所詮自分は引き立て役


  吉瀬とのやり取りを見てかクラスの女子が急に俺に話し掛けて来た。何故話し掛けてのかは分からないが、女子と話した事が殆どない俺は完全にポンコツと化してしまった。


 取り敢えず先程の吉瀬を第一ラウンドとして、第二ラウンドはさっきより更に簡略化した話をして俺は話し掛けて来た女子からさっさと退散した。

 恐らく、会話の返事は『ああ』とか、『そうだな』くらいしか言ってない。こんな意味不明な気遣いをしたのはおそらく、いやかなり久しぶりだ。


  俺は心を落ち着かせた後、周りのクラスメイトを見渡す。改めて見たクラスメイトはみんなイケメンや可愛い子ばかりでここに来る前より気が重くなった感じがした。


  「なんかクラスメイトみんな美男美女ばっかだな。俺、明らかに来る場所間違えたな」


  「ん?何が?」


  おっと、小声で少し声が出てたみたいだ。けれどまあ、このクソイケに聞き取られなかったならそれで問題ないが。

  だが、そんな考えが自身に響いたのか担任の先生が来るまで気不味い雰囲気なってしまった。



  おかげで俺ってば寝ているフリしか出来なかったZE★



 だから頼むから吉瀬君よ、そんな俺を無理矢理起こそうとしないでくれ。




  俺のクラスの担任の先生は何と新任の女教師だった。新任という点にも驚いたが、担任がやはり女だったところもとても驚いた。しかも大卒のいきなり教員採用されたオプション付きである。

  更に俺らと歳が少ししか違わないなんて、もはや先生ルートが出来るのは確実ではないかと頭を抱えて悩んでしまう程だ。

  まあ、もしも俺に恋愛というものが出来るのであればの話だが。最も近い将来の自宅警備員候補には超高難易度の所業である。どちらにしろ俺には全く関係のない話なんだけども。


  その後俺たちは出席番号順に並び体育館まで移動して面倒な校長の話や面倒な校歌、面倒な出席確認と面倒な直立をさせられた。


  うちの高校は一学年に普通科の八組と特殊な科が四組程ある。一クラスは四十人くらいで構成されている。校長の面倒な話は同じ話を何度も繰り返していたが、学年全体の出席確認は学年で約五百人程居たのでとても面倒だった。

  ちなみにこの時程、日本が少子化って嘘やろ?と思った事はない。



  そして現在、俺たちは教室に戻って役職の取り決めをしていた。クラス委員はもちろん人気が無くて今は代わりに先生が司会を進めている。


  きっとクラスのみんなは面倒な事はやりたくないと思っているから無難に植物係や施錠を選んで来るだろう。 でもそれはみんなが思う事なので倍率も物凄く上がる。だからそれだけは避けなければならない。

じゃあその他にマシなの物をと探すのだが中々そんな物はない。


  だが!俺は消灯や植物係と同じくらい楽な役職を知っている。というか普通はみんなやりたがらず、更にその役職が何かも分からない物である。それは委員会の中にあってみんな絶対に注目しない。


  そう、それは選挙管理委員会だ。


  選挙管理委員会は本来、生徒会の選挙の為だけに存在していて、ウチの生徒会の選挙は十月の中旬にある。だから実質行動するのは十月の中の数日だけであって、後は委員会活動の時は集合の挨拶だけで終了する。


  なんと素晴らしい役職なのだろうか。


  担任の先生が上手くやって行った為、整備委員、保険委員と次々に決まって行く。

  そして、遂に選挙管理委員の順番が来た。


  「じゃあ、次は選挙管理委員ですけど、誰かやってみたい人はいますか?」


  とうとう待ちに待った俺の場合が来た為、俺は手を軽く挙げる。しかししっかりと伸ばしてヤル気をアピール。

  それを見て先生は物凄く喜んだ顔、完璧。


計 画 通 り


  「あぁ!選挙管理委員やってくれるんですね?ありがとうございます!じゃあ、選挙管理委員はコレで決まりですね!」


手を合わせて何回か軽く膝を曲げながら喜ぶ担任の先生。


  かわいい。


  ん?てか今、先生。コレで決まりって言って無かったか?


  軽く体を後ろに向けて周りを見ると、ふと俺に向かって手を軽く揺らしながら話し掛けてきた奴がいた。


  「やあ!同じ委員会になれたね!これから宜しく!」


 「…………」


  まさか吉瀬と一緒になるとは思わなかったな。


  「チェンジで」


  『えっ?』


  唐突な俺の発言にクラスのみんなが疑問符を浮かべる。ここは俺の棒演技を見せてやろうではないか。


  「先生。俺、やっぱり選挙管理する委員なんて気が重くて出来ません。ここは辞退させて頂きます」


  「イヤイヤ。今、人の顔見て言ったでしょ!?酷くない⁉颯太!」


  当ったり前だろうがよぉ!テメェみたいなのと接点なんて作ってたまるかよ!つーかいきなり名前で呼ぶとかさっきから本当に馴れ馴れしいからなお前?


