母親との激しい愛の育みよって産まれた子供だ。俺とは半分血が繋がっている為に従兄弟にあたる。一応本人も知ってはいはみたいなのだが兄として見ているみたいなので問題にはならなかった。
そんな事を振り返りながら部屋を開けると後ろから実はひっそりと近付いて来る家族がまた一人。
「ふーうーたっ!」
後ろから抱きしめて来る姉の神近美織だ。黒髪の腰まで掛かりそうなベリーロングヘアーのストレートで、浮世離れした美しさを持っている。
歳は俺の一個上の十六で高二。学校での成績は常に上位の特に勉強もしてないのに出来るタイプの天才脳で、運動神経も手を抜いていて底が知れない程に抜群である。
うん普通に頭脳明晰、スポーツ万能って言っとけば良かったわ。
とにかくさっきの兄とは大違いだ。さすおねの称号を与えとくよ。流石です、お姉様!
「ミオ姉、苦しい」
今の状況は後ろから乗っかるように抱きつかれているが、いつもこんな感じで何かしら絡まれるので迷惑してたりもするので諦めてくれるように説得を試みる。
「俺達もう高校生なんだからさ、こんな事しないでくれよ」
「イイじゃん別に。私、颯太の事大好きなんだから」
そう、ミオ姉は俺の事が異性として好きらしい。実際のところ過去に告白もされてて最近は貞操を守る生活をしている。だが俺は自身は付き合う気がないから断ってるんだけどミオ姉は全く諦める気がない。
「ハイハイ、俺も大好きだよ。姉弟としてだけどな」
「またそれだー」
「だってそれは前に『待つんだ!俺たちは姉弟だぜ?』って、俺が言ったら『私達は血が繋がってないんだよ?だから大丈夫!』ってミオ姉が言ったんじゃん。やだよ」
「逃げなきゃいいんだよ」
「逃げてもいいだろ」
「逃げるのか?」
「逃げるんだよぉ〜!」
「逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!」
「悪いがここは逃げさせてもらおうか」
「逃すか!ふーたー!」
「アバよ!姐さん!」
くだらない言い合いに痺れを切らしたのかミオ姉はむー!と言いながら頰を膨らませてきたので俺はミオ姉の頰を指で押して空気を押し出す。くっ、かわいい。この姉やられるの分かってて顔を既に近づけてた。
「もう!こんな事やっても仕方ないでしょうが!さっさと観念しなさい!」
「嫌だよ。俺忙しいし」
特に用事も無いけど面倒なので嘘を付くとメグ姉はサングラスを素早く装着してメモ帳とペンを速攻で取り出す。
「それで、この後の颯太の用事は?」
「すみません。ウチ、プロデューサーは募集してないんですよ」
神近家のいつもの日常だ。
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