  「そそ、そんな事無いに決まってるじゃないか吉瀬君。ただ、なんとなく。なんとなーく、俺には向いてないかなと思っただけなんだよ、多分」


  「遠回しに酷い拒絶反応を示されてる気がするんだけど!?」


  「そんなの決まってん……じゃないかな?そんな事はないよ?」


  ウェイ、危ない。つい本音が出るところだったわ。


  俺の突然の変更の要望に戸惑ってしまう先生だが、少し考え事をする仕草をした後で俺に説得を試みる。後ろで『いや、今の絶対言おうしたよね!?ねぇ!?』とか言ってる奴は無視だ知らん。


  「ダ、ダメですか?ホントに変えちゃうんですか?」


 先生が見つめるは俺の瞳、俺の目が見るは吸い込まれる胸の誘惑。ここで手を出せば犯罪者の仲間入りだぞ。耐えるんだ変態。


 このままではいけないと、バレない様にふと視線を上に上げてみる。


 「あ………」


 心を浄化された。後ろに何か、オーラが見えた気がした。


  「いや、何でもありません。今のお話は無かった方向でお願いします」


  「颯太!絶対に今、先生の態度で変えたでしょ!」


  「そんなことがある訳ないじゃないか吉瀬君。俺は吉瀬君の善処ある御行為に飲み込まれ、溺れ、甘えただけだよ?」


  「アハハハハ、そうかそうか。なんか上手く丸め込まれた気がする」


  しかしその後の係り決めは驚く程に順調に決まって行った。あのクラス委員でさえも立候補者が多数出て演説をし合うあまりだ。きっとこれは先生の可愛さのおかげだろう。


  今はクラスメイトの個人の自己紹介をやっていて、俺は担任の自己紹介を楽しみにしていた。何でも、先生は恥ずかしがっていて自己紹介は最後にやりたいとの事だそうだ。流石は先生だ、かわいい。

  俺は先生の自己紹介が楽しみ過ぎて他のクラスメイトの自己紹介は全くと言っていいほどに聞いてなかった。


  とりあえずはテキトーに前の人の言い方に合わせておけばイイだろう。そんな俺の浅はかな思いはいとも簡単に打ち砕かれた。


  「大垣健太です。中学の時は陸上部をしていました。好きなものはスカしたイケメンで嫌いなものはイケメンです。何でも気軽に話して下さい、よろしくお願いします」


  前の人は冗談混じりの良い自己紹介を披露する。


  おいおい、何だその自己紹介は。そんな自己紹介やったら俺どうやって自己紹介すりゃいいんだよ。

  つーか、イケメンが嫌いってなんだよ?お前もイケメンじゃねぇかよ。そして好きな物がスカしたイケメンって完全にマウント取ってディスる気満々だろコイツ。


  そんな事を考えていたら先生から俺に呼び声が掛かる。


  「じゃあ、次は神近颯太君。自己紹介お願いしま〜す」


  落ち着け俺、過去同じ思いなんて繰り返す訳にはいかない。かつて、中学校の事故紹介だけは何としても避けなくては。


 そう、かつての事故紹介。俺は名前だけ言って終了していて、そのお陰で誰からも関わられる事がなかった。


  教卓のまでの机と机の道を静かに通ってクラスメイト全員の視線を貰うであろう場所に立つ。

  俺は今までにかつてない程までの緊張感を纏いながら口を開く。


  「神近颯太です」


  つい終わりそうになるが、ここで話を止める訳にもいかないので俺は話を続ける。


  「中学の時は部活は入ってませんでした」


  ほぉら!先生が苦笑いしちゃったじゃないかぁ!クラスのみんなも顔引き攣っちゃってるし。


  「これから一年間よろしくお願いします」


  とりあえず自己紹介は話せたが、クラスの雰囲気は冬場並みの空気感に変わる。そして心の中では教台に立ち尽くしたまま口から血を垂れ流す俺が居た。



  ………誰も拍手してくれない。



  「ハッ」



  誰か今、俺の事嘲笑ったよね!?流石にその仕打ちは酷くないか⁉このままだと教台が断頭台に変わるぞ。


  「は、は〜い!じゃあ、次の人。吉瀬君、お願いしますね」


  どうやら先生が自発的に気を使ってくれたようだ、一先ず俺は死なずに済んだ。いや死んたかもな。


  「はい!」


  俺の救済の為に先生に呼ばれた後ろの奴、吉瀬はすっと立ち上がりキビキビと歩いて教卓まで行った。


  「吉瀬修夜です。中学の時は同じく部活は入ってなかったんですけど、代わりに部活のサポートによく呼ばれていました」


  この絶妙な言い方、絶対に一度も参加した事ないな。最近の流行を取ってるイケメンは部活とかそういうのはやらない主義なのか?


  「好きな物は運動で、嫌いな物は特に無いですねっ!」


  コイツのイケメンニコニコスマイルがさっきからほんとにウザイ。そんな優しく笑顔が出来るならスマイルが無料で頼めるハンバーガーの店でバイトでもしてろよ。

  今ならイケメンニコニコスマイル特待生の優遇付きで採用されると思うぞ?なんならそのまま社員なって更に昇格するレベルで。


  「知人からは自分を動物に例えるなら狐って言われます。これから一年間よろしくお願いします!」


  ああ、確かにお前は狐みたいだと思うぞ。いい知人を持ったな。いつかその化けの皮を剥いでやるよ。


  吉瀬の紹介が終わった後、普通に何も変わるような事はなくクラスメイト全員の自己紹介が終わり、最後に先生の自己紹介で締めたそうだ。


  先生の名前は浮賀美咲先生といって現在彼氏は居ないらしい、だが気になる人は居る模様。ちなみにこれはクラスの男子生徒が質問して分かった事である。

 まあ、らしいというのは俺がその時に思いっきり寝てたからである。吉瀬の自己紹介が終わった後に不貞寝してたらどうやら本当にそのまま寝てしまったようだ。


  なので自己紹介が終わり、目が覚めた時には時間が余ってたからオリエテーションを含めた遊びをするか席替えをするかを先生が提案していたのだが、予測通りというかなんというかクラスの団結力というか全員が席替えを選んで勿論俺もそれを選択した。

  ま俺の場合は後ろに居る奴から離れたいだけなんだがな。


  席替えはクジ引きで完全に運の勝負だ。若干の仕込み要素があると一変するのだけど。

  俺の引く順番はちょうど中間で俺の離れられたい奴はすぐ次の番だ。そしてそこが二人連続で近くの席になるなんて限りなく可能性が低い。


  「この勝負、俺の勝ちだ」


  「えっ?何に?」


  お前との、腐れ縁にな!


  「いや、何でもないよ?それよりさっさとクジ引きやろうぜ!」


  「なんでそんなに笑顔なの?なんかそんなに良い事あったの?」


  「いや全然!俺は生まれてこの方ずっとこんな顔だぜ!?」


 へへへ、貴様から離れられると感じると思わずヨダレが出るわ。


  「嘘だよね!?なんかそれ絶対に違う気がするよ!」


 各クラスメイトがクジの結果で喜んだり悲しんだりしている光景を眺めながら必死に胸の高まりを押さえ付ける。

  そしてついに!とうとう俺に順番が回ってきた。これで長くから祈ってきた念願のあの忌々しい奴とも今日でおさらばだ!


  ※ 彼には遭遇してから一日どころか六時間も経ってません。


  クジ引きはクラスの出席番号順に引いて行ってて、今はそれぞれ数の若い順の人から席がどんどんと埋まって行った。

  俺の出席番号は二十七番だったのでクジ引きを引く順番としては少し長いようにも感じられた。席は前の方が先に引いた奴らの犠牲もあってか、結構埋まっている。

 良し、これなら行けそうだ。


 教卓に向かった俺はクジを引き、その番号を確認する。


 俺が引いたのは三十六番だった。


  「よっしゃぁあ!!!キタァァァァ!」


  思わず声に出してしまった。

  クラスメイトからは『あの席っていい席なのか?』とか『何?アイツ?馬鹿なの?』とか言われてるけどそんなのどうでもいい。

  俺はついに!離れられたのだ。吉瀬修夜という重要指定危険人物から。


  ちなみに俺の席は前と後ろには埋まっていて奴の空きいる場所はもう無かった。


  これで、これでやっと俺の新しい高校生活が始まる!


 イケメンという呪縛から解放された俺はそのまま喜びに浮かれていた。


  「あ!俺、三十五番だ」


 その次である彼の声が聞こえて急に意識を戻す。嫌な予感がする中で俺は黒板に書いてある座席表を見て唖然とする。


 確かに俺の周りは既に他の人で埋まってはいた。だがそれは、残された俺のただ一つの空いている左隣である三十五番を除いての話である。


  「俺、颯太の隣だ。やったぜ!」


  本当に馴れ馴れしい。出会った初日で俺の名前を呼ぶとか本当に憎たらしい。

  奴の日本語が全て嘲笑に聞こえてくる。



  ヤツガオレノトナリニクル。



  そして奴はまた当たり前かのように俺の目の前に来て話掛ける。


  「やったね!また近くの席になったね!これで前より話が出来s「先生〜。俺、実はとっても目が悪いんで前の人と交換してもイイですか?」ちょっ!颯太!?」


 イケメン呪いの執念は、やはり深い。

